潜む視線
ユイナさんがやられる、そんなのは駄目だ、
ユーゴはスローモーションの様な空間の中で、これから起きようとしてる事を避ける方法を考える。
でも、どうやっても間に合わない。
ユーゴの焦りの表情が、絶望の表情に変わる。
駄目だ、そんなのは駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ・・・
ああ、もう駄目か・・止まれ、時間よ止まれーーー!
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
ユーゴは何が起きたのか判らなかった。
・・・・・・
自分以外のすべてが制止している。
魔物に向かって飛び掛かろうとしてるユイナも、魔物のヌメヌメした触手も、メルマも、蝙蝠達も、
全てが止まったまま動かない。
これは、俺がやったのか・・
俺が魔法で時間を止めたのか・・
メルマ、どうなってる、メルマ、・・・・・応答は無かった。
徐々に冷静さを取り戻したユーゴは、それが、無意識のうちに自分が願った事が魔法として具現化して起こった事だと理解した。
俺は、奢っていた。今の俺の力ならどんな魔物が来ようと、ユイナさんを守りながら撃退できる、そう思っていた、もし、こんな魔法が発動しなかったら・・、
いや、今は何をすべきか考えよう。
ユーゴは、ユイナの近くまで行き、ユイナに迫っている魔物から飛び出てる物を見る。
それは、他の触手より細く鋭い新たな触手で、魔物の体内から飛び出てきたものだった。
透明で、近くでよく見なければ解らないその触手を、まずは切り落とした。
だが、切り落としただけでは、触手がそのまま伸びればユイナの体を貫きそうだ、ユーゴはユイナと触手の間にバリアを張った。
ユイナの剣は、魔物の核めがけて伸びている、このまま時間を動かせば、貫きそうだった、大丈夫と確認する。
後は、カモフラージュの為に、小さな風の魔法を掛け、元の位置に戻り、自分の周りにも風の魔法を掛ける。
これで、なんとかなるだろう、そう思い。
ユーゴは「解除」と念じた。
時間が元に戻る。ユイナと触手の間に風が起こり、魔獣から伸びた新たな触手は、ユイナの前でバリアにぶつかり方向を変える、
そしてユイナが伸ばした剣は、魔物の本体を貫き、中の核を破壊した。
魔物の触手は、ピクピクと痙攣したかと思うと、力なく垂れて行った。
ふー、っと安堵の息を漏らしたユイナは、風が舞う中に立つユーゴに駆け寄ると、
「ユーゴ殿、いまの魔法は?私の前に魔法壁が表れて・・あれが無かったら、今頃私はどうなっていたか」
そう驚きと感謝を込めて言って来る。
「いや、・・あれは、・・バリアと言う魔法で、私はそれを飛ばせるんですよ」とユーゴがごまかすと、
「それにしても、この位置からあの攻撃を見切り、あのタイミングであれを出せるとは、恐れ入りました」と尊敬の眼差しで見て来る。
さっき迄、死ぬほど焦っていたユーゴは、ちょっとバツが悪そうに頭を掻いた。
・・・・・・・・・・・・
ちょっと離れた岩の柱に、そんな二人の様子見つめる二つの目がった。
これは驚いた、あんな化け物じみた奴がこんな所にいようとは、今の魔法は普通の人間の物とは思えん、ああいう輩は天界で大人しくしていればいいものを。
強い魔力を感じて実験材料にと思ったのに、苦労して育てたカワイイ魔物をやられてしまったではないか。
まあいい、ここでの実験はあらかた済んだ、あの龍人の男を御せなかったのは惜しいが、引き上げ時だろう。
岩の柱に浮かんでいた目が、スッと消えた。
・・・・・・・・・・・・・
魔物の死体を確認し、魔石を回収したユーゴは、
「今日の所は一旦引き・・・」と言いかけて、急に頭を押さえた。
「ユーゴ殿、どうなされた」ユイナが心配そうに聞いてくる。
(マスターの身体に状態異常を確認、脳内の魔力制御層が処理に追い付かず他の機能に影響を与えています、もうすぐ強制睡眠に入ります)とメルマが警告してきた。
強制睡眠だと、それは・・・と思ってる間も無く、ユーゴは意識を失ってしまった。




