女勇者の憂鬱
ちょっとだけ更新です
「勇者召喚って、そんな簡単にできちゃうもんなんですか?」そうユーゴが聞くと
「わたしもそれほど詳しい訳じゃないんだけど、召喚の儀式には星の位置が関係してるらしくてね、数十年に一度しかチャンスが無いそうよ、呪文を完成させるタイミングが難しいらしいの、そう簡単に出来る事じゃないわね」と、あまり興味がなさそうにバーバラが答えた。
ふーん、それを聞いて少し安心した、そう簡単にやられたんじゃたまったもんじゃないよな、
とりあえず、ドイルからの連絡を待つかな。
ユーゴはそう思いながら頭を掻いた。
バースはゴーグルを付け直して酒を飲んでいる、あ、顔見はぐった。
ファントラス王国、その王城で一人の男が憤慨していた。
「ようやく召喚に成功したというのに、とんだ外れくじだったようだ、回復薬しか、作らないとはどういう事だ」
男の名はニコラ・クロードこの国の宰相だ、ニコラは急ぎ足で、召喚者が立て籠もったという部屋に向かっていた、
「どんな様子だ」
ニコラは部屋の前に着くと、護衛の兵士と世話係と思われるメイドに向かって、苛立った様子を隠そうともせずに聞いた。
「は、それが、入り口扉に結界を張られたご様子で、外からは開けようがありません」
「お食事は受け取って下さるのですが、その他は何もいらないとおっしゃって入れてもらえないのです」
とそれぞれ答えた、ニコラは苦虫を潰したような顔を、無理やり冷静な顔に戻してドアをノックした。
「みゆき殿、お戯れをされては困りますな、あなたがここに来られたのは、神の御意思なのです、我がファントラス王国の民の為、魔族と手を結ぶスパンク王国の脅威を打ち払うのは、神から託された指名なのですぞ」
扉の前で必死に声を張り上げるが、部屋の中からは何の反応も無かった。
部屋の中では、二十代前半と思われる女性が頭から毛布をかぶり、膝を抱える格好でブツブツ独り言を言っていた、
「なあにが神の御意思よ、召喚とか冗談じゃないわよ、あれはただの拉致よ、拉致、重罪なんだから。
だいたい私は看護師よ、看護師、人を助けるのが仕事なのに・・、しかも神主の娘よ、そんな事出来る訳ないじゃない、・・ああ~、もうやだ」
涙が出そうになるのを堪え、目の下のクマを隠すように膝に顔を突っ伏した。
「わたし、いつまでここに居るんだろう、死ぬまで出られないのかしら」
そんなのは嫌だわ、絶対ここからでてやる、と傍らにあった、魔法の掛け方、なる本を引き寄せ、
「魔法のほうきとか載ってないかしら」と床に置いたまま片手でページをめくるのだった。
部屋の外、ようやく諦めたニコラは
「まあいい、勇者が居るという事実が大切なんだ」そうつぶやくと、兵士とメイドに他言無用と伝えてその場を去った。
そんな様子を部屋の片隅で身を隠し、じっと見つめる一匹のネズミがいた。
王城のすぐ近く、小さな公園の木の下で、ドイルはジッと瞑っていた目を開けた。
「ふむ、どうしたもんかのう、嬢ちゃんも気になるが、スパンク王国側も気になるのう」
スパンク王国とは、ファントラス王国と国境を接する、南西側にある国で、西の国々の中では少し異彩を放った国だった。
ドイルが考え事をしていると、一匹のネズミがドイルの足元に来た、
「おまえは元の生活におもどり」そう言ってドイルはピーナツのような木の実をあたえると、
「ちょっとスパンク王国も観て来るか」と歩き出した。
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