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神託の転移者  作者: 百矢 一彦
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アイーダ4


 三台の馬車に分散して、子供達と冒険者たちは村を後にした。

山を下って平坦な道が続くようになる頃のは、白々と夜が明けてきていた、子供たちは疲れ切って馬車に揺られながら眠っている。

アイーダがふと目を覚ますと、麓の町に行くいつもの道と違う道を馬車が走っている事に気が付く、その事をイリスに聞くと、

「あなたたちを保護できる大きな町に行くには、この方が近道なのよ、あなたは気にせず眠っていなさい」と優しく教えてくれた。


 途中、遅い朝食と昼食を兼ねた食事休憩をする。

子供達は、命の恩人である冒険者たちの手伝いを健気にすると、冒険者達も、お前たちがお利口なんで助かる、と笑顔で答える。

親がいなくなった不安を、なんとか打ち消そうと子供達は後片づけも率先して手伝った。


そして、陽が沈み始めた頃、目的地の街が一向に見えてこない中、三台の馬車は薄暗い林に入った。

林の中ほどの少し広くなった場所に、冒険者とは違う一団が別の馬車で待っていた。


「よう、上手くいったようだな」と商人風の目つきの悪い男がイリスに向かって言う。

「ああ、今回は楽なもんだったよ、ガキどもも聞き分けがよくて助かったわ」とさっきまでとは違う声色でいう。

何がなんだか判らないという顔のアイーダに向かってイリスが言う。

「ここからは、あの男がお前たちを連れてってくれるよ、・・・隣の国までね」


様子がおかしいと、子供達が怯え始める、それをかばうようにしてるアイーダも要領が呑み込めない。

「ふん、その年ならもう察しはつくだろう?、お前たちは奴隷として隣の国に売られるのさ、フフフ」

今まで見せた事が無い冷たい表情でイリスが平然と言う。


「あなた達は、はじめからそれが目的で・・・」

アイーダは、自分が騙されたという事実を受け入れられないでいた、まさかという思いの方が強かった。

「フフフフ、お前には感謝しているよ、自分の親を殺した相手の言う事を素直に聞いてくれたんだからね、作物は私達が適当に売ってお金に換えるから心配しなくていいわよ」


アイーダは目の前が真っ暗にになった気がした、こいつがお父さんお母さんの事を・・・

「あの魔物をけしかけたのも私達さ、そして村人の半分以上は私達が始末したのさ、アハハハハ」

アイーダは、壊れそうになる自分の心を必死に抑えてイリスを睨む、涙は出ない、悔しさと怒りで睨みつける。

「フン、おまえがバカなおかげで、ここまでガキどもを縛り付けずに済んだんだ、よかったじゃないか、フフフ」

アイーダは何も言わずに睨み続けた、絶対生き延びてやる、生き延びていつの日か必ず復讐してやる、そう思いながら。



 商人風の男が、鞭を片手に馬車のホロを開ける、そこに乗っていたのは格子の箱、子供達は再び絶望の表情をした。

男たちが剣を抜き、子供たちに突き付けながらロープで縛ろうと近づいて来たとき、

林の木々の陰から、さらに又、別の一団が飛び出してきた。


「国境警備隊だ、動くな、奴隷商人とその一味、大人しく縛に付け」

正規の軽鎧に身を包んだ一団が、冒険者と商人達を取り囲む、騎馬の警備隊も近づいて来る音がする。


「ちっ、ぬかったな」イリスが奴隷商人を睨みつける、「そんな」と商人は信じられないという表情をする。

騎馬の男が馬上からイリス見降ろしながら言う

「これだけ派手に人さらいを繰り返して、悟られないとでも思ったか、覚悟はいいな」


素早く子供たちを保護して、その場から離れさせる警備隊に従って、急展開に呆気に取られる子供達が遠巻きに事の次第を見る。

何とか逃走を果たそうとする悪党一味、激しく抵抗したかと思うと包囲の外に走り出そうとする、それを逃すまいと容赦なく槍が足を突く、なんとか包囲を出た悪党を木の上から弓矢がつらぬく。


「ブリザード」

イリスの声が響く、辺り一帯に吹雪が吹き荒れる。


それに乗じて逃げ出そうと、一番兵士の少ない場所にイリスが駈け出す、

「その女を絶対逃すな」という掛け声のもと、兵士が数人イリスの前に立ちはだかる。

イリスが、さらに魔法の呪文を唱えようと兵士に向かった剣を向けようとしたとき、イリスは肩に激痛が走り剣を落としそうになった。


イリスが振り返ると、そこには、小さなクロスボウを構えた、感情の無い目でこちらを見据える少女が立っていた。

「くっ、こんなガキに、そんなオモチャのような弓に」イリスはアイーダに向かって剣を振り上げる、

アイーダは、少しも動かずそこに立っていた、イリスがこちらに一歩踏み出した時、グシャ、その首を後ろから槍が貫いていた。


イリスから飛び散った血が、アイーダの顔にかかる、鬼のような形相で倒れて来るイリスをアイーダは表情の無い顔でずっと見ていた、

イリスが倒れた後も、ずっとイリスの顔を見ていた。


警備隊の一人が、アイーダに声を掛けて来る、アイーダには何も聞こえなかった、

アイーダは音の無い世界に、しばらくたたずんでいた。

・・・・・・



その後、国境警備隊の手によって、子供達は無事王都にある教会の運営している孤児院に預けられた。

だが、アイーダはしばらく言葉を話す事は無かったという。



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