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神託の転移者  作者: 百矢 一彦
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魔道具展示場


 「そんな訳でしてね、あの子はいまだに魔力が強い人を見ると悪人じゃないかと疑ってしまうんですよ」

そうジェラールがユーゴにすまなそうに話してくれた。


 閉ざしていたアイーダの心を開いてくれたのは、自らの道具類への創意工夫だったそうだ、

協会の花壇の為に如雨露じょうろを作り、子供たちの食事を運ぶための車付きのワゴンを作る、

それを見て喜ぶ子供達や、修道女達の笑顔が徐々にアイーダの心を溶かしていった。


「私は、孤児院に利発な子がいると紹介されましてね、正直、初めは同情心からあの子を引き取ったんですよ、ですが、あの子が作る道具類と、それを作り上げた時のあの子の笑顔を見ていたら、いつの間にか私にとって無くてはならない存在になっていました」

心から愛おしそうにアイーダを見てジェラールは言う。

いつの間にか、笑顔でみゆき達と話すアイーダには暗い影は見当たらなかった。

それでもジェラールの話を聞いたユーゴは、その笑顔の向こうに切なさを感じてしまうのだった。



その後、アイーダが案内役を買って出て、スパンク王国の大型船の止まっている港に魔道具の展示会に行くことになった。

アイーダと、みゆき、カークは、いつの間にか意気投合していて、親しげに会話するようになっていた、

だが、ユーゴだけにはアイーダはよそよそしかった、まあ仕方ないかとユーゴは三人の後ろを保護者の様について歩く。


見えてきた大型船は、想像より大きかった。港の桟橋には直接接岸できず、ちょっと沖目に停泊している。

前の世界でタンカーなどの大型船を見知っているユーゴだが、木造船でこれほど大きい船だとは思っていなかった、おそらく大航海時代の帆船より大きいだろう。

形も普通の帆船とはちょっと違っていた、帆を張るマストは付いているものの、船の大きさに比べると小さく感じる、アイーダの説明によると、水の魔石を利用した推進装置が付いているそうで、風の弱い時はそれで推進する事が出来るハイブリットのような作りなのだそうだ。ただし、魔石は貴重なので通常は風を利用する事がほとんどらしい。

乗船するには、小型ボートで近づくしかなく、忍び込むのは至難の業のように思えた。


港の倉庫の一角に、様々な魔道具が展示されてる場所があった、

スパンク王国が、自分の国の魔道具を売り込むために作った展示スペースだ。

そこには、船乗りに混じって、いかにも商人という風体の男が数人魔道具を売り込むために陣取っていた。


アイーダは、みゆきとカークに小声で、

「私、あの人達、あまり好きじゃ無いのよ、まともに受け答えしなくていいから」と言っている、ユーゴの方もチラッと見たが、別に何も言ってこなかった。

アイーダは近寄ってくる商人を「私が案内しますから」と言って手の平を向けておさえて、さっさと中に歩いて行く、商人はちょっと面白くなさそうな顔をしたが、こちらを見ると、どうぞどうぞと笑顔で奥に入るように促していた。


様々な魔道具が並んでいる、小さな台所用品から農作業や林業に使う物まで、成程と思わせるものもあるが、ユーゴの目にはそれ程目新しい工夫がされてる物は無かった、強いて言えばトロッコがあったのは驚きではあった。

アイーダがみゆき達にしてる説明によると、そのトロッコを風の魔石で動かすシステムを開発中なのだとか、実現すれば確かに便利ではあろうとユーゴは思った。

しかし、違和感が募った、どうしてこんな物に魔石が必要なのか、と思う程、ほとんどの物に魔石が使われている、

例えば、水車を使えば済むだろうと思われる川などから水をくみ上げるシステム、脚踏み式にした方がパワーがあるだろうと思われる脱穀機、魔石を使うには魔力を注ぎ続ける必要がある、どう考えても非効率的だった。


船などからの荷物の積み下ろしには、普通に滑車を使っている、クワなどを使っているのだからテコの原理も理解しているはずである、なのに手漕ぎ式のトロッコの発想は無いようだった。

生まれた時から魔力と魔石に囲まれ、魔法を普通に使える環境だと、こう言う事になるのかなとユーゴは頭を掻きかき魔道具を見る、

魔力が科学の発達を妨げているのは間違いなさそうだという印象を持った。

この世界で蒸気機関が発明されるのは、かなり先か永遠に無いかもしれない、そんな事を考えていると、アイーダがチラチラとユーゴの様子を窺っているのが判った。

「魔力が強い人から見たら、くだらない物ばかりかもしれないけど、これは魔力の弱い者にはとても便利なのよ」ちょっと不安気な表情でユーゴに言って来る、

「ああ、それは判ってるよ」そう答えると、なぜかアイーダはビクッと跳ねた、どうやらまだ警戒されているらしかった。


奥の方に銃火器のコーナーがあった、様々な大きさの銃、攻城用に使えそうな大砲、弾丸の代わりに銛が発射できるようになっている大砲など、想像以上の種類だ。

これは、確かに生半可な魔法より威力はありそうだった、なるほど使い方次第か、確かにな、ユーゴはイストの町の酒場にいた男の言葉を思い出していた。


又、アイーダがチラチラとユーゴの様子を窺う、

「何か言いたいことがあるのか?」そうユーゴが言うと、

アイーダは意を決したようにユーゴに聞いてきた。


「本当に、人をカエルに変える事が出来るの?」


「・・・・・・」


へ?、おまえは、ずっとそれを気にしていたのか。




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