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神託の転移者  作者: 百矢 一彦
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兄妹


 十階層に入ると、入っただけで空気が変わったのが判った、

(大気中の魔素量が大幅に上昇しています)メルマが報告してくる。

大型の魔石が転がっている道を進むと、大きな物音と共に何かの物影が見えてきた。


 なんだあれは、

後姿だが、その異様な姿が見えた、

後ろ脚はライオンの様な太い脚、前足は爪の鋭い鷲の足、そして背中に翼が付いている、

グリフォン?、だが頭の部分は鷲ではなく、槍を持った人間の上半身があった。


 ゴドン、大きな音と共に巨大な蛇の頭がユーゴ達の近くまで飛んで来た、三ツ頭の蛇の頭だった。

その半獣の男は、鷲のような前足で巨大な蛇の胴体を踏みつけ、もう二つ残っている蛇の頭の片方を槍で突き刺していた。


 あいつの解析の結果は、とユーゴがメルマをせかす。

(魔獣と人間を意図的に融合させた生物と予想、人間部分の額に昨日のクラゲ型魔獣と同様の魔石を確認、攻撃魔法が無効化される公算が高いと予想します。自我を失っている状態、いわゆるバーサーカー状態に陥ってる模様)メルマが報告する。


またあの魔石か、まったく厄介な魔石だ、あれを作った奴は何が目的なんだ。

どうやって攻めたもんか、とユーゴが考えていると、


「兄上」と呆然としながらユイナが呟いた。


なんだって、ユーゴはユイナの方を振り返る。

「間違いありません、変わり果てた姿をしてますがあれは兄上、あの槍は兄上の槍です」ユイナは目に涙を溜めて言った。

ユーゴは半獣の男を見る、上気した肌は赤くなっており、髭だらけの顔は返り血を浴びてよく判らない、だが確かにユイナと同じ銀の色の髪だった。

・・・・・・・・

なんてことだ、ただ倒せばいい、という訳には行かなくなったぞ。


ユイナは覚悟を決めた顔で言った、

「私が行きます、私を見れば正気を取り戻すかもしれません、もし駄目なら、その時は私が・・・」



半獣の男の脇腹に、残った蛇の口が食らいつく、だが半獣の男は、さして気に留めた様子もなくその頭を抱え込むと、ボキっとその首の骨を折った。

まだ微かに動く蛇の体に、槍の先から光線を浴びせる、大蛇の体は溶けるように千切れ、完全に動かなくなった。

「ぐうおおおおおおおあああ」

半獣の男が、勝利の雄たけびを上げる、その姿には理性のかけらも感じられなかった。



「駄目だユイナさん、今のお兄さんは普通の状態じゃ無い、そんな簡単に理性を取り戻すとは思えない」ユーゴが諭すように言う、

「ならば、私がこの手で、・・・兄をあのまま放っておく訳にはいきません、妹として、白竜の巫女として、私が止めます」

もう、ユイナの目に涙はなかった、だが、頬に残る涙の跡がその美しい顔に悲壮な決意を写していた。


ああ、誰かこうなっちゃった時の、女性の止め方知りませんかね、

ユーゴには止める手立てが無かった。


メルマ、あの体を元に戻す方法は無いのか?、

(男性の下半身はすでに魔物と細胞単位で完全に一体化しています、分離する方法はありません)

ちっ、ならばせめて理性を取り戻させる方法は?

(魔法が効かない以上、睡眠薬などで眠らせるのが一番確実と思われますが、マスターの無限ポシェットにはその手の薬品はありません)

無いものねだりをしてもしょうがない、あの魔石を取ったらどうなる?

(確定ではありませんが、一時的に意識混濁に陥る可能性は大)

やってみるか、何か役に立ちそうな魔法は無いか?

(視覚内なら魔法陣を用いなくても、瞬間移動できる魔法があります、しかし、それを使用しても成功の可能性は35%前後です)

あの魔力を吸い取る魔石を、どうやってとるかだよなあ、


ユーゴが対策を練ってる間、ユイナは半獣の男の前に出て両手を広げ、

「兄さん、私です、ユイナです、どうか思い出して・・」と叫んでいた。

だが、半獣の男は新たな獲物を見つけたとばかりに唸り声をあげ、いきなり槍で突きつける、

ユイナはそれを避けながら、なおも、

「兄さん、兄さん、しっかりして」と呼びかけ続けた。


半獣の男は、なかなか当たらない槍に苛立つように横に薙ぎ払った、

ユイナはそれを、まるで走り高跳の背面飛びのように飛び越える、そのままバク転すると、体が淡い光につつまれ、ついに剣を抜いた。

少しせばまった通路だったため、巨体の半獣の男は思うように槍を扱えない、雄叫びをあげると鷲のような前足で踏みつぶそうとする、

ユイナはそれをかいくぐり、魔獣の体の下に入り込むと下から剣を突き立てた。

だが、剣がまったく通らない、まるで鋼鉄のように固い皮膚にユイナも驚きを隠せなかった。


一瞬止まってしまったユイナを、今度はライオンの後ろ脚で掻きだすように蹴とばす、

ユイナの体は、ユーゴの方に飛ぶように転がっていった、血のにじんだ顔を半獣の男に向ける、

そこに向かって槍の先から光線が放たれた。


「バリア」


ユーゴが出したバリアで間一髪、光線を弾き飛ばすことができた。


そうだ、これだ、ユーゴはメルマに自分のアイデアを確かめるように聞いた。




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