アイーダ2
ちょ、ちょっと、みゆきちゃん、魔力駄々洩れですよ、ちゃんとドイルさんに教わったでしょ、おさえて~、とユーゴは慌てたが、
みゆきの怒りの表情はただ事では無く、その魔力を帯びたオーラは周りの人にも恐怖を与える程だった。
「ひっ」流石にその迫力にビビった少女は、思わず腰の拳銃に手が伸びた、それを見たユーゴは、
「それ以上その手を動かしてみろ、おまえをカエルにするぞ」と脅かした。
「カ、カエル、・・・しょ、しょんなこと・・・」
少し顔を青くしている少女に、
「いいか、何の確証も無く、だれかれ構わず言いがかりをつけるのはやめろ、そのうち痛い目にあうぞ」
と言って、さあ行くぞと連れの二人を促した、
みゆきはまだ何か言いたそうに、口をもぐもぐしていたが、カークとユーゴに腕を抱えられその場を後にした。
ヒルフォーマー商会の入り口に着いたが、距離はとっているものの、あの少女はまだ後をついて来る。
ユーゴは、まったくしょうがないガキだと思いながらも、無視して建物の中に入っていった。
少女は、あの人達ヒルフォーマー商会に入っていったわ、どうしよう、としばしたたずんでいた。
ユーゴ達が中に入ると、受付の女性がすぐスクルトを呼んでくれて、応接室に案内される。
出されたお茶は、紅茶とウーロン茶の間のような味で、みゆきは匂いを嗅いだり口の中で転がしたりして吟味していた。
スクルトは、そんな様子のみゆきに、
「みゆきさん、あなたの店で出されてる、コーヒーという飲み物なのですが、私共、大変興味を持っておりまして、後でゆっくりお話を伺いたいのですが」と言って来た。
「え、くれない亭に入らした事がおありなのですか」とみゆきがビックリしていると、
「もちろんですとも、今、一番の話題のお店ですから、うちのインターキ支部の者は全員一度は伺っておりますよ」と笑っている。
ユーゴは、おいおい俺の居場所もばれてたのか、とちょっと呆れてスクルトを見やった。
「それに、みゆきさんが考案して、カーク君が製作した手漕ぎのポンプですが、あれは素晴らしい、うちの会頭も是非お二人にもお会いしたいと言ってらしたのですよ、今日はこのようにお三方に揃っておいで頂いて大変喜んでおります」とカークは続けた。
ああ、三人で行くよって言ったときの反応はそのせいか、やけに嬉しそうだったもんな、不思議に思ってたんだ、とユーゴは頭を掻いていた。
ドアがノックされ、女性が入って来て、「会頭がお見えです」と伝えられると、男が二人は入って来た。
一人目の男は、いかにも上質な、中世の貴族の服と前の世界のスーツを合わせたような服を着た男で、30代後半、ユーゴの本当の歳と近いと思われた。口に笑みを浮かべ、一見人当たりが良さそうだが、頭が切れそうで油断ならないという印象をユーゴは受けた。
もう一人は、いかにも技術畑と言う風貌の40代ぐらいに見える、痩せた、人の良さそうな男だった。
「初めまして、私はこのヒルフォーマー商会の会頭を務めるグランディ・ヒルフォーマーです、気軽にグランとお呼びください」
と最初の男が右手を差し出してくる、握手の習慣はこちらも前の世界と同じらしい。
「はじめまして、ユーゴ・タチバナです、この度は無理なお願いを聞いていただいて感謝しています」とユーゴが立ち上がり出された手を握る、グランと名乗る男は力強く握り返してきた。
「いやあ、お噂はスクルトから聞いていますよ、探索者としての実力もさることながら、あなたの周りには才能豊かな人が集まる不思議な方だと、スクルトと会う度に聞かされています」とにこやかに言って来る。
ああ、そういう見方をしてるのか、とユーゴも確かになあと苦笑いを浮かべた。
「みゆき嬢にカーク君もよく来てくださった、ゆっくりお話を伺いたかったのですよ」と二人にも握手を求めた。
みゆきとカークは、予想だにしない展開に緊張して固い笑いを浮かべ握手に応じていた。
「ユーゴさんがスパンク王国の大型船に興味をお持ちだと聞いて、是非紹介したい人が居ましてお連れしました」
ともう一人の男の方を紹介してくる。
「どうも、私はスパンク王国の魔道具研究所の主任をしている、ジェラール・ラモンという者です」と技術者風の男が自己紹介してくる。
いかにも研究一筋、裏表が無さそうなジェラールに、ユーゴは好感を持って握手した。
「私たちが開発した道具類を展示しておりますので、後でご案内しますよ」とにこやかに言って来る。
「実は、こちらに来てあの手押しポンプを拝見しまして、いたく感銘したのですよ、私共は魔力が弱いくせに魔石に拘ってたものですから、あの仕組みを見たときは目からうろこでした」とジュラールはみゆきとカークに笑いかけている。
「私の娘などは、感動して、是非製作者に会いたいと騒いでおりましてね、そろそろ来ると思うのですが」と言う。
その時、ドアの向こうでこちらを窺う陰に気が付いた、
「アイーダ、何をしている、早くこちらに来て挨拶しなさい」とジェラールが陰に向かって言うと、おずおずと少女が入ってくる。
余りに雰囲気が違うので、一瞬気が付かなかったが、その少女は間違いなく、先ほど銃をぶら下げて因縁を付けてきた、あの少女だった。
「あーーっ」っと、みゆきとカークが大声を上げて少女を指差す、
「先ほどは失礼しました、アイーダと言います」と蚊の鳴くような声で少女は自己紹介した。
ユーゴは額に手を当てうなだれ、
他の大人たちは、え?、っと呆気に取られていた。




