バースの情報
その日の夜、ユーゴがバーバラの所に報告に行くと、バースがすでにカウンター席に座っていた。
「よう、景気はどうだ」と聞かれ、軽口をたたいていると、
「そうそう、レベル3昇格おめでとう」と、ニヤニヤしながら言って来た。
「で、龍人の娘との暗闇のデートはどうだったよ」と親父丸出しの顔でさらに聞いてきた。
「なっ、情報早すぎだろ、何処で聞いた?」
「なーに、換金所の親父が聞きもしねえのに騒いでたんだ、深層の魔石持って二人で帰って来てたと」
「あの親父、口軽すぎだろ、ギルドに文句言ってやる」
「知らねえのか、あの龍人の娘は今や有名人なんだぞ、兄貴の事をギルドや関係者に聞いて回ってたからな、あの器量だ、ただでさえ目立つ、お前の事教えたのも、あの親父だそうだ」
「ああ、そういう事か」
「俺も龍人の娘は初めて見たが、あれはちょっと別格だな、エルフでもあそこまでの器量よしはそうはいねえ、コイルとハンスは見た途端固まってたからな、ヒハハハ」
「そんなに知れ渡ってたのか、そりゃ、ちょっと目立ち過ぎだな、風防付のマントでも着るように言っておくかな」
「そんな勿体ない事させるんじゃねえ・・・・、ま、冗談はこの変にして、」
バースは急に真顔になって続けた、
「俺は、あの娘の兄貴を視た事があるが、かなりの腕だった、普通なら十二階層あたりで失踪なんてあり得ないくらいにな」
「つまり、普通じゃない事が起こったという事か」
「ああ、逃げ帰った男は、何かが襲って来たんだが姿が見えなかったと言ってるらしい」
「見えない?見えない魔物か・・・」
「蝙蝠には見えるかも知れないが、戦うのはかなり厄介だと考えた方がいい、無理はしない事だな」
「ああ、判った、情報感謝するよ」
「まあ、どうやったか知らねえが、深層から日帰りしてきたんだ、逃げ方は心得てるんだろう?」
「へ?・・・、まあ、逃げるのは得意かな、はは・・は」
「そのうち教えろよ」と含み笑いをした後、バースは例のごとく、始まったショーの方を向いてゴーグルを外していた。
二人の会話を黙って聞いていたバーバラは
「いいかいユーゴちゃん、もしもの事があっても、ダンジョンを破壊するような事はするんじゃないわよ」と言って来た。
え、そっちの心配ですか、バーバラさん・・・。
ユーゴは、明日の朝食用に、みゆきに頼んだサンドイッチを取りに行ってから部屋に戻ろうと、
「じゃ、明日も早いんで、俺はこれで」と席を立った。
ひぐらし屋の調理場に行くと、みゆきが何やら作業をしている、
「何してるんだ?」と聞くと、
「あら、ユーゴさん、今スポンジケーキに挑戦中です、こっちはパンケーキはあるけどスポンジケーキはないらしいので」と卵をボールに割り落としながら返事した。
どれどれとのぞき込むと、木製で出来てるらしい手回し式の泡だて器が目に着いた、
「あ、これ、ユーゴさんに紹介してもらった、ジャスティス武器屋のカーク君に作ってもらったんですよ、あの子、こんな物が欲しいって言ったら、一週間でこれ作っちゃったんですよ、凄いですよねえ」
ほう、こんな物を、大したもんだと感心してると、
「こっちはお米は高いんですけど、小麦粉は安いんで助かります」とみゆきは大きな袋いっぱいの小麦粉の方を見て言った。
「小麦粉ねえ・・」とユーゴが小麦粉をみてると、
「サンドイッチはそこに置いてありますから」とみゆきに言われ、ユーゴは「ありがとう」と答えた。
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