アイーダ
途中、ユーゴがインターキに来た時と同様に、イストの町に一泊する事にした。
大型船の影響で、人の往来が多くなっているらしく、あいにく宿は一部屋しか空いてなく、三人同部屋となったが、みゆきは全く意に介さなかった。
お風呂も、自分にクリーンの魔法を使えば必要なく、なにより同行する二人の男性を信頼しきってる様子だった。
ユーゴは、夜一人部屋を抜け出すと、宿の一階にある酒場に向かった、
前に来た時も、いい雰囲気だった覚えがあり、この世界に慣れた今なら色々情報聞きだせると思ったからだ。
やはり、スパンク王国の大型船の話題が多かった、だが、ユーゴが思っていたような反応とは少し違っていた。
港では、スパンク王国主催の展示会が開かれてるそうで、かなりの賑わいという事だった。
しかし、酒場の客たちは、魔石銃の威力については懐疑的で、あまり役に立たないという意見と、あの大きな魔石砲というのは使い方次第では威力があるだろう、と言う意見と半々という所だった。
他の魔道具については、それ程画期的では無いという事だった。
ただ、大型船そのものには驚いているようで、魔界のある大きな半島を回って長い航海をしてきた事に感心しているようだった。
イスタンの港の西の諸国との貿易は、魔界の北にある運河を使う事がほとんどで、運河という事もあって、船の大きさはある程度制限されていた。
スパンク王国は西の諸国の中でも最西端にあり、運河はそこまで伸びておらず、他国の陸路を使わなくてはならない状況だった。
しかし、近年、隣国との関係がぎくしゃくしていた。
そこで、運河を使わずに貿易しようと、この世界では超大型と言っていい新造船でイスタンまで来たという事らしかった。
「あの大きさはたまげたね、普通の運搬船の3倍はあるな、おまけにデカい魔石砲が積んであってな海の魔獣が出ても平気らしい」
と顔を赤らめた獣人は大げさに騒ぎ、隣では「あんな物、俺の魔法にかかればいちころよ」と別の男が鼻を鳴らす、という具合だった。
次の日、イスタンに向かう荷馬車の荷台でゴトゴト跳ねられながら、
まあ、この辺りの住人は近隣の中でも比較的魔力の強いものが多いんだから、魔石銃に脅威を感じないのも無理ないかな、とユーゴは考えていた。
お昼過ぎにはイスタンの街が見えてきた。
かなり広い町だ、大きさとしてはインターキより大きいかもしれない、インターキ程建物が密集しておらず、道路も家も広々としてる印象がある、中心地に向かう程、だんだんと家が込み入っていき、黄土色の瓦の屋根が並ぶその先に、久しぶりに見る海が広がっていた。
「海よ、カーク君見える?、なんて綺麗な海かしら」
みゆきが立ち上がってはしゃいでいる、カークが危ないですよと注意してもお構いなしだ、
この景色を見たら、はしゃぐのも仕方ないかとユーゴも思っていた。
ジャステス武器屋と取引がある店に荷馬車をあずけて、とりあえず二人を伴ってヒルフォーマー商会に向かう。
通りには様々な店が軒を連ねている。
その様子を三人はお上りさん丸出しで、キョロキョロしながら歩いていると、突然後ろから声が掛かった。
「ちょっとあんたたち、どうしてそんなメンツで歩いているのかしら」
訳がわからず後ろを振り返ると、そこに居たのは、拳銃を両腰にぶら下げ、背中には小型のバズーカ砲のような物をしょい、体中に弾薬を巻きつけた、普通にしてればかわいいであろう、赤髪をボブカットにした16歳ぐらいの少女だった。
ユーゴが、何を言ってるんだこいつはという顔で、まだそばかすが残る少女を見ると、少女は、元の世界の戦闘機乗りが掛けてる様なゴーグルに手をやりながら、
「他の人はごまかせても、私のこのゴーグルはごまかせないわよ、なぜそんな魔力の持ち主が、まったく魔力の無い少年を連れ歩いてるのかしら、訳を聞かせて頂戴」とあからさまに上から目線で言って来る。
前の世界に居た頃から、こういう生意気なガキが苦手だったユーゴが、後頭部を引っ叩きたい衝動に駆られていると、
「私たちは、お友達なんですよ」とみゆきが優しく言う。
流石、元看護士、こういうガキの扱いもなれてるのか、看護師って究極の接客業だよなあ、ユーゴは心底感心した。
ところが、「何、ぶりっ子してるのよ、判ってるのよ、あんたの魔力が尋常じゃないことぐらい、力の無い少年に何させるつもりなの」
と、少女は悪意丸出しで言って来る。
慌てたのはカークだった、
「いや本当にお友達というか、このお二人にはお世話になっているんです」と少女に訴える。
少女は胡乱な目つきで、
「魔力の強い奴はろくな奴はいないのよ、あんたも気を付けなさい」とカークに諭すように言う。
流石にユーゴも額の血管が浮き出るのを感じながら、
「おまえは、魔力が強い奴を見つけると、いつもそうやって喧嘩を売っているのか」と、俺は大人だからと自分に言い聞かせながら言った。
「ふん、いつもじゃ無いわよ、魔力の弱い人間をたぶらかそうとしてる奴だけよ」と少女が言って来る。
「た、たぶらかす・・、誰が誰をたぶらかすですって」そう答えたのはユーゴでは無くみゆきだった。