別れと新たな依頼
その日、午前に白龍の谷に帰るというユイナが、兄のカイを伴ってくれない屋に挨拶に来た。
「ユーゴ殿には、本当にお世話になりました、なんとお礼を言っていいか、言葉もありません」と兄弟そろって頭を下げて来る。
「まあ、完璧にという訳には行きませんでしたが、なんとかカイさんが地上で暮らせるようになって良かった」と返した。
すると、いつの間にかドイルがやって来て、自己紹介を始めた、
ユイナは知らなかったようだが、カイの方は、
「御高名は、かねがね伺っております」とドイルの事を知っている様子だった。
この爺さん、やっぱり有名人なんだな、それにしても何しに出てきたのやら、とユーゴが思っていると、
「カイ殿、今後はどうするおつもりじゃな」とドイルがカイに尋ねた。
「今更、谷に帰る訳にも行きません、それに、この体、白竜様にはすぐ見抜かれてしまいましょう。しばらくは人里から離れた所で研鑽したいと思っております」とカイが答えた。
「ほう、腕を磨きたいと?」
「はい、私を貶めたあの魔族、かなりの力を感じました、今のままでは何もできませんが、いずれ仲間を取り戻したいと考えています」
「ふーん、その体に慣れるだけでも、多少時間は掛かるじゃろうからな、そう言う事なら、ワシから一つ頼みがあるんじゃが」
「頼み、ですか?」
ドイルは、カイに東の森の近くのドイルの小屋に行って欲しい、そこでしばらく犬たちの世話と麦畑を見て欲しいと頼んだ、
「森に行けば、腕を試す魔物に不自由は無いぞ、フハハハ」と笑っている。
「有難いお話です、よろしいのですか?」カイは逆に恐縮しながら快諾した。
「グルーという虎の獣人が近くの村に居る、手紙を出しておくでな、詳しくはそのグルーに聞くがよかろう」
カイのドイルの小屋行きが決まった、ユーゴは、ドイルの事だから時空魔法で小屋には直ぐ帰れるはず、なんだかんだと世話をやくのだろう、と少し笑みがこぼれた。
カイは、ユーゴに、昨日までギルドの聴取を受けたが、打合せの通りユーゴの事は黙っていた事、ギルドが少し懐疑的だった事を話した。
そして、ユイナが
「ユーゴ殿、短い間でしたが、谷の外で過ごしたあなたとの時間は一生忘れません、どうかお元気でお過ごしください」と別れを告げてきた、
「俺も忘れませんよ、お元気で」とユーゴが返すと
「もし、龍の山脈の方に来ることがあれば、白竜の谷にお立ち寄りください、歓迎します」と言って手を振りながら歩きだす。
「その時は、是非」
と答え、ユーゴは、やっぱり最後まで綺麗な人だな、と思いながら、その後姿を見送った。
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爽やかだった午前中とは対照的に、ちょっと憂鬱な気分で、ユーゴはギルドの執務室にいた。
「会うのは二度目だね、私はこのギルドの責任者をしている、フランクと言う物だ、こちらは副ギルド長のスザンヌ、よろしくな」
「スザンヌです、よろしく」
ギルド長、副ギルド長、二人揃って直々の出迎えに、ユーゴは嫌な予感しかしていなかった。
ギルド長は、昨日バースの近くにいた男だった、ちょっとくだけた感じのある司令官という印象で、それ程の威圧感は無かった。
一方、副ギルド長は、前の世界で言う、やり手のキャリアウーマンと言う感じで、プレッシャー掛かりまくりだった。
「ユーゴです、よろしくお願いします」ちょっと緊張ぎみに挨拶する。
すると、ギルド長は軽い感じの口調で話し始めた。
「さてと、君はあの日の朝、深層の魔物達が上層に上がって来たと聞いて、自分の見落としがあったかもと随分気にしていたね、斥候として先に行かせろとも言っていた」といたずらっぽい目線をユーゴに向ける。
「それなのに、忘れ物があるとあの場を離れ、戻って来たのはほとんど事が終わってからだった」
うわ、何処まで気づかれてるんだろうこの男、とんだ食わせ物だよ、ユーゴの目が踊り始めた。
「いや、別に何も話さなくていいよ、君が何をしていたか知りたい訳じゃないんだ」いよいよ嫌らしい顔で言って来る。
「私達もね、あの後、直接ダンジョンに入って、色々調査してみたんだがね、見た事も無い魔法陣の痕跡を見つけてね、うちの魔導士の話じゃ、どうも瞬間移動用じゃないかって言うんだ、それを使えば、外から直接ダンジョンに入れちゃうとか言うんだよ、面白いね」
ユーゴは、背中に汗が流れるのを感じながら、「アハハハ、そうですか、凄いですね」と無駄と知りつつ惚けてみた。
「まあ、あの魔法陣は魔族とは関係無さそうなんだけどね、凄い奴がいるよねえ世の中には、ねえ、ユーゴ・タチバナ君」
ユーゴに顔を近づけながら、ニコニコして言うギルド長フランク。
「そ、そうですね、凄いですよねえ」と、すっとぼけるユーゴ、
バーバラ並みの副ギルド長スザンヌのジト目の目線が痛い。
「フフフ、まあ、君がバーバラさんの所に居ると判ってからは、注意人物として注目してたんだよ、女性ならまだしも、あの人がただの男を自分の所に住まわせる訳がないからね」
と、ようやくギルド長は普通の調子で話し始めた。
「それでだ、・・・君は今日から、レベル5だ」
は、なんでそうなるの、とユーゴがキョトンとしていると、
「謎の魔物からあんな魔石を持って帰って来たんだ、当然の事だろう」とわざとらしくうなずきながら言う、
「知っていると思うが、レベルが高くなると、我がギルドではそれなりの責任も負ってもらう事になる」
え、そんなの初耳ですけど、
「そ、そうなんですか」と聞き返すと、
「そうなんだよ、だから先日もレベルの高い者達は、虫の討伐に出向いてくれたのだよ、これからは君もそういう立場になるという事だ」
確かに、レベルが高くなれば、割のいい依頼が回って来やすくなる、その見返りにギルドの要望にも応えなくてはならないという事なのだろう、とユーゴは思った。
「で、早速なんだがね」
いや、いくら何でも早速過ぎるだろう、胡乱な目でギルド長を見てると、おもむろに副ギルド長が説明しだした、
「実は、今、イスタンの港に、スパンク王国の巨大船が停泊しています、スパンク王国は魔法銃なる魔道武器を発明して以来、勢いを増している国です、魔石の買い付けが名目のようですが、本当に目的がそれだけなのか、あなたに探って欲しいのです」
「へ?なんで俺が・・・」ユーゴが聞くと、
「それなりの報酬は用意させてもらうよ、・・・君、色んな魔法使えるよね、蝙蝠もいるようだし、そうそう、飛竜にも乗ってたよね・・・詮索はしないけどね、ま、よろしく頼むよ」とギルド長は楽しそうに答えた。
ユーゴは、うう、これは逃げられない、色々めんどくさい事になってきたなあ、と頭を掻いた。
つづく。
ここまでいかがだったでしょうか、一応切りが付いたので、10日ほどお休みさせて頂いて、今月末頃、又、投稿したいと思います。
次の話で、もう一人新キャラを考えています、この後もよろしくお願いします。
よろしければ、ここまでの感想を頂ければ幸いです。