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神託の転移者  作者: 百矢 一彦
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兄妹2


メルマ、魔石をバリアの魔法でコーティングできないか?

その質問の意図を組んだメルマは、

(コーティングのように、直接魔石に触れると吸収される可能性があります、結界魔法で包みこんだ方が成功率は上昇)と答える。

結界か、よし解った。

(魔石を剥ぎ取る魔法として、ストリップがありますが、二つの魔法を掛けてる間に攻撃を受ける可能性大)

ふん、ならば、と考えたユーゴの思考を読んでメルマが

(時間停止魔法は、副作用の危険性大)と警告する。

昨日は、訳も判らず長時間止めちまったが、今回はほんの一瞬だ、なんとかなるさ。と言うと

(五秒以内なら、副作用を回避できる可能性があります)とメルマが答えた。


「ユイナさん、後ろ脚を狙ってくれ、俺に考えがある」

ユーゴがユイナに叫ぶ、ユイナはユーゴを見てうなずくと、半獣の男を翻弄するように壁を蹴り後ろ脚に切りつける。

遠距離から勢いを付けたユイナの剣に、流石の半獣も無傷ではいられなかった。

その攻撃を拒もうと、半獣の男は、ぐるぐると円を描きながら槍でユイナを捉えようとする。

完全にユーゴは半獣の男の意識の外にあった。


今だ、ユーゴは瞬間移動で半獣の男の眼前に移動した、目を見開く半獣の男。

「時間停止」とユーゴが念じる、周りが完全に停止した。

続けて、魔獣の男の額にある魔石に掌を向け、「結界」と念じる、魔石が淡い光に包まれる、

間髪入れずに、「ストリップ」と念じた、ユーゴの魔法は吸い取られる事無く結界ごと魔石を剥ぎ取る、続けて「時間停止解除」「瞬間移動」と念じて元の場所に戻る。

ユーゴの手には、赤黒い魔石が握られていた。



 半獣の男は、槍を手から離し、頭を抱えて苦しみだした、

「兄さん・・・」ユイナは、さっきまで剣を向けてた男を心配そうに見つめる。

しばらく苦しみ、巨体を倒して横たわった男は、大きく息をつきながら、

「・・・・ユイナ」と妹の名を呼んだ。



「私の名は、カイ・ラ・カンド、改めて礼をいう、助けてくれてありがとう」

自我を取り戻したユイナの兄は、今までの事情を話し出した、

透明な魔物の毒針にやられ、十三階層の洞窟に連れ込まれた事、

そこに居た魔族によって、額に魔石を埋め込まれ、仲間は魔族の言う事に従うようになってしまった事、

気を失っている間に、下半身が魔獣になってしまっていた事など、苦々しい表情で語った。


「谷を出た私を、白竜様は最後の所で守って下さった、感謝の気持ちしかない」そう言うと顔を上げ

「だが、こんな体になってしまった、私はこのダンジョンの奥深くでひっそり生きて行くしかないだろう」

ユイナは、「そんな・・・」と呟いたあと、何も言えずにいた。


「その事なんですけど・・・」とユーゴが話し出す、

「俺にも、その体を元に戻すことは出来ないのですが、元に戻ったように見せかける事は出来ます」

兄と妹は、えっ、と似た顔をユーゴの方に向ける。

「今から、変化へんげの魔法をカイさんに譲渡しますから、その魔法を使って元の姿に変化してみて下さい」

ユーゴの言葉に、驚きと期待の表情を見せる二人、表情の変化まで似ている。

では、と「変化魔法、譲渡」とユーゴが念じる、見た目は何の変化もないが、カイの頭に変化のイメージが浮かび上がった。

「元の自分の姿をイメージして、変化と念じてみて下さい」とユーゴに言われるまま、カイは変化と念じる。


カイの体が光りにつつまれ、その光が消えると人間の体に変化していた。

カイは自分の体を確かめるように見回す、ユイナは涙を溜めて見守っていた。



「さて、ここからなんですが」ユーゴがおもむろに話し出す、

「俺とユイナさんは、ダンジョンの入り口を通らずにここに来てるんで、このまま上がっていく訳にはいきません、カイさんには一人で地上に向かってもらいます、五階層まで行けばギルドの虫討伐隊が来てると思います」

ユーゴ達の事は秘密にする事、虫の異常行動は魔族から逃れたカイさんを追いかけてきた魔族の手下の仕業にする事、討伐隊を見ていつの間にかいなくなってた事にするなど、

口裏を合わせてもらうよう約束をした。


(それにはこれが必要です)とメルマが突然言い出す。

メルマの後ろには、ボロボロのズボン、靴、シャツ、をぶら下げた蝙蝠達が居た、

(十三階層から見つけてきてもらいました)とメルマが言う。


ギリシャの彫刻のような肉体美のカイは、やはり彫刻の様に素っ裸だったのだ。



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