遭遇
次の日、ユーゴとユイナは魔法陣を利用して、12階層に来ていた。
「メルマ殿が見たい所を照らしてくれるので、本当に助かります」とユイナが言うと、
(私はマスターにお仕えするもの、マスターの顧客であるユイナ殿に配慮するのは当然です)
当たり前の様に姿を現してるメルマが答える。
機械のいう事なのに、もはやオベンチャラにしか聞こえないなと、ユーゴは頭を掻きながら前にすすむ、
(あるじー、げんきないねぇ)(だいじょうぶー?)と気遣ってくれる蝙蝠達が、本当にかわいく思えた。
ダンジョンで探索者が死ぬと、肉体は吸い取られるらしく人骨は残っていないが、衣類や武器は死んだときの姿のまま残っていることが多かった。
おそらくは、恐怖し逃げ惑ったであろう痕跡が残っているものもある、あまり気分のいいものでは無かった。
何カ所目かの遺品を確かめた後、メルマが(前方より魔獣接近)と警告した。
その魔獣は、巨大なサソリの様な形をしていた、(この魔獣の殻は非常に硬質、通常攻撃で破壊は困難)
というメルマの声を聴きながら、どうしたもんかと考えていると、ユイナが「私がやります」と前に出た。
ユイナの体がうっすら青白く輝くと静かに風が舞い始めた、次の瞬間、今までにないスピードでユイナが飛び出す、サソリの尻尾が魔獣の体の上からユイナに向かって伸びる、それをジャンプしたユイナが空中で体をねじり華麗に避けると、ねじった体をそのまま回転させ、その勢いでサソリの頭に剣を突き立てていた。
一連の動きを、動体視力強化で見ていたユーゴは、はう、と見とれていた。凄いというより美しかった。
「今のは?」とユーゴが聞くと、ユイナは少し微笑んで、「私には、白竜の加護がありますから」と答えた。
魔法陣を使って一旦五階層に戻り、昼食を済ませて、午後からの探索を再開した。
すでに、前もって蝙蝠達が下調べした場所はかなり回り終わり、残りも少なくなってきていた。
そんな時、明らかに今までとは様子の違う場所があった。
今までは、探索者の衣類が残っていたのだが、その場所には無く、バックや荷物を入れるための袋がいくつか散乱している。
「ここで、なにかあったのは間違いないでしょうね、こんな物を探索者が置いていくはずが無いですから」
もう少し調べてみようと、ユーゴとユイナが辺りを見回していると、
(何かがゆっくり接近中)とメルマが警告してくる。
なにか、ってどういう事だ、とユーゴが聞くと、蝙蝠B4が直接(うーん、なんかニョロニョロしてるのが体から出てる、柔らかそう)と言って来た。
「ユイナさん、正体不明の魔物かもしれません、見えないと聞いています、用心してください」
ユイナは気配を察知しようと集中する。
(魔物の物と思われる魔石を確認、魔石の周りに内容物と思われる物がわずかに視認できます)
とメルマが言う、続けて蝙蝠B4が(ニョロニョロ長いよ、すごくのびてる)と言って来た。
「どの辺だ?」ユーゴが聞くと(あるじのひだりまえにある、がけのうえ)B4が答える。
ちっ、もうそんな近くか、
「放水」とユーゴが念じると、言われた崖の上に勢いよく水が掛かる、続けてユーゴは無限袋から昨日みゆきから分けてもらった小麦粉を取り出すと、風の魔法に乗せて崖の方に散りばめる。
小麦粉が、なにかにくっついていき、やがて白く形を浮き上がらせて行く。
今、見えるのは、触手のような10メートルはあるかと思われる長い脚が二本、やがてゆっくり本体が姿を現した、
「なんだあれは、イカ?いや、クラゲのような体つきだ」ユーゴがビックリしていると
(元々半透明の体を、魔力によってさらに透明度を増していると予想)とメルマが言って来る、
ユイナは眉間にしわを寄せ、「あれが兄上を」と今にも飛び出さんばかりだ。
「今、足止めの魔法を掛けてみます、ちょっと待って」とユーゴはユイナを制止する。
「凍結」そう念じると、魔物の周りが白く凍っていく、だが、一瞬動きが止まったように見えたクラゲの化け物は、凍り付く事無く動きを続ける。
(魔物体内にある魔石により魔力が吸収されたのを確認、対攻撃魔法は無効の確率大)とメルマが報告する。
なんだって、なんて厄介な奴だ。
まだ距離があると油断していたユーゴに、突然魔物の触手が襲い掛かる、想像以上の伸縮率だ。
慌てて飛び跳ねると、攻撃魔法が駄目ならと肉体、視角、聴覚、すべての感覚を強化して攻撃に備える。
ユイナは、体を青白く光らせ、魔物の本体を攻撃しようと長い触手をかいくぐり、剣を突き立てる、それを長い二本以外の無数の触手がこばむ、触手は全部伸縮自在だった、しかも小麦粉の着きの悪い部分は見えにくい、ユイナは触手の攻撃を防ぐのに手いっぱいの状態になってしまった。
(触手の先に、毒針を確認)メルマが警告を発する。蝙蝠達は衝撃波を打ってユイナを援護し始める。
高い位置に陣取った魔物に、ユーマは攻撃に割り込めずにいた。
「崖の下に落とす」そうユーゴは叫ぶと、魔物のいる崖に向けて三段棒を振り衝撃波を放つ、魔物は転げ落ちる形になった。
触手の攻撃を見切り始めていたユイナは、この機を逃すまいと一気に間合いを詰めた。
その時、動体視力を目一杯強化していたユーゴには見えた、魔物の体の中から、舞い散る白い粉を散らしながらユイナの体に向かって伸びる何かが・・・、
ユイナも、ハッとそれに気づいたが、駄目だ間にあわない。




