探索初日
二人がダンジョンに入ったのは、朝6時だった。
ユイナは泊りがけのつもりで道具を揃えていた。あー、伝えておけば良かったな、と思いながら、
「時空魔法があるので身に付ける物以外の荷物はあずかりますよ」と無限ポシェットに入れていく。
ユイナはもの凄く質問したそうな顔をしていたが、魔道具の事を漏らさない、という約束をしたせいか何も言わず、それを見ていた。
ユーゴはカワイイと心の中で呟やき、必死に顔に出ないようにする。
「では、行きましょう」
「よろしくお願い致します」
しばらく歩いたところで、ユーゴは「ちょっとだけ寄り道をします」と言って二階層に向かう道からはずれた、岩陰になっている場所に向かった。
「ここに瞬間移動用の魔法陣を張ります、これを使えば一瞬でここに戻ってこれます、明日からはこれを使えば今日潜った最深部まで行くことが出来ますよ、なのでダンジョン内で泊まる必要はありません」
そうユーゴが説明すると、
「な・・な・・、それは凄い、話には聞いたことがありますが、本当にできるのですか?」
ユイナは心底驚いた顔をする。
ああ、こんな表情でも、美人は美人なんだ~、と思った心を伏せて、ユーゴは三段棒で魔法陣を描く、
ただの丸に【ゲート】とカタカナで書いただけのものだった。日本人が見たらただの落書きである。
こんな美人の前で魔法陣を書くことがあるんだったら、もっとカッコイイデザインにすれば良かった。
試しに書いた時、判りやすいからとこれに決めちゃったんだよなあ。
ユーゴが念じると、その落書きは青白く光り、空中に浮くように消えた。
「あのような文字は見た事がありません、特別な力を持った文字なのでしょうか、それにしてもあなたは・・いや、辞めておきましょう・・・」
ユイナはとんでもない秘密を知ってしまったのかもしれない、と緊張していた。
「じゃ、この辺で蝙蝠を出しますね」そう言ってユーゴはマントを広げた、
すると、マントの中から蝙蝠がパタパタと次々飛び出してくる。少しの間二人の周りを旋回した後、それぞれに散っていく。
ユイナは、ゴクンと唾を飲んだ、緊張で少し顔から血の気が引いたのを感じた。
ユーゴは、人前で蝙蝠を出すの初めてなんだよなあ、ちょっと気恥しいなこれ、と頭を掻いた。
「秘密は絶対守ります」というユイナの言葉に、
「お願いします」とユーゴが答え、その後は、二人とも無言で先に進んでいった。
彼女は、自分で言った通り、本当に強かった、五階層までユーゴの出番は全く無く、魔法を使った様子も無いのに、そのスピードは人間のものとは思えない程だった。
もしかしたら、バース以上かもと思ったが、検索で視るは辞めて置いた。
やはりこっそり視るのは、マナー違反だろう、こんな美人にばれたら耐えられない。
それにしても、先日会った時より口が重いな、やはり、兄が行方不明になったという現場に近づいているんだ、気分が重くなっても仕方ないか、ユーゴはそう思った。
人族にも魔力が高く様々な魔法を使う者はいる、だが、あの不思議な文字、蝙蝠を出すあの姿、もしや魔族か?いや、ユーゴ殿の気は邪悪なものではない、誠実ささえ感じる、ではいったい何者なのだろうか。
ユイナは緊張は続いたままだった。
「ちょっと早いですが、五階層で食事をとってしまいましょう、この先は食事をとれる場所は少ないですか
ら」とユーゴが言うと、ユイナはこわばった表情で無言でうなずいた。
ふー、やっぱ美人の相手は緊張するなー、この雰囲気どうにかならないもんかな、そう思いながらユーゴは無限ポシェットから食料と道具を取り出し、食事の準備に入った。
その時、メルマの(大型のブロックンベアが二匹接近中)という声が頭に届いた。
ブロックンベアとは、攻撃魔法は使わないが、魔力で身体能力と防御力を高めた熊型の魔獣で、見た目より厄介な相手だ。
五階層は、密度は低いものの、魔獣が居ない訳では無い、広々としているせいか、大型のものが多かった。
「ユイナさん、大型のブロックンベアが近づいてるそうです、防御力が高いので注意してください」
そう言うと、ユイナは静かにうなづき、細身の直刀を抜いて身構える。
かなり大型だ、それならとユーゴは無限ポシェットから妖刀風丸を取り出し、身を低くして構えた。
「俺が左をやります」とユイナに小さな声で伝えると、ユイナはベアの方では無くユーゴの刀を見入っていた。




