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神託の転移者  作者: 百矢 一彦
1/88

普通の大人が異世界で魔力を持ったら、

余り欲の無い、普通の日本人のサラリーマンが、もし異世界に行ったらどういう行動をとるだろうか、

自分にはその気は無いのに、知らないうちに周りに影響を及ぼしてる、そんな異世界物語です。



1、存在を消された男


ユーストラム大陸、その南東にある巨大な森林地帯。

鬱蒼とした木々に囲まれた少し高台になった場所に、突然光の塊が現れた。

光の中から現れたのは、十五~六歳に見える少年である、同時に、森の中は獣や鳥が逃げ惑う音が響き渡った。


「うーーん」ぼうっとする意識の中、少年は自分の状況と記憶を確かめた、ここは何処だ?森?ジャングル?、確か仕事帰りに異様な光に包まれて・・

駄目だ、よく思い出せない、

光の中に瞳の無い、虫のような目をした男が立ってたような、まるで宇宙人のような、あいつにここに飛ばされたのか?

宇宙船の中というなら、まだ理解できそうだが、ここは普通に森だな。

いったい何がどうなっているんだ?


周りの状況をくるくる見回していると、いつの間にか後ろに男が立っていた、

光の中で見た男とは別の姿をしている、杖を持ち白い布をまとった、そう神様のような恰好?

「私はこの世界の神の一柱、大地をつかさどるゲブスと言います。」

うわ、マジでそう来たか。

「気の毒ですが、あなたは今までの世界からこの世界に転移させられました」

ちょっとまて、転移?転移ってなんだ?よくわからないが、その言い方だと転移させたのはあなたじゃないのか?

やはりあの虫目をした宇宙人みたいな奴か?

「そう、あなたを転移させたのは、私の上位神の太陽神よりさらに上位、いくつかの世界を束ねる銀河神のお一人です、困った事に、あの方は時々こういう事をやるんですよ」

うん?、急にくだけた感じになってるし、俺の心読んでるし、なんか色々おかしい、

この自称神様のいう事が本当だとして、何の為に俺をこの世界に?

「それは、私にも判りかねます、なんせ上役の上役のやった事ですからねえ、なにかお考えはあるとおもいますが」

なんだそれは、俺は死んだ訳でもない、普通に帰宅途中にかっさわれたんだぞ、いくら神様でも勝手すぎるだろ、

「あー、お怒りはごもっともです、でも私の力では元の世界には返せないんですよ、すみません、

本当にお気の毒ですが、あなたは元の世界では、すでに居なかった事になっています。」

それを聞いて流石に声を出して聞きただした、

「はあ?どういう事だ、俺の存在が無かった事になってるのか?妹は?妹は俺の存在を忘れてるのか?」

神ケブスは、本当に気の毒そうな顔して答えた、

「元居た世界では、あなたに関わった人すべてからあなたの記憶は消されてるようです、本当に申し訳ない。

私としても戸惑っているんですよ、なんせ急に異世界から移転者が送られてきたんですから、

それも、ちょっと反則的な魔力を持ってですよ、もうねそのままだと混乱必至なんです。」

なんてことだ、存在が消えている?そんな事が許されるのか、怒りと言うより切なさが込み上げてきた。

ん?ちょっまて、魔力??

「そう、魔力です、この世界には魔法が存在してましてね、普通に使われています、でもあなたの魔力はちょっと異常なんですよ」

魔法?まじか?

「あなたの世界に魔法は存在しませんよね、でも魔法と言う概念は大昔からあったでしょう?

それは、転移者の為の予備知識として意図的に流してたものらしいですよ、

まあ、あの方のお考えは、私達一つの世界にしか関わらない神には判りませんがね」

まあ、確かに魔法と言う物がどういうものか、なんとなく想像がつくのは有難い事ではある、

使い方はまったく判らないのだが。

「魔法ってどうやって使うんですか?ええとゲブス様」

口頭で質問すると、神ゲブスは少し困ったような顔をして、こう答えた

「ああ、それについててですが、この森を抜けた所に一人の老人が住んでいます、

まずはそこに行って、その老人と会って欲しいのです、魔法の事についても教えてくれるでしょう。

とにかく、それまではむやみに魔法を使わないで欲しいのです、あなたの魔力は強すぎますからね」

そう言われて大地神ゲブスが指さす方を見て、振り返るともう姿が消えていた。

 ふーん、訳がわからないし納得もいかないが、とにかく行ってみるか、と、少年が歩き出すと、鬱蒼と茂っている木々が左右に分かれて道が出来ていく。

少年は、流石大地の神様と名乗るだけはある、案外気が利くな、と感心しながら前に進んだ。

だが上空では神ゲブスが手で目を覆いながら、「無意識にあんな大きな魔法使っちゃってる」と呟いていた。


 この一見少年に見える男は、元の世界では38才のれっきとした成人男性だった、

名前は橘勇吾、ありふれた商社のサラリーマンの独身貴族、

両親は事故の為に彼が社会人になってから他界、妹が一人いたが、両親の残してくれた保険金で無事大学を卒業、就職して数年で結婚し子供もいる、その妹とも妹に子供が出来てからは疎遠になっていた。

 確かに、俺がいなきゃ困るという存在は元の世界にはいないか、だから選ばれたのか?

納得いかないが、あまり腹が立たないのはマインドコントロールでもされているのだろうか?

そんな事を考えながら、もくもくと目の前に出来上がっていく道をひたすら歩いた。


 数時間歩いただろうか、少し休憩しようと丁度いい大きさの岩に腰かけて気になっている魔法について考えてみた、神ゲブスはなるべく使わないで欲しいと言っていたが、使うも何も使い方が判らないのだから使いようがない、いったいどうやって使うものなのだろうか、例えばあの岩を、


ドカーン、


そう思った瞬間、目にしていた岩が多きな音と共に砕けた、割れたとかの段階ではない、木端微塵に砕けたのだ、

え?・・うそ・・・・


やばい、やばい、やばい、これはやばいだろう、

ちょっと思っただけで本当に岩が粉々になった、もしアレが生き物だったら。

背筋から汗が流れた、えええ~、どうしよう~~。

何やら得体のしれない物が自分の中に湧き出るのを感じた、なんだか判らないがこれはやばい力だ、

それだけは判った。


 それからは、何も考えないように自分に言い聞かせながら、ひたすら森の出口に向かって歩いて行った、

何も考えるな、何も考えるな、何も考えるな、まるで念仏でも唱えるようにひたすら歩いた。



 老人は、自分の丸太小屋の近くにある畑で、麦の生育具合を見ていた、中々の出来に満足してると、森の方から異様な気配を感じた。

なんじゃこれは、この異様な気配は・・・

鳥が逃げ惑う姿が見える、その向こうから異様な魔力の塊がこちらに向かってくる、

まさかこんな所に魔人が現れたとでもいうのか、いや、魔人以上の魔力か・・

これはいかん、とにもかくにも正体を確かねば、

老人は何か呟くと、その年恰好からは想像もつかない速さで森に向かって走った。


 森の手前で気配を消し、緊張した面持ちで森の方を見やる、

恐ろしい魔力を従えて現れたのは、なにやらブツブツ呟きながら疲れ切った様子で歩く少年だった。

なんと、あの様子は魔力の制御が出来ていないのか?

これはまずい、なんとか魔力の暴走止めなければ。

老人は気配を消すのをやめ、注意深く少年い近づいて行った。


 橘勇吾は疲れ切っていた、

何も考えるな、何も考えるな、そう呟きながら歩き続け、ようやく森を抜けることが出来た、

森を抜けると、驚きの表情で立ち尽くす老人が見えた、こちらに近づいてくる。

あの人が神ケブスが言っていた老人か?助かったあ、あの人に聞けば魔法を使わない方法が判るだろうか?

いや、油断するな、余計な事を考えないようにしないと。

「あの、ご老人、魔法を抑える方法をご存知でしょうか?」

もはや泣き顔に近い表情でそう問いかけると、老人は静かにうなずき、手を前にあまり動くなという風にして答えた、

「よいか、静かに体の前で手を合わせるのじゃ、そして魔力の流れを感じてみよ」

勇吾は言われた通り、体の前で手を合わせた。

すると、体の中を何かが勢いよくグルグル渦巻くのを感じた。

「その流れを、ゆっくり抑えるようにイメージしてみよ」

老人の言葉通り自分の中に流れる力のスピードを抑えるようにイメージしていく、徐々に流れが収まるのを感じる、

「もう少しじゃ、もう少しゆっくりになるようにイメージし続けるのじゃ」

数分間そうしていたろうか、力の流れがかなりゆっくりに小さくなった気がした、

「ようしいいじゃろう、今度はその魔力を膜で包みこむイメージをしてみよ」

言われるまま、膜で覆うイメージをしてみる、すうーっと体が軽くなるような感覚があった。

勇吾はホッとして、露骨に間抜けな顔をして老人に礼を言った、

「ありがとうございます、なんか思っただけで魔法が飛び出しまして、その後は怖くて怖くて」

老人もホッとした様子で答えた。

「ふうー、なんとかなったかのう、おぬし、その様子だと転移者か?」

「え、判るんですか?もしかして転移者って結構いたりするんですか?」

「いや、滅多にいるもんじゃない、じゃが古い書物には記録が残っておる、それだけの魔力を持ちながら使い方を知らんとなると、転移者しか考えられんからな、それにその身なり、見た事も無い身なりじゃて」

「ああ、なるほど、確かに私は数時間前まで別の世界に居ました、ここがどんな所かも全く判らないんです、神様っぽい人に言われたんですよ、こっちに行けばご老人がいるから訪ねろと、ほんとに助かりました、思っただけで魔法が飛び出ちゃうなんて思っても居ませんでしたから」

「なるほどの、普通はそんな事にはならんよ、最後の仕上げじゃ、頭の中に魔法のスイッチをイメージしてみよ」

「魔法のスイッチですか?なんか難しいなあ」

「普通魔法は意識せねば発動せぬのじゃ、じゃがお主の場合は発動の状態が常になっているようじゃ、

魔法使いが杖をよく使うのは、スイッチの切り替えの為なのじゃ、杖を使う事によって魔法の力のスイッチをオンにしておるのじゃよ、もちろん魔法の力を増幅するための物でもあるんじゃがな、お主は逆をせねばならん、なんでもよい、頭の中に切り替えのスイッチを浮かべてオフにしておくことじゃ」

「なるほど、スイッチですか」

勇吾は頭に電気のブレーカーを落とすイメージを思い浮かべた、一番確かな気がしたからだ。

「ふむ、これでひとまずは大丈夫だろう。まだ自己紹介していなんだな、ワシの名はドイル、ドイル・セルバンテスと言う、これでも魔法の専門家じゃ」

老人は新しいおもちゃを見つけたような表情で自己紹介してきた。

「私の名前は、タチバナユーゴ、ユーゴが名前でタチバナが苗字です、前の世界ではありふれた小市民でした」

恐縮しながら、そう答える、頼れるのはこのご老人だけだ。

「ふむ、今のままでは危ういでな、しばらくワシの小屋で過ごすがいい」

「あ、ありがとうございます、助かります、どうかよろしくお願いします」

そのまま、ユーゴは老魔法師ドイルの小屋で世話になる事になった。



2、魔法トレーニング



 その日の夜は混乱しながらも今までのいきさつを話し、こちらの世界の事を聞いたりして過ごし、

次の日からは魔力の制御の方法の指導を受けた。

 初めはオンとオフだけだった魔法のスイッチを何段階かに分けられるようにした、レベル1の魔力、レベル2の魔力と言う風に、これで魔法の力を随分制御できるようになった、

簡単な魔法を試しながら4~5日も経つと、アンプの音量のつまみの様に無段階で魔法の制御ができるようになった。

魔力の制御が出来るようになると、次は魔法の実践に移った。

初めは火の魔法が大きすぎて山火事を起こしそうになり、それを消そうと大雨を降らし過ぎるというような失敗もあったが、少しずつ魔法の出力の加減を覚えて行った。


 魔法で大切なのはイメージする事なのだそうだ、普通の魔法使いは詠唱をとなえるが、それは魔法のイメージを固定させる為の手段にすぎないそうだ、いつのまにか詠唱が魔法発動の条件のように思われるようになり、それは結果的に魔法を暴発させない安全弁のような役割になっているのだとか、魔力の弱い魔法の初心者には魔法を発動させるいい手段らしい。

一度使った魔法に勝手に名前をつけると、次からはその名前を思い浮かべるだけでその魔法を発動できた。

魔法の名前は自分で考えて付けて構わない、その名前と発動する魔法のイメージが一致すればいいようだ、

これも、魔法の流派によって、この魔法はこの名前と決まってるそうだが、魔導士ドイルによるとあんまり意味は無いそうだ。

ありがちな「火玉」とか「つむじ風」とかの名前を付けながら魔法の種類を増やしていった。

 同じ様に魔法陣というものも、物や図形に魔法のイメージを植え付ける物で、形や文字はなんでもいいのだそうだ、文字や図形に植え付ける魔法のイメージが一致すればよく、一度使った文字や図形は同じ様な物を描けば同じ効果を簡単に使える事が出来た。

これも、魔法が継承される間にこの図形にはこんな効果、この文字にはこんな効果と言う風に決められるようになり、それを覚える事が魔法使いの必須になっているのだとか、思い込みも魔法発動には役に立つそうで、魔力の弱い者にはそれなりの効果はあると魔法師ドイルは言っていた、ユーゴの場合は初めから魔力が強いので自分で作った方が早いという事らしい。

憶えやすいように魔法陣には、日本語の文字をそのまま使う事にした。魔法師ドイルはその文字に興味しんしんだったが、漢字一文字で意味を成す為文字数が少なくとも意味があり、なおかつ三種類の文字は難解のようだった。

 魔法には適性というものがあるのだそうだ、使う魔法との自分の生成する魔力との相性なような物なのだそうだが、ユーゴはどんな魔法も同じように使えた、水だろうが火だろうが風だろうが、同じように使えたのだ、

まだ使った魔法は簡単な物ばかりなのにその種類はかなりの数になっていった。


 数週間が立ち、森に行って魔物退治の実戦もこなすようになると、使える魔法が増えて自分で付けた名前や図形なのに混乱が生じてきた。

これは自分で決めた魔法をメモ書きでもしないと忘れてしまうな、なにかうまい方法はないもんかな、

ゲームの様に使える魔法が一覧表になって出て来るとか。

よくラノベの異世界小説に出てくるよな。

コンピューターのモニターのような物を思い浮かべるが上手くいかない、色々イメージしてみたが何も起こらなかった。

この魔法の名前なら思い浮かぶんだがな、そう思いながら「使用可能魔法文字表示」と呟くと目の前に先ほど思い浮かべたモニターが現れ、使用可能魔法の文字が浮かんだ、その下に今まで使った魔法の名前が属性ごとに並び、一覧表になっている。

おお、これは便利だ、思わず笑みがこぼれる、名前を先に呼ぶ事でイメージが固定化できたのか、なるほど魔法初心者が魔法の名前や詠唱が大切な訳が判った。

新しい魔法を作るコツをつかんだ気がした。

一覧表には自分で使って名前を付けた魔法が並んでいて、その下に【その他魔法全般】と書かれていた、

これは何でも出来ちゃうという事なのだろうか・・・。


 文字表示という言葉を思いついてから、魔法はさらに便利な物になった、

それまで、検索と念じてみても頭の中に何となくどういうものか浮かんで来ただけだったのが、検索結果文字表示、と念じると、対象の名前やら用途が文字として浮かぶようになった。

さらに使い方が判らない道具類があれば、使用方法文字表示と念ずれば使い方が文字で浮かんだ。


それを人物、魔導士ドイルに向けて試してみると、名前や職業らしきものが浮かび、健康状態まで浮かんで来た。


名前 ドイル・セルバンテス

職業 魔導士 農場経営

健康状態 良好

強さ  ・・・・・・

魔力量 ・・・・・・


強さと魔力量は表示があっても判らないようだった、まあ基準が判らないというのもあるんだろうか。

同じ様に自分に掛けてみると


名前 ユーゴ・タチバナ

職業 神託の転移者 

健康状態 良好

強さ ・・・・・・

魔力量 無限大


は?魔力量無限大? 意味が判らないよ。

神託の転移者?つまり神託じゃない移転者もいるという事だろうか?


この結果をドイルに報告すると、ドイルは結果の前に文字表示という発想に驚き喜んだ、

どうやら、これほどの魔法研究者でも文字表示化と言う発想は無かったらしい。

もっとも、俺だってゲームやラノベの知識が無ければ思いつかないと思う。

しばらく、自分で文字表示の魔法を試しては喜び、片っ端から検索結果文字表示を掛けているようだった、

自分の使える魔法を見たときは、「こんな魔法忘れておった」と普段の威厳など何処かに飛んで行くようなはしゃぎぶりだった。

この世界の魔法は、発想や使い方でまだまだ発展の余地があるらしい。

この文字表示の魔法は、名前をモニターと変えて使うようにした、一度できれば名前を変えてもイメージ出来て使えるようになった。

ドイルによると魔力の消費量が大きいのと質に特徴があるので、使えるように成る者は少ないだろうという事だった。

 ひとしきりはしゃいだ後にドイルは俺の検索結果に懸念を持ったようだ、職業と魔力量は人に見られるのは不味いという事らしい、自分の職業を旅人と上書きするように念じ、魔力量は機密と念じた。

「うむ、大丈夫じゃ、それで見えん」

そう言ってドイルはウインクして見せた、このじいさん結構お茶目である。


 この頃、魔導士ドイルが初めて会った頃より若返っていることに気が付いた、80歳は越えてると思った見た目から10歳ぐらいは若返ったように見える。

それをドイルに伝えると、ドイルは、「おぬしの方はずいぶん成長したようだがの」と言い返してきた。

何の事か判らないまま、桶に張った水に自分を写してみると、ここに来た頃少年になっていてビックリした自分の姿が、今は23歳ぐらいになっていた。

これはどいう事なのか、驚きながらドイルの方を見ると、ドイルは肩をすくめながら、

「わしの本当の歳は百をとうに超えておる」とお道化て見せた、

「な、なんだってえ~」

普通の人間はこんな事は起きないそうだ、ドイルは魔力と気力の関係かのう、と言うだけで本当の所はわかっていないようだった。


うーん、異世界の魔力、奥が深い。


ドイルの話だと、変化の魔法を使えば一時的に見た目は変えられるようだ、だが魔法を使わない状態でも、その時の精神状態で見た目の年齢が変わってしまう事があるらしい。

普通は気が付かないほどゆっくり変わるらしいのだが、今の二人の状態は普通とは違っているという事のようだ。

まあ、これ以上は早々変わらないだろう、というのがドイルの見解だった。


 一ヶ月も経つと(こちらの暦は前の世界とほとんど同じだった)ほぼ思い通りに魔法を操れるようになった。

「ふむ、そろそろ魔法もかなり自由に操れるようになったようじゃな、最後に時空魔法で亜空ボックスを作れるようになったら、ダンジョンの街インターキに行ってみるとしよう」

ドイルがそう言うと、おお、ダンジョンか、やっぱり異世界だな、

中身が38歳の見た目23歳の男は、又少年に戻ったような表情でうなずいていた。


 だが、この時空魔法とやらに思いの外苦戦した。

ドイルが亜空ボックスと呼ぶその魔法は、無制限に物が入れられる空間の事だ、大きくない丸太小屋でも荷物や道具類を亜空ボックスにしまって置けるので、それなりの広さを確保できていた。

操ることが出来ればとても便利な魔法である、ユーゴも元の世界のゲームやアニメで同じような物を見てはいるが、実際に空間を作るとなるとなかなかイメージが湧かない、何も無い空間に出し入れ口を作るのは至難の業だった。

 仕方が無いので革製のポシェットになんでも入るイメージを施して無限ポシェットと名付けた、すると、ほんとに何でも入り、物を取り出す時は取り出したいものをイメージすれば簡単に取り出せた、ド〇えもんのポケットのイメージだなと苦笑いだった。

一応武器も必要かと思い、木の枝を魔法で削り、木刀も作ってみた、この木刀に魔法を乗せるととてつもない威力があった。魔法の杖と同じように念じれば木刀の先から魔法も放出できる、まさに反則的チート武器だ。

 ユーゴは学生時代に剣道の経験があった、それもあって木刀にしたのだ。

魔法で自分の身体能力を高める事も出来た、肉体強化、聴覚強化、視覚強化、さまざまな強化が出来たが、一番驚いたのが動体視力強化だった、この魔法をかけると周りの動きがゆっくり動いているように見えた。


 この時点で、ユーゴは自分はもはや無敵だろうと考えていた、こんな力を与えてあの上位神とやらは、俺になにをさせようとしてるのか、ユーゴの憂慮はそこに集中していた。

何でも魔法で出来る、内心ワクワクと浮かれていたのも事実である、元の世界で普通の小市民として生きてきた彼には、何の野望も無かったのだから当然であった。




3、旅立ち


 ユーゴも魔法で手伝だった麦の刈り取りが終わり、インターキの街を目指すことになった、ドイルも一緒について行くという、知らない場所なのでそれは心強かったが、ドイルにしてみればユーゴを一人にするのは心配だったようだ、ユーゴの事ではなくユーゴに関わるであろう周りの人達の事が。

心配してたのはドイルだけでは無かったようだ、出発の前夜、ユーゴの前に神ゲブスが現れた、

「久しぶりです、ユーゴさん」

「ん?名前覚えたのか?」

「ユーゴさん、なんか言い方が冷たいですよ、私の事怒ってるんですか?やだなあ」

「怒ってる訳じゃないが、なんかその軽さが癇に障る」

「あーあーあー、そう言いますけどこの世界で言葉が通じるのは私のおかげですからね、ドイルさんを紹介したのも私ですよ、もう少し態度を改めてもいいんじゃないですかねえ、翻訳のスキルはなるべく判りやすく翻訳されるようにしてありますが、翻訳が難しい言葉もあるんでそのあたりはご了承ください」

「なんだ?まさか神様が恩を売るために現れた訳じゃないんだろ?要件はなんだ?」

「ああ、それなんですがね、明日、街に出られるようなのでお願いがありまして」

「お願い?」

「ええ、もうお分かりだと思いますが、あなたの力は絶大です。なにか事を起こす時は穏便にお願いしたくて」

「ああ、それは大丈夫、力を振りかざすつもりは毛頭ないよ、出来れば穏やかに暮らしたい、少しこっちの様子が判ったら、穏やかな場所を探して平穏に暮らすつもりさ」

「それならいいんですけど、ほら、力が無ければ我慢しちゃう事も、力があると我慢できなくなっちゃう場合もある訳で、この世界の神としてはとても心配なんですよ」

「ふうん、なるほどな、それはこの世界の神にしてみれば当然の憂慮かもしれないな、でも大丈夫だ、俺は俺をここに連れてきた上位神とやらの思惑通りに動くつもりは無い、生きるのに必要な力しか使わないつもりだ。」

「少し安心しました、くれぐれもいきなり街をぶっ飛ばすなんて事が無いようにお願いしますよ」

「するか」

「いや、ちょっとした冗談ですよ、ただ、出来てしまう事はやってしまいたくなる事があるかもしれません、慎重に行動して下さい、お願いします」

「・・・わかった、肝に銘じとくよ、俺もこの力はちょっと怖い」

「大丈夫そうですね、それではあなたに良き未来がありますように」

神ゲブスの姿が消えた後、ユーゴは頭を掻きながら、「いったいどんな世界なんだ、ここは」と呟いた。



 ドイルは犬型の魔獣を三匹とフクロウを一羽使役していた、フクロウは知り合いとの通信用のようだ、

魔獣や獣は使役する事で知能が高くなり、人間の言葉も理解できるようになるようだ、中には念話をしてくる高度な使役獣もいるらしい。

ドイルが口頭で三匹の犬に留守番を命じ、フクロウに一通の手紙を託して、いよいよ二人で旅に出た、ユーゴの服装はドイルが昔来ていたという旅支度用の服装である、この世界の服装なのだろう、ユーゴ的にはいまいちセンスに合わなかった、ちょっと仰々しいのだ、しかし心のうちに留めた。

一番近い村まで徒歩で行き、そこから乗り合い馬車でインターキの街を目指す事になった。


 のどかな穀倉地帯が続くと最初の村が見えてきた、村の方向から一人の男が歩いてくる、耳の位置は普通の人と同じだが尖って毛が生えている、よく見るとしっぽらしきものもある、虎系の獣人らしい。

剣を腰に差し、手には槍を持っている、兵士というより傭兵と言う感じだ。

ドイルを見つけると親しげに話しかけてきた。

「これはドイル様おめずらしい、お若くなってるので近くに来るまで気が付きませんでしたよ」

「ははは、グルー殿、そこまで若返ってはおらんじゃろう。見廻りかの、どうじゃ?変わりは無いか?」

「はい、お陰様で、去年近くに居たゴブリンを一掃してからこっち、何事もなく過ごしております」

「ふむ、それは何よりじゃ、じゃが油断なきようにな」

「は、心得ております」

そんなやり取りをしている二人の横で、ユーゴは初めて見る獣人に感動していた。

失礼にならないように、それとなくグルーと呼ばれた虎の獣人を観察していると、

「こちらは?」とグルーが訪ねてきた。

ユーゴが名乗ろうとする前にドイルが、

「はるか東の国から来た旅人じゃよ、インターキの街を案内しようと思ってな」

「東の国?では東の森を抜けてきたのですか?それは強者ですな」

グルーは驚いたように逆にユーゴを観察しはじめた。

「まあ、そいう事になるかの」ドイルの歯切れの悪い返事の後、

「ユーゴと言います、はじめまして」

ようやく自己紹介のタイミングが取れてユーゴが名乗った、

「グルーと言う、この村の自警団に雇われている傭兵だ、よろしくな」

見た目より人懐こい感じで挨拶を返して来た、続けて

「黒い髪、黒い瞳、確かに噂に聞くはるか東の国のお人のようですな、いや失礼」

獣人に珍しがられる日本人っていったい・・・

これは、この世界の国の配置や特徴を勉強しないとまずいな、そんな事を考えながら立ち話をした後、

「では、そろそろ行くとしよう」というドイルの言葉で初めての獣人と別れた。


ユーゴが「初めて獣人に会ったのでビックリした」と口にすると、

「なに、この辺りは獣人の方が人口が多い、直ぐになれるさ」と帰って来た。

グルーは元冒険者で、これから向かうインターキのダンジョンにも潜っていたのだが、

数年前に足に傷を負ってから、冒険者を引退してこの村の警護をしているという事だった。

そう言われれば、少し足を引きずっていたかも知れない。

脚の傷などは、ポーションや魔法で直すことが出来るのだが、それを繰り返すうちに治りが悪くなるのだそうだ、いやいやそれまでどれだけの傷を負って来たのだろうか、あの寅さんは。

冒険者というのは、想像より大変な仕事なのかも知れない。


 村に入るとドイルは集会場のような建物に向かった。

「馬車に向かう前に刈り取った麦を売るからの、少し付き合ってくれ」

向かった建物は作物の集積所になっていて、近隣の農家はここで農作物を売って現金を得るのだそうだ、

ここで集めた農作物は専門の業者が他の街や港に運んでいく。

小さな売店もあり、この村の要所になっていた。目に付く村人はドイルが言っていたとおり獣人が多く、こちらではヒューマンと呼ばれる人族と獣人が分け隔てなく働いているようだった。

 この村は東の森に一番近い村という事になるらしい、東の森は、以前は最果ての森と呼ばれていて、強い魔獣が潜んでいて人類には未到の森なのだそうで、その森とこの村の間にドイルが小屋を建てたのは、森からの魔獣の襲来の防波堤の役割をする為というのも一つの理由らしかった。

巨大な東の森を抜けた先にも人が住む国があるらしいというのは伝わっているが、交流は全くなく、実際にどんな国があるのかはほとんど知られてないらしい。

ドイルはユーゴをその東の国から来た来訪者という設定にしたいようだった。

ドイルがこの村で麦を売るのは、現金収入の為という訳では無く、この村の価値を高める為のようだ、

ある程度の作物を出荷できれば商人が買い付けに来てくれる、商人が来ればいろんな品物も運んでくる。

この村人達には重要な事なのだ。

 この村から二日に一度、西にあるイストと言う町まで乗合馬車が通っていた。イストの町からそのまま西に向かうとイスタンという港町があり、イストから北に向かうと目的地であるダンジョンの街インターキがある。


 乗合馬車で半日揺られイストの町に着いた。街並みは木で出来た家が多く、歩く人々は中世ヨーロッパ風の服装の人が目につくが、どちらかと言うと西部劇に出てくる町の雰囲気に近かった。

この町は、インターキのダンジョンから取れる魔石や鉱物、近隣の村から農作物や民芸品などが集まり、港町であるイスタンへの流通の要所となっている。

それほど大きい町という訳では無いが、東の村に比べるとかなり賑わっている。

この日はここで一泊する事になっている、ドイルは迷う事も無く宿屋に向かう、着いた宿屋は一回が食堂になっていて、すでにかなりの客が入っていた。

 宿の人らしい中年の女性に二人部屋を頼むと、少し早いが一階の食堂で夕食を捕る事にした、

この世界での初めての外食はボリュームがあって、ユーゴには食べきれないほど量があった、味は少し大味だがそれなりに美味しく、とにかく肉料理が多い。

後で聞いた所、この肉はほとんど近くで取れた魔物の肉だという事だった。

マジですか。

 ここでも、人族も獣人も分け隔てなくテーブルを囲んでいる、実にいい雰囲気だ。

ユーゴは、なかなかいい世界じゃないか、これなら俺でも上手くやっていけそうだ、とビールとそっくりの酒を飲んだ、ちゃんと魔法で冷えていた。


 次の日、朝一番の馬車でインターキに向かった、肩透かしを食った感じがするほど順調な旅だった、

朝一番の馬車のせいか客はユーゴとドイル、それにもう一人ヒューマンの男が乗っているだけだった。

「いい所じゃないですか、獣人も人も仲良くやっていて、昨夜は久々に楽しかったですよ」

ユーゴが思った事を素直に口にすると、ドイルが答えた。

「なあにヒューマンと言っても猿の獣人さ、大陸の西の方の連中は区別してるようじゃがの」

ああそうか、人類は猿の獣人か、言われてみればその通りだな、この世界ではサル以外の生物も同じように進化したという事なのか。

「まあ、獣人の進化には魔族の思惑もあったようじゃがの、今となってはヒューマンも獣人もかわりは無いて」

え、今さらっと凄い事いいませんでした?魔族の思惑ってなにそれ、

二人の話を聞いていた乗り合わせたヒューマンの男が口をはさんできた、

「お若いの、西の連中の獣人嫌いは宗教が絡んでるからねえ、やっかいなんだよ」

「はあ、そうなんですかあ」

魔族と宗教が絡んでるのか、そりゃ確かにやっかいそうだ、西にはなるべく行かないようにしよう。

 馬車の中で聞いた話をまとめると、

インターキの街の北西にロックハイ山脈という山脈があって、それより西側にヒューマンが中心となってる封建制の国がいくつかあり、互いをけん制しながらしのぎを削っている。

 その西の国々は宗教だけは共通していて、教会が絶大な権力を誇っている、どうやら前の世界で言う所の一神教らしいという事だ。

 その一神教は、他の神様、宗教を認めておらず、邪教徒として獣人は迫害を受けてるらしい、

ヒューマンといえど、他宗教徒はヒューマンと認めていなく迫害を受ける事もあるのだとか、

いやあ、そっちに転移しなくて良かった、ちょっとだけ神ゲブスに感謝。

ん、待てよ、これって神様案件じゃないの?ゲブス何やってんだよ、今度会ったら問い詰めよう。

 魔族については、ハッキリしたことは良く判ってないらしく、言い伝えとして残ってるという事らしかった。

魔族というのは、元々は天界から落ちたデビラスという邪神の事を指していたらしい、

そのデビラスは南西にある大陸に落ち、その大陸にいた獣を片っ端から魔獣に変えたのだそうだ、

その魔獣は互いに戦いながら力を付け、強い者だけが生き残り、邪神デビラスの眷属となった。

眷族となった事で高い知性を持ち、その子孫たちを総じて魔族と呼ぶようになったらしい。

今は、南西の大陸を魔界と呼び、いくつかの国に別れていて、それぞれの国の王を魔王と呼んでいる、

邪神デビラスは大魔王と呼ばれるようになったが、ここ数百年は表に出てきていないようだ。

魔族自体の数は少ないのだけど、魔族は魔獣を何匹も使役できて、これが知能も低く暴力的で手に負えないんだとか。

 後で調べた事だが、魔族は大昔に一度、西の国々を蹂躙したことがあったらしい、

ヒューマンの食物が目的だったらしいが、下等な魔獣たちが片っ端から破壊を繰り返し、挙句の果てにはヒューマンをも食べるものだから、食料が無くなり、食料を作る事も出来なくなり、引き返したんだとか。

蹂躙は出来ても、支配は出来なかったという事らしい。

それ以来、魔族がヒューマンの国を襲う事は無くなったという事だ。

流石異世界、怖すぎだろ。



4、インターキの街


 馬車の中で話が弾んだおかげで、飽きることなく馬車ですごし、休憩をいれながらでも夕暮れ前に目的地インターキの街が見えてきた。

インターキの街は想像より大きく立派だった、今まで見た町とは明らかに規模が違っていた。

高い城壁で囲まれ、街の中心に円柱状の大きな建物があり、それを中心に放射線上に道が作られている、

見事に計画された都市と言う感じだ。

入り口の門で簡単な検査があったが、身分証の無いユーゴでもドイルが保証人になる事で簡単に入ることが出来た。

街並みは中世ヨーロッパと言う感じだが、普通にガラスが使われてるせいかもっと近代に近い感じもする。

通りは小ぎれいに整頓されていて、想像してたよりはるかに清潔だった。


 ユーゴはこの街で職を探すつもりでいた、ここまでドイルに世話になりっぱなしだったが、流石にもうそういう訳にも行かない。

とりあえず冒険者でもやっていけるだろうと考えていた、よくゲームに出てくるようなギルドみたいな物はあるかな、とキョロキョロしていると、ドイルがこっちだと手招きをする、

「ちょっと当てがあるでな、着いてきなさい」

宿にでも行くのかと後をついて行くと、【くれない屋】と言う看板が出ている食堂に入った。

ドイルは「バーバラは居るかの?」と中にいた猫の獣人の娘に尋ねた、

「マダムなら奥の店の方にいますよ」と猫娘が答える、

それを聞いたドイルは「まだ時間が早いと思ったが、向こうか」と言っていったん外に出て、脇の道に入っていく、先ほどの食堂とつながった建物に【夢魔法の館】という怪しげな看板と入り口があった。

脇の道の奥の方は、明らかに娼館と思しき看板と建物が並んでいた。

ドイルは入り口ドアの前で一度ふぅっとため息をついてからドアを開けて中に入っていく、

ユーゴも戸惑いながらも後に続いた。


薄暗い店の中に入ると、

「随分ご無沙汰じゃない」と不機嫌そうな女の声がした。

声の主はキセルの煙を揺らし、半目でドイルを見つめる、

肩が大きく開いた濃い赤のドレスを着て、カウンターの奥から異様な妖気を漂わせていた、

ユーゴは前の世界で聞いた事のある「美魔女」と言う言葉が頭に浮かんだ。

年齢はよく判らない、若くも見えるし、もしかしたら40歳ぐらいかも知れないと思った。

「そこの坊や、女の歳を詮索するもんじゃないわよ」

ひえ~、図星を刺されてユーゴは肩をすくめる、わあ、これ一番苦手なタイプの女性だ、怖い。

ドイルが少し緊張した様子で言う、

「変わりなさそうじゃのバーバラ、相変わらず綺麗だ」

「ふん、せじはいいわよ、そんな事より手紙で書いてきたのはその子かい?」

「ああそうじゃ、ちょっと特殊な男での、作り出す魔力も普通の物とは違うようじゃ」

ドイルがバーバラにそう返すと、バーバラはユーゴの方に視線を向けた、

「あの、ユーゴと言います、ドイルさんにはお世話になりまして」

ユーゴが自己紹介を始めると、バーバラの瞳がユラユラと赤く揺らいだ、

ユーゴは心臓がチクチクするのを感じ、直感で見られているのが判った。

鑑定されている、そう思った瞬間、心の中で遮断と叫んでいた。

「ふーん、面白い子だねえ、神託の転移者、初めて見るよ」

職業は上書きしたはずなのに、簡単に見破られてしまったようだ、美魔女怖い。


 隠しても無駄と思ったのか、初めから話すつもりだったのか、ドイルは今までのいきさつを話し始めた。

一通りのいきさつを説明した後、

「ユーゴに宿る魔力は、どうもわしらの物とは違うようでのう、その辺の見解を聞いてみたかったのじゃ」

どうやら、飽くなき魔法探究者であるドイルは、ユーゴの魔力が普通と違うとみて、美魔女バーバラの意見を聞きたかったらしい、

「そうねえ、この子の魔力は空気中にある魔素とは別に、体内で作り出されてるようね、私もはじめてみるわ、この子を転移させた神はいったいどんな仕組みをこの子に施したのかしらねえ、まったく呆れるわ」

え、俺って異世界でも異端の存在なのね、なんとなくそんな気はしてました、やれやれ。

そんな事をユーゴが考えているうちに、魔導士と美魔女の間で勝手に話が進んでいた。

「わしの部屋はそのままなんじゃろ?しばらく使わせてもらうぞ」

「あの部屋は危なくて近寄れないからそのまま放置してあるわ、勝手にどうぞ、その子は【くれない屋】側の二階に一室空いているからそこを使わせるといいわ」

ユーゴがきょとんとしていると、

「あんたのような危険人物に勝手に歩き回られると迷惑なのよ、家賃はキチンともらうわよ、それと店の子に手を出したら殺すから」

「ひゃい」どうやらユーゴに選択の権利は無いようだった。



 そうこうしているうちに【夢魔法の館】の開店時間になったようだ、客が一人、二人と入ってくる、

客が数人になった所で小さなステージでショーが始まるようだった。

ユーゴはカウンターに出された食事を口にしながら、何が始まるのか興味津々で見ていた。

ステージに立ったのは、ごく普通の格好をした垂れた耳を持つ犬の獣人の娘だった、何も書かれていない白いお面をかぶり、あまり上手いとも思えない踊りを踊り始める。

ユーゴにはとてもお金を捕れるショーだとは思えなかった、ところがお客の方は異常に盛り上がっていた、

中には身を乗り出して見入ってる客もいる。


「あれは幻夢の魔法じゃ」ドイルが種明かしを始めた、

「あの子は客に幻夢の魔法をかけているんじゃよ、客の方は自分の好みの女が自分の望む格好で踊っているように見えているんじゃ」

そういう事か、ユーゴは思わず、

「ええ、それなら俺にもかけて欲しいなあ」ともらしすと、美魔女が冷たい目線を向けて

「あんたは無意識に魔法防御を使ってるから見えないのよ」と言って来た。

ああ魔法防御外したい、でも外し方判らない、残念だなア、と考えていると、

「あの子はね、去年ゴブリンの巣から助けだされた子なのよ、そういう子は元の村にもいられず、まともな仕事にも付けなくなってしまうのよ」

え?、そんな事考えてもみなかった。

ゴブリンは他の種族の女に子供を産ませる性質がある、ヒューマンや獣人の娘がさらわれる事はそれほど珍しい事では無いらしかった。

あの子は助けられた後、ヒールの魔法で体の傷は治すことが出来たが、心の傷は治すことが出来なかった、

バーバラの精神安定魔法でようやく立ち直り、ここに来てからバーバラに教えてもらった幻無魔法で働いているという事だった。


重い、重すぎる、さっき浮かれてた自分が恥ずかしい。

ユーゴが反省している様子をみながら、バーバラは続けた。

「この店の子は、どの子も訳ありだからあんまり詮索しないように、なあに女は強いのよ、たくましく生きているわ、そうそうあの子はまだ魔力が弱いのよ、時々魔力を付与してくれると助かるわ、でも手を出したら殺すわよ」

ひい、それって鰻のかば焼きの匂いだけかいで、食べられないってやつですか?


【夢魔法の館】から出て、部屋に案内してもらう前、ドイルがユーゴにそっと耳打ちしてきた、

「バーバラは実はワシより二つ年上じゃ、そして元嫁なんじゃ、昔はもう少し可愛かったんじゃがのう」

ええ~、この世界に来て一番の衝撃だよ。



5、ダンジョン


 翌日、ユーゴは冒険者とダンジョン探索者を兼ねたギルドが、ダンジョン入り口を囲む建物にあるという事なので、登録する為に向かう事にした。

途中、冒険者風の人を何人か検索してみたが、やはり強さと魔力量が表示されても判らない、試しに強そうに見える男の、強さ、魔力量、を100に設定と念じてみた。

 それから他の人を検索してみると、最初の男を基準にしているだろう数字が出るようになった、ほとんどは100前後でそれ程の差は無いように思えた。

ちょっとドキドキしながら自分にかけてみた、

強さ 18236、

魔力 無限大、

え、桁間違ってないかこれ、

うわあ、下手に喧嘩なんかしたら大変な事になるな、とにかく、他人と争うような事態は避けよう、目立つのは良く無いよな。

 そう考えながら、ダンジョンウォールと呼ばれる円形の巨大な建築物の前に立った、東京ドームほど大きくはないが印象はそれに近かった、壁が高く天井部分がどうなってるのか、下からでは判らなかった。

メインの入り口は大きく、勝手に中に入れるようだ、中に入ると一段低くなった円形の広場が中央にあり、吹き抜けになっている、天井は半透明で光がふんだんに差し込んでいた。

その真ん中にダンジョンの入り口と思しき地下に通じる階段がある、階段の入り口には柵があり、係員がいて許可が無いと入れないようになっていた。

その広場を囲むように様々な施設や商店がならんでいた、壁沿いに三階建てになっていて、テラス状になった通路から下を覗いてる人の姿も見られた。

この中だけは、ユーゴがいた世界の中世ヨーロッパというより近未来みたいだなと思った。

行きかう人々はいろんな人種が様々な格好で行き来している、コスプレの集会みたいだ。


 ギルドの受付は入り口の近くにあった、ダンジョンを目的に各地からけっこう人が来るらしく、ユーゴの他にも新たに登録する人が見られた、その様子を観察してからユーゴも受付に向かった、

「あの、登録希望なんですが」

小ぎれいな格好をした受付嬢に申し出る、ちなみにエルフ耳だ。

こちらの姿格好を窺うようにしてから、

「新規登録ですね、ではこちらに必要事項を書いてください」と書類を渡された。

あいた~、文字は読めるがこっちの文字を書いたことが無い、

頭でモニターと念じ、文字変換ととなえ、日本語で思い浮かべた文字をこちらの文字に変換した、

それを見ながらつたない文字で書き写す。

受付嬢にはモニターは見えない、かなり挙動不審に写った事だろう。

名前と年齢、得意な魔法の種類、主な武器、出身地、帰属する宗教を書くようになっている。


名前 ユーゴ・タチバナ

年齢 23歳

得意魔法の種類 全般

主な武器 木刀

出身地、東の方の国、詳細は秘密

帰属宗教 無宗教


自分で書いて、これで大丈夫かと心配しながら受付嬢に渡す、

受付嬢はしばらく怪訝そうな顔をしていたが、パッと顔をあげて、

「では登録カードをお作りしますので、しばらくお待ちください」と言って来た。

あ、今、考えるのを辞めただろう、と心の中で突っ込みを入れた。


登録カードはすぐ出来てきた、それを受け取って簡単なレクチャーを受けた、

ダンジョン探索者にはレベルと言う物があって、それはギルドに提出換金した魔石の量と質で加算される、

自分で持ち帰った魔石は加算されないとの事だった。

つまりレベルを上げたければ、せっせとギルドに魔石を持ってこいという事らしい。

どうやらレベルというのは、強さと言うより信用度の兼ね合いが強いようだ、レベルが高い方がグループを組む時、色々と有利に働く、魔石を分けるときでもレベルの高い方が取り分が多くなるという具合にだ、

相手の能力の指標にもなるので、組む相手を探す時にも役に立つ。

ギルドから特別な依頼が出る事もあるが、それもレベルに応じてだされるそうだ。

魔物を倒すとその能力を吸収する時があるそうだが、それとレベルは関係ない、その辺はユーゴは興味が無かった、なんせチートを自覚してたからだ。

当然ユーゴはレベル1からのスタートだ、レベルは上がるほど加算点が必要となり上がりにくく出来ていた、

半年ほどでレベル2に上がり、レベル3に上がるのは二年ほどかかるのが平均的なようだ。

「最後に、何層まで潜っても自由ですが、怪我をしたり死亡しても自己責任となります、くれぐれも慎重に探索して下さい」

そう言われてレクチャーは終了した。


 ユーゴはレクチャーを受けている間、時々視線を感じた、ここにいる人々はかなり多様な格好をしているが、木刀を持っている人はいなかった、貧素な武器に見えている事だろう。

その割にはドイルに借りている魔導士仕様の服は高価だ。

そのアンバランスが原因だろうと思った、こりゃ服装と武器は早々に変える必要があるなと感じた。

ユーゴは未だに自分で稼いだ金を持っていなかった、ここまですべてドイルに世話になっていて、今持っている現金も、後で返せばいいと言われて渡されたものだった。

とりあえず稼がないとな。


 そんな訳で、登録早々ではあるがダンジョンに潜ってみる事にした。

ギルドの受付の並びにあった売店で、簡単に食べられそうな軽食と革で出来た水筒に入った水を買い込み、

無限ポシェットに入れて、ダンジョン入り口に向かう。

入り口で係員に作りたての登録カードをみせると、

「単独で潜るのか?無理しないようにな」と声を掛けられる、

「今日は様子見たいだけですから」と答えて中に進んだ。

階段を下りた先にさらに扉があった、ここにも護衛の男が二人いたが、扉は勝手に開けて中に入っていいようだ、扉を開けて中に入ると、思ったより広い洞窟になっていた、入り口近くに魔道具で作られた照明があったが、奥には何もない、それでも薄暗い程度で視界は効いた、壁自体が幾分光っているのだろうか?、

洞窟を進むと分かれ道があり、その先にはまた分かれ道がある、これでは迷ってしまう恐れがあるのでモニターにマッピングの呪文を掛けた、後から判ったのだが売店にはちゃんとダンジョンの地図が売っていた。

最初に出会った魔物は蝙蝠だった、ただ蝙蝠は周りを飛び交うだけでしばらくすると飛び去っていった。


次に出会ったのが小型犬ほどの大きさのイタチに似た魔物だった、数匹が群れになっていきなり襲って来た。

かなり早い動きだったが、動体視力強化の魔法と真空刃と名付けた魔法を乗せた木刀で簡単に撃退できた、死んだ魔物の体の中に光る部分があったので小刀で割いてみると、小さな魔石らしきものが出てきた。

おお、初魔石と喜んでいると、ちょっと大きめのジャカルに似た魔物が襲って来た、不意を突かれたが電壁と名付けた魔法でこれも簡単に撃退、同じように魔石を取り出した。

ダンジョンの中の魔物の死体は数十分でダンジョンに吸い取られるように無くなってしまうと聞いていた。

先に倒したカワウソもどきは、もうすでに溶けるように無くなりかけていた。


 そんな調子でかなりの数の魔物を撃退して、その日は打ち上げにすることにした。

帰り道、来た時と同じように蝙蝠の群れに出会った、やはり襲ってくる気配はなく天井でこちらの様子を窺っているように見える。

ユーゴは前から使ってみたかったドイルが使っている魔法を試してみる事にした、

蝙蝠の集団に向かって「テイム」と呟く、すると蝙蝠は了承を示す思念を送って来た、

ユーゴはちょっと愛情に欠けるかもと思いながら、蝙蝠にB1、B2、とB8まで8匹の名前を付けた、

これで契約完了のはずだ。

蝙蝠たちは喜びを表現するかのようにユーゴの周りを飛び始めた。

「よしよし上手くいったようだな、じゃあ、俺が今度来るまでダンジョンの中を調べて置いてくれ、今度来た時案内を頼むよ」

そう言うと、蝙蝠たちはそれぞれに散っていった。

次はもっと奥まで行けそうだな、そう思いながら出口に向かった。


 魔石の換金所に魔石を持って行くと

「一人でこんなに捕ったのかい?大したもんだなあ」と係員の親父に言われてしまった、

換金した金額は6800G、元の世界の日本の単位でいうと感覚的には10倍の6万8千円ぐらいか、

確かにいきなり一人で潜ったにしてはいい稼ぎだった。

一階層で普通は一日1000Gぐらいが平均なようだ、二階層に進めばもっと稼ぎは多くなる。

これはギルド換金所で換金しすぎるのは注意した方がいいかな、なるべく常識的な稼ぎにしておいた方が無難だろう、次からはギルドに売るのは一部にして、街にある道具屋や武器屋にも持って行ってみよう。

ユーゴはなるべく際立った力を隠したかった、面倒ごとに巻き込まれるリスクが高くなると思っていたからだ。


それから数日、ユーゴはダンジョンに潜り続けた、武器や防護服が欲しかったのもあるし、ドイルに今まで世話になった借りを早く返したかったというのもあった、しかし何よりダンジョン探索が面白かった。

 使役した蝙蝠達は想像以上に役に立ってくれた、潜んでいる魔物の位置を思念で教えてくれるので、不意打ちや待ち伏せに会う事も無かった、他の探索者の位置も判るので鉢合わせしないようにして、誰かに見られる心配も無く魔法も使えた。

 日数を経る事に蝙蝠の思念は細かい事まで伝わるようになり、離れていても喜怒哀楽まで判るようになった、

さらに、蝙蝠の思念をモニターに写す事で、行った事の無い場所までマッピング出来た。

一週間も経つと三階層までのマッピングは完璧に終わっていた、四階層は魔石の他に珍しい鉱物も取れ、その位置まで知らせてくれる、実に効率よく稼ぐことが出来た。

四階層は普通レベル1の探索者が入る領域ではない、レベル2でも危険だ、レベル3の探索者がグループで潜るのが一般的な場所だった。

その為、ギルドの換金所では二階層までの魔石を換金して、三階層四階層の魔石や鉱物は持ち帰ることにした、後で武器屋などで物を買う時に使うつもりでいた。


6、初めてのお買い物


 半月ほどで、かなりの額と魔石が溜まったので、ユーゴは自分の装備を新たにそろえる事にした、

ドイルには、今までお世話になった分と借りていた金額を大目に返した。

「そんなに急いで返さなくてもよかったんじゃがな」と言いながらも受け取ってくれた。

武器屋や装備屋などが集まっている地域に足を運ぶと、久々の買い物に心躍った、

元の世界でも骨董屋や古着屋を覗くのが好きだったユーゴは、目をキラキラさせながら店を回った。

 まずは装備のオーダーメードの店で、黒っぽい獣の革製のジャケットとズボン、それに濃いカーキ色のマントを注文した。

魔法効果のある高級品もあったが、ユーゴは自分で魔法付与ができたので普通の革製の物を選んだ、

仕上がりは一週間後という事だった。


 次に武器屋を見て回る、大きい魔物様に、ある程度の長さのある剣と、狭い場所用の武器を考えていた。

何軒か回っていると、「武器製造販売、ジャスティスの店」と書かれた看板が目についた、

中に入ってみると、いかにも職人と言う感じの小太りの男が刃物を無言で研いでいた。

陳列棚には様々な武器が並んでいる、中にはどうやって持ち運ぶんだろうと考えてしまう大剣や、忍者が使いそうな鎖鎌のような武器まであった。


 店の最奥にひときわ目を引く物が置いてあった、どうみても日本刀である。

ユーゴの知ってる日本刀より少し長めで、柄の部分も長い、対人用というより対魔獣用にできてるようだ、

ユーゴが立ち止まって見入っていると、店の主人がいつのまにか近づいてきて、

「その刀に興味がおありかい?」と聞いてきた、

「見事な刀ですね、波紋も美しいし、反りもいい」そう言うと主人は少し驚いた顔をして、

「お詳しいな、もしや侍の里の出身か?」と尋ねて来る、

侍の里??、そんな所がこの世界にあるのか、ちょっと驚いたが顔に出ないようにして

「いや、まあ、近い感じです」とごまかした。

「黒い髪、黒い瞳、その血筋であることは間違い無かろう、どうかな、買う気はあるかね。

この刀ははるか東の国で作られた物のようでな、どういういきさつかは判らないが、龍人の男が持ち込んだものだ」

うーん、いろいろ判らない単語が出てきたぞ、これはいよいよ色々調べて勉強しないとまずいな。

そう思いながらも、

「欲しい、欲しいんですが、お高いんでしょう?」ユーゴがそう言うと、

「まあな、妖刀風丸、という名が付いている東の国でも名刀と言われた物らしいからの、なんでも風の魔法との相性が抜群らしいで」

そう聞くと、ますます欲しくなっちゃうなあ、でいくらなの?そう心の中で思っていると、

「ずばり100万G、と言いたいところだが、実はこれを持ち込んだ男から出来れば侍の血筋の者に売って欲しいという注文があってな、そうよな50万Gでどうだ?」

元の世界でいうと、500万円位か、てか、それってあんたはいったいいくらで仕入れたんだよ、

心の中の突っ込みを察したのか、続けて主人が

「これを持ち込んだのは槍の使い手でな、その槍と防具の修理代として置いて行ったもんなんだよ、その槍と防具というのもとんでもない代物でな、元手がかかっている、これ以上はまからん」と言って来た。

うーん、多分50万Gでも安いんだろうなぁ、でも、これ差して歩いたら違う意味で木刀より目立っちゃいそうだしなあ、あ、普段は無限ポシェットに入れておけばいいか。

「えーっと、手持ちの現金は足らないんですが、魔石をいくつか持ってます、それを鑑定して頂いて支払いでもいいですかね?」

そう言って、魔石をいくつか取り出した。


「ばかもん、火炎の魔石をそんな無造作に扱うな!、これは少しでも魔力を通すと燃え上がり、下手すると爆発するんだぞ」

え?そうなんですか、いくつかの魔石の中の一つを取り出した時、主人に怒鳴られてしまった。

主人は厚手の手袋を取り出して、その魔石を受け取る。

「魔力遮断の手袋を使わず取り扱うのはご法度だ、何を考えているんだ」

いやあ、知らなかった、あっぶねえ、

「なかなかいい魔石が揃っているな、ギルドに売らずとも良いのか?、これなら刀の代金に釣りが出るぞ」

「え、ああ、いいんです、俺はあんまりレベルに固執してないんで」

四階層の魔石は、思ったより価値があるらしく、大小三十個で話がついた。


「それと、もう一つ注文があるんですが」

ユーゴは狭い場所での接近戦の武器を注文しようと、事前に描いておいた簡単な設計図を取り出した。

「なんだこれは?あまり見ないな」主人がそう言うのも無理は無かった、

ユーゴが描いたのは、前の世界で言う所の三段棒だった。

三段棒を木刀の変わりに使おうと思ったのは、もし対人戦になったときに刃物より安全だと思ったからだ、

「できれば、雷の魔法と相性良くしてくれると助かります」そうユーゴが言うと、主人はニヤッと笑って、

「まかせな」と言って来た。

「出来上がりは一か月後、悪いが代金は作ってみなきゃ判らねえ、それでいいか」そう言われて了承した。


 その後、武器屋で味を占めたユーゴは、その他の道具類や普段着なども魔石を使って購入して鼻歌まじりで家路についた。

家に帰った後、妖刀風丸を試し振りしようと思い、腰に差すと長すぎるので、背中にたすき掛けにした。

佐々木小次郎みたいでいいんじゃねぇ、と、さっそうと刀を抜こうとすると、

長すぎて抜けない、何度か試したがどうしても抜けない、結局鞘を手に持たないと抜けないと気が付いたのはかなり経ってからだった。

ユーゴはこの事は秘密にしようと思ったのだった。



7、この世界



 ユーゴは、三段棒が出来上がるまでの一ヶ月の間、ダンジョン探索の回数を減らして、この世界の情勢や地理を勉強する事にした、この世界で他の住人と関わるにはやはり必要だと武器屋で痛感したからだ。

 ドイルはその後、森の小屋に帰る様子もなく、図書館や古書を扱う店などを回って調べ物をしているようだった、そのドイルに役に立ちそうな本を選んでもらって読みふけるようになっていた。


 本から得られた情報によると、

ユーゴがいる大陸はユーストラム大陸といって、この世界最大の大陸で、インターキの街はそのほぼ中央の海が南側から入り組んだ場所に位置していた。

最初にユーゴが転移された森は、想像より広大ではるか東の方まで続いてるようだ、まったく人が住んでいない訳では無く、森の浅い所に獣人やエルフの住処があるらしい。

その北側は高い山々が続く山脈地帯で、龍の住処があると言われているらしい、その山に住んでいるのが竜人と呼ばれる人達で、龍の加護を受けていると言われてるようだ。

この広大な森林と山脈によってこの大陸は東西が分断されていて、その東側は謎とされていた。

東側にも国がいくつかあるとされ、その中に「侍の里」と呼ばれる地域があり、その始祖は大昔に現れた転移者だとされていた。これはほぼ間違いなく日本人だなとユーゴは思った。

さらに、謎とされている「忍びの里」と言われる地域があるらしいという記載があった、この里の人間は、西側でアサシンとして恐れられた時期があったらしい。


いやいや、どういう基準で転移者を選んでるのやら、俺は普通のサラリーマンだったんだけどなあ、

ユーゴは虫目の神様を思い出しながら思った。


 龍の山脈はインターキの街を北側から回り込む様に海まで続いていて、この部分をロックハイ山脈といい、その西側にヒューマンが中心となっている国々があるようだ。

この地域は、大昔は小さな国がそれぞれの神様を持ち、お互いに争っていたのだが、ある時、聖者が現れて唯一の神を唱え、宗教が統一されると、いくつかの大きめの国になり、争いも減ったとある。

しかし、一神教の為に他の宗教への弾圧がひどく、邪教徒は奴隷にしても構わないという考えが今でも残ってるようだ。書物によると文化の程度は産業革命前ぐらいの印象だ。


「この聖者というのも怪しいよなあ」ユーゴは独り言ちした。


西のヒューマンの国々の南側に、大きな半島のような形で魔族が住んでいる地域があった、

いくつかの国に別れてはいるが大魔王の名の元に連合を組んでいる。総じて魔界と呼んでいるらしい。

インターキの街とは大きな湾をはさんで対岸になる。

魔族についてはインターキに来る時に馬車の中でも話を聞いたが、それは伝承でしかなく、はっきりしないようだ。

書物によっては高位の魔族は知能も高く、無闇に殺戮は行わないと書いてあるものもあった。

どうやら、魔族と言うのは前の世界のイメージとは少し違っていて、他の種族より魔力が著しく高い種族と言う意味でもあるようだ。中でも際立った力を持つ者を魔人と呼び、魔王になってる者は皆それに該当するらしい。

そういう定義で言えば、ユーゴは間違いなく魔族になってしまうし、魔人にも該当しそうだ。

はっきりしているのは、高位の魔族と低位の魔族とでは知能の差が激しく、主従の関係がはっきりしているという事だった。馬車の中では使役された魔獣扱いだったのだからよっぽどなんだろう。

それと、酒が大好きで上手い酒が欲しいあまりに魔界の外にでる者もいるらしい。

この辺は個人差もあるんじゃないかなあ。


獣人については、東の森に大昔に魔人が現れ、獣を従属した事があって、その子孫が進化を遂げたという伝説があるそうだ、まあ、これも真意の程は判らない。


インターキの街の周辺は、言わば都市国家のような感じで、港町イスタンを通じて魔石や鉱石を輸出していて政治的にも独立しているようだ。

魔界とヒューマンの国々の境界に運河が作って有り、そこを通ってヒューマンの国と貿易をしている。

世界的に見ると、ヒューマンと獣人が平等に暮らしてるのはここだけのようだ、その代わり実力世界になっていて、魔力や腕力の弱い者には暮らしにくくなっている。

まあ、完璧とはいかないようだ。

インターキにあるダンジョンは世界最大と言われており、各地にもダンジョンはあるのだが規模がかなり違うらしい、と、こんな感じだった。


この世界全体を通してみると、問題は結構あるようだがユーゴが想像してたより安定してるように思えた。

とりあえず、しばらくはインターキの街にいるのが無難そうだった。



8、商人



 三段棒の受け取りの約束の日、ユーゴは三段棒を受け取ったらその足でダンジョンに潜るつもりで仕度を整え、ジャスティスの武器屋に向かった、妖刀風丸は無限ポシェットの中だ。

 武器屋の主人はユーゴが入って来るなり、「よう、出来てるぜ」とちょっとドヤ顔で布に包まれた棒状の物をカウンターの上に置いた。

布を広げて中を検めると、黒褐色の金属で出来たユーゴのイメージよりちょっと長めの三段棒が出てきた。

「微妙な上下の太さの調整に手間取ってな、注文よりちょっと長めになっちまったが、使い勝手には影響無いと思うぞ、雷を通しやすく耐久性もあるスタウムという金属で作ってある、握りは角牛の皮を撒いておいた。」

そう説明されて、棒を伸ばして試し振りをする、悪くない、重さも丁度いい。

「うん、いい出来です」と主人に言うと、ますますドヤ顔になっていた。


代金は先日の魔石の小さめの奴でいいというので魔石で支払うと、

「実はな、お前さんがこれを取りに来たら知らせて欲しいと、数日前から来てる御人がいてな」

そう小声で言って来た、

「え?、俺が注文した事を知っていたんですか?」と尋ねると、

「いや、それはな」と口ごもる、どうやら主人自ら漏らしたらしい。

「どんな人なんです?出来れば会いたく無いなあ」と言うと

「それがな、もうそこに来ているんだ」

ユーゴが振り返ると、ニコニコ笑ってる背の高い細身の中年の男が立っていた。


「初めまして、わたくし、スクルトと申しまして、港町イスタンに本部を置くヒルフォーマー商会のインターキ支部長をしている者です」

そう自己紹介をしてきた男は、品のいい何処かの貴族の羊のような雰囲気の男だった。

「実は、この辺りにギルドを通さずに魔石を捌いてる奇特な御人がいらっしゃるとの噂を聞きつけまして、ぜひお近づきになりたいと思いまして、探していたのでございます。よろしければ是非お名前をお教えいただきたく」

ああ、これは下手打ったかな、ギルドで目立つのを避けるために、返って巷で目立ってしまったか。

ユーゴがそう思いながら店の主人の方を見ると、明後日の方を見ながら知らんふりをしていた。

少し考えれば、素材として使う魔石の他は何処かで売るしかない訳だから、こうなる事は予想できたはずなのに、失念していた自分のせいでもある。

「はあ、名乗るほどの者ではありませんよ、ただの駆け出しの探索者です」

ユーゴは自分で言いながら苦しいなと思った。

スクルトと名乗った男は、何やら察したという表情で、

「私共が興味があるのは、あくまで魔石でございます。あなた様を詮索する意図は毛頭ございませんのでご安心を、ただ、連絡を取る手段が欲しいだけでございます」と言って来た、

少し考えるユーゴを見て

「もし、魔石を譲っていただく事が出来るのであれば、ギルドで換金するより高値で買い取らせていただきますよ、ギルドはあれで案外暴利なものでして」

ギルドは探索者から買い取った魔石にかなりの利益を乗せて業者に卸しているらしい、それでも探索者はレベルの他にもギルドからの特典、地図情報や危険地帯の情報、魔獣の出現状況や異常行動などの情報が欲しい為に、あまりギルド以外で魔石を捌きたがらない、そんな状況でユーゴが大量に魔石を街に流してしまった、という事らしかった。

「はあ、でも今は先日使ってしまったので、あまり魔石を持っていないんです、またお売りできるぐらい溜まった時にはこの店に言っておきますよ、その位はここのご主人もしてくれるでしょう」

と主人の方を見ると、判った判ったと細かく顔を上下に振っている。

「私の名はユーゴ、あまり期待しないでいて下さい」そう言ってスクルトから名刺を渡され店を後にした。


 うーん、今後の行動はちょっと慎重にした方がいいなと思いながら、その日は取りあえず今まで通り単独でダンジョンに潜ろうと、ダンジョンウォールを目指した。



9、三人とポーター



 数日後、

ユーゴは【ポーターやります】と書いた看板を立て、ダンジョンウォールの入り口近くで折り畳みの椅子に座っていた。

今日で三日目だが、まだ声を掛けられたことは無い、その姿はちょと寂しいものがあった。


 ダンジョンに単独で潜る者は少ない、それだけでも目立つのに捕ってくる魔石が多いとなると悪目立ちである、街で魔石を捌くのも問題があると判ったユーゴは、それならフリーのポーターとして他のチームにくっついて行って自然な形で魔石を稼ごうと思ったのだ。

数日前、ユーゴのレベルは2に上がっていた、それに合わせ登録カードに乗っている主な武器を三段棒と刀に書き換えていた。

 念のため、検索で見れる強さと魔力を隠蔽の魔法で両方800にしておいた、よく見かける探索者の上限がこの辺りだった。

あまり弱く設定すると、一緒に行動した時不自然になるし、もし検索されても文字表示はされないから、何となく「強い」と感じる事しか出来ない、適当で大丈夫だろうと思っていた。

検索自体されたことは今までないと感じていたから尚更だった。


 「ほう、珍しい事をしてる奴がいるな」と近づいてくる集団があった、いかつい男の三人組だ。

真ん中の男はかなりの巨躯で、目に黒いゴーグルのような物を付けていた、どういう仕掛けかベルトや耳掛けが無く、顔に張り付いてるように見える。

興味半分で検索してみると、


名前 魔法ゴーグル

効果 望遠 暗視 熱探知 透視 検索


と出た、うわ、凄い魔道具だ、しかも検索まで出来るのかとビックリしてると、

「どうだ?いい眼鏡だろう」と男はニヤッと笑った。

ひえ、検索したのばれてる、もしかして文字表示もされてるとか?なんかやばいなあ、そう思っていると、

「よし、俺たちと一緒に来い、分け前は持った荷物の量に応じて考えてやる」と言って来た、

すると獣人の男が

「おいおい、大丈夫か、こいつレベル2だぜ、看板に書いてある」とユーゴの看板を見ながら言って来た、

「なあに、レベルが低いから弱いとは限らねえよ、なあ」とゴーグル男がこちらを見て言う、

もう一人の鋭い目つきの両腰に短剣を刺した男が静かな声で、

「バースが言うならそうなんだろう」と言ってこちらを値踏みする目つきで見ていた。

獣人がいまいち納得しない様子でいると、バースと呼ばれたゴーグル男が、

「荷物が持ち切れずに早めに上がる事が多いんだ、荷物持ちがいればお前も助かるだろう」と言い、

「まあ、それはそうだが」

と話が決まりそうになった時、ユーゴが

「あのう、時空魔法のポシェットがあるんで、荷物はいくらでも持てますよ」と言うと、

三人がビックリした顔でこちらを見て「早く言えよ」と声を揃えた。

この時初めて、時空魔法が使えるのはかなりのレアなのだと判った。


「前言撤回、分け前は人数割りの50%だ」と言いながら、バーズはこれも持てとばかりに自分のバックを渡してきた、他の二人の荷物も預かりながら、

「ユーゴと言います、よろしく」と言うと

「コイルだ、よろしくな」と獣人が答え、「ハンス」と自分の名前だけ鋭い目つきの男が言った。

「俺はバースだ」と最後にゴーグル男が改めて自己紹介をしてきた、その後小声で「別に視てもかまわんぞ」と耳元で言った。

彼らのレベルはバースがレベル6で他の二人はレベル5だそうで、レベル2のユーゴに人数割りの50%というのはかなりの厚遇と言えた、良い人達に当たったなとユーゴは思った。


では、遠慮なく、と三人を後ろから検索してみる、


名前 バーズ

職業 ダンジョン検索者 傭兵

強さ 1262

魔力 946


名前 コイル

職業 ダンジョン検索者 傭兵

強さ 826

魔力 951


名前 ハンス

職業 ダンジョン検索者 アサシン

強さ 981

魔力 724


バースは1200超えかあ、三人供最強クラスだな、アサシンって魔獣には役に立つのかな、これは彼らの戦い方はぜひ見てみたいな、色々参考になるだろう。

三人の一番後に付いてダンジョンの中に入ると、獣人のコイルが自分がしんがりになるからお前は俺の前を歩けと支持してきた、見かけよりずっといい奴みたいだ。

 しばらく歩くと蝙蝠がユーゴを見つけて喜んで上空を飛び回り始めた、喜んでいると判るのはユーゴだけ、後の三人は怪訝そうに見上げる、するとバースが、

「なっ、お前、蝙蝠を使役しているのか?」と大声を上げた。

他の二人も、まさかと言う表情でユーゴを見る。

「ええ、まあ、可愛いんですよ、こいつら」と言うと、今度はあきれ顔でユーゴを見ていた。


 この頃には蝙蝠達の思念は簡単な言語が混じり始めていた、

(あるじがきたぁ)(ひさしぶりぃ)(わーい)とか騒いでいるのが判る。ユーゴが周囲の警戒を命じるとパタパタと散っていった。

歩きながら、三人に蝙蝠達の能力を説明すると、そりゃあ便利だと感心した後、

「こりゃ、今日は期待できるかな」とバースが呟いた。

 バースたちの今回の目的は、トサカレックスという、二本足で歩く頭にトサカのような物が付いたトカゲの一種の特異種で、普通は赤色をしたトサカが紫色をしている。

数も少なく物影から不意を襲ってくるので、なかなか見つからない為、年に一匹仕留められれば運がいいそうだ。そのトサカは貴重な薬の原料で、仕留めた後、手早く切り取らないとダンジョンに溶かされ使い物にならなくなるらしい。


 四階層までの魔物は、三人に掛かるとほぼ瞬殺だった、順調に五階層に入った。

五階層は今までの階層とは様相が違って、広大な平原が広がっている。

天井も高くダンジョン内という事を忘れてしまいそうなくらいだ、このダンジョンは壁や天井からほのかな光が発せられてるらしく、この階層も、地上の晴天という程では無いが、曇り空ぐらいの明かりは差していた。

そのせいか、シダ類のような植物も生えていてかなり巨大な物もある、中央付近には地下水の川まであった。

 その為、六階層より深く潜る場合は、ここにベースキャンプを張り、日数をかけて探索するのが定石となっていた。

ただ、その為にはある程度の人数が必要だった、ベースキャンプの機材の他に、ダンジョン内では魔物の肉は溶けて無くなってしまう為、食料を地上から持ち込まなければならず、数日分となると、ポーターを雇って運んでもらうしかなかった。

ユーゴもその辺りの需要を狙ってフリーのポーターを始めたのだが、契約制のポーターの数は多く、あまり需要はなかったようだ。

 探索者は普通チームを組む、その方が安全だし効率もいいからだ。

ギルドにはチームで登録も出来、その実績によって特別な依頼を出す事がある、今回のバースたちの様にだ。

チームが十人を超えるとファミリーと呼ばれるようになる、百名近くになる大きなファミリーもいくつか存在していて、そうなるとポーターもメンバーに組み込まれている。

六階層より深い階層は、そういうファミリーや人数が多めのチームが主体となる場所だった。


  

 「ユーゴが居れば、ここに泊まるのも簡単だろうな、時空魔法ってのは反則技だよな」

そう獣人のコイルが冗談めかしに言うと、

「ああ、次はそうするとしよう、だが今日は準備してこなかった、このまま行くぞ」

とバースが答える。

ここまで、最短距離を魔獣を瞬殺しながら進んできた、普通のチームの半分以下の時間で来た事だろう、

この三人にとっては、七階層でも日帰りコースのようだ。

六階層は、五階層に川がある影響なのか、かなり湿気の多い場所だった、

大小の池が点在していて、時々、飛び魚のような魔物が突然水の中からもの凄いスピードで襲ってくる、これは蝙蝠達も予測できなかった。

だが、そのことごとくをコイルとハンスが打ち払った、ユーゴに攻撃が及ばないように気遣いながらだ、

いや、ほんとにこの二人は見た目と違って優しくて頼りになる。


 いよいよ目的の七階層に着いた。

他の階層より薄暗く、そこらここらに岩の柱が天井まで繋がっていて、鍾乳洞の洞窟のようだ。

待ち伏せを得意とする2メートル強の小型の恐竜のようなトサカレックスには持って来いの場所なのだろう。

慎重に進みながら蝙蝠達に警戒させていると、(ここにいるー)(こっちもいたぁ)と思念を送って来た、

「左奥の岩陰に一匹、その奥の柱の陰にもいます」とユーゴが言うと、

「よし」という声と共にコイルとハンスが左右に疾走、コイルは三角錐の金属が付いたワイヤーのような金属糸を自在に操りトサカレックスの自由を奪い剣で止めを刺す。

ハンスは獲物の視覚に回り込むと投げナイフを目に向けて投げる、とそれが刺さるとほとんど同時に喉元を短剣で掻き切っていた。                 

その奥からたまらずに突っ込んできたもう一匹のトサカレックスを、バースが足を一歩動かしただけで一刀両断にした。

ここでも瞬殺かよ、となかばユーゴが呆れていると、

「ユーゴ、蝙蝠達にムラサキトサカを探させることは出来るか?」とバースが聞いてきた。

「やってみます」と答えて、蝙蝠達に思念を送ると、

(いろわからりずらい~)(いろわかんないよね~)(かたさがちがえばわかるよ~)と騒いでるのが伝わってくる。

「色の識別は難しいみたいです、他に特徴ありませんかね?」とユーゴが問うと、

「大きい奴だ、一回り大きいトサカレックスを探してくれ」バースが答えた。

 ユーゴが再び思念を送ると、

(わかったぁ、さがしてくる~)(じゃ、ぼくこっち~)(ぼくはこっちね~)と散会していった。

しばらくすると、(こっち、こっちにいる~、ちいさいのもかくれてる~)と右奥にいるB4と名付けた蝙蝠から思念が来た、(でかした)と思念を送ると(えへへ、ほめられた~)と喜んでるのが判る。

「この先、右にいった所にいる群れのなかに大きいのが居るようです」


 確かに一回り大きいトサカレックスがいたが、残念ながらムラサキトサカでは無かった。

そんな調子で3匹ほど大きめのトサカレックスを倒したが、ムラサキトサカは一匹もいなかった。

「なかなか、いませんねえ、もう少し範囲を広げてもらいます」とユーゴが思念を送っていると、

「そう簡単に見付かると思っちゃいないさ、ユーゴと蝙蝠がいなきゃもっと苦労してるしな」

とバースが言うと、

「まったくだ、こんな楽な狩りは初めてだぜ」とコイルが続ける。

ハンスは、・・黙って歩いていた。


数時間が経ち、諦めムードが漂い始めた頃、蝙蝠B2から思念が送られてきた、

(いっぱいのとかげのなかに、おおきいのいた~、いままででいちばんおおきい~)

「この奥の広くなった場所に、多めの群れがいて、その中にデカいのがいるそうです」

ユーゴがそう言うと、

「当たりだな」と無口のハンスが珍しく口を開いた。

「よし、静かに近づくぞ」とバースの指示の元、相手に気づかれないように近づいていった。

 岩陰に隠れてトサカレックスの群れの様子を窺う、かなり大きい群れのようだ、10匹以上いる。

その最奥に、ムラサキのトサカが見えた。

「よーし、ようやく見つけたぞ、だが、ちょっと数が多すぎるな」バースが言うと、

「あれじゃ、手前の奴を片付けてる間に逃げられるぞ」とコイルが続ける、

ハンスは、・・無言で考え中。


「あいつらはタフだ、時間が長引けば面倒になる、油断してると毒を吐くしな」と、バースがユーゴに聞こえるように半分振り返って言う。

毒?そんなの聞いてないよ、と心の中でぼやいていると、

「おい、ユーゴ、お前出し惜しみしてるだろう、なんか足止め出来る魔法持ってるんじゃないのか」

と意味ありげにバースが言う、

ゴーグルで目元が判らないが、絶対半目になって言ってるな、とユーゴは思いながら、

「わかりました、なんとかやってみます。あの岩まで進んで魔法を掛けますから、その後突っこんで下さい」

そう言うと、隠密、隠匿と二重に念じ、前にある岩まで素早く移動した、

雷の魔法だと後から突っ込んだ連中も痺れるかもしれないな、それなら、

「氷結」

そう念じて三段棒を地面に付き立てた。

三段棒の先から、トサカレックスの群れに向かって冷気が走る、あっという間に群れ全体に広がり、地面が白くなったかと思うと、トサカレックスが足元から凍り付いて行く。

「今だ」後ろから三人が飛び出した、コイルとハンスが手前のトサカレックスを次々切り刻んでいく、バースは一直線にムラサキトサカに向かい、大剣を振りかざす、

ムラサキトサカは目をむいて避けようとするが、すでに体が思うように動かなかった、次の瞬間その頭は凍った地面に転がっていた。



 剣でムラサキのトサカを切り取り、特別な保存用の袋に入れてユーゴに渡しながらコイルが言った、

「おまえ、ふざけんなよ、来る時の俺の気遣いを返せ、バカみたいじゃねえか」

ああ、いやあ、経験が少ないんで助かったんですがね、と、困った顔をしていると、

後ろからハンスがユーゴの肩を掴み、降り返させると、

「ユーゴ、貴様、あの氷結魔法の前に使った魔法はなんだ?、あんな気配の消え方見た事が無いぞ、いったい何処で覚えた?」と矢継ぎ早に聞いてくる。

え?、ハンスさん、あなたそんなに早口でしゃべれるんですか、キャラ壊れてますよ。

「ああそれは、・・東の方で・・」とごまかしていると、

「おまえの手柄だが、分け前は頭割りでいいか?」バースがムラサキトサカの袋を見ながら、ニヤっと笑ってそう言って来た。


地上に戻るとトサカと魔石を換金して、人数割りで分ける、

「ほんとに頭割り分もらっちゃっていいんですか?50%でも良かったんですけど」

と恐縮しながらユーゴが言うと、

「魔石もいつもより沢山とれたからな、三人で潜った時よりかなり稼ぎはいい、それにあれで半分にしたら、こっちの立場がねえよ」そうコイルが言うと、「問題ない」とハンス「だとさ」とバースが続いた。

ギルドの掲示板に伝言を貼っておくから次も頼む、と言われて三人と別れた。

 くれない屋の二階の自室に戻ったユーゴは、バーバラから日々の出来事を報告するように言われてるのを思い出したが、今日は疲れたから明日でいいや、と思い、そのまま就寝した。



10、新たな情報


 次の日、疲れをとろうと何もせずダラダラ過していると、暗くなってからノックが聞こえ、「マダムが奥の店で呼んでるよ」と猫の獣人ちゃんに言われる。

 昨日報告しなかったからな、と思いながら【夢魔法の館】に入ると、相変わらず不機嫌そうなバーバラとその手前のカウンターに座っている見覚えのある男の背中があった。

「よう、蝙蝠使い」そう言って振り返ったのは、なんとバースであった。

「面白い男に会ったとマダムに報告に来たら、まさかここに住んでるとは思わなかったぜ、世の中狭いもんだな、ガハハハ」とバースが笑いながら言う、

「この男には、以前うちの娘が助けてもらった事があってね、で、なぜ私の知らないユーゴちゃんの出来事が、他所から聞こえてくるのかしら」・・ひい、美魔女のジト目怖い、

「いや、それはこれからお知らせしようと、ハハ」ユーゴは引きつって言い訳をした。


 以前、店の女の子が強姦に襲われそうになった所をバースが助けた事があり、なにか礼をするとバーバラが言うと、バースは相手の力が判る魔道具が欲しいとねだったそうで、その時作ったのがバースがいつも付けてる魔法ゴーグルという事らしかった。

 バーバラはインターキの街ではかなりの有名人らしく、なんと評議員の一人でもあるそうだ、

その魔力も知られていて、バースは無理と思いつつも魔道具をねだったらしい、バーバラはダンジョン内や街の出来事を知らせる事を見返りにゴーグルを作ってやった、それで今日は面白い男に会ったという報告に来たという訳だった。


「そういう訳だ、決してすけべな魔法に掛かりに来た訳じゃねえぞ、見えるもんは見るがな」

え、バースには見えるのか?羨ましいぞ。

「ところで、そのゴーグル、いつもそうやって付けてるのか?」とユーゴが聞くと

「これは、俺のトレードマークだからな、寝るとき以外は外さねえ、唯一の例外はここのショーの時だけだ、ハハハハ」バースは億面もなく言った。

「フフ、その男はそのメガネを外すと、迫力に欠けるのよ、かわいいんだから」とバーバラが茶々を入れると「うるへい」とバースは不貞腐れた。

「ほかの二人は?」とユーゴが聞くと、「あいつらは、この奥の方の店になじみの女がいるからな、そっちだ」へえー、コイルはともかく、ハンスさんがねえ、意外だな。

話が弾んだところで、ユーゴは昨日からの疑問をぶつけてみた、

「そのゴーグルで俺を視ると、どう写るんだ?」すると、

「はっきりとは視えねえ、なにか隠してるのは判る、このゴーグルで視えねえってのは返って怪しいだろ?」とバースは含み笑いををする。

ああ、そういう事かとユーゴは納得した。


そんな話をしていると、バーバラが真剣な顔をして、

「あんた達に見せておきたいものがあるの」と言って赤黒い小さめの魔石を取り出した、

「これ、ギルドに鑑定を依頼されたものなんだけど、私にもよくわからないのよ、とても嫌あな感じがするわ、もしダンジョンでこれと同じものを見つけたら、私に知らせて頂戴」

その小さめの魔石はよく見ると、中で光がくるくる回っているようにみえた。

「多分人の手が加えてあるわ、嫌な予感がするのよ」

ユーゴとバースは交互に手に取り、何が嫌な感じかまったく理解できないなりにも、わかった、と答えた。


 ショーが始まると、バースはユーゴに背中を見せて、ゴーグルを外し見いっている、

ユーゴはバースの素顔が気になって、前に回ってみたい衝動を抑えるのに必死だった、

そんなユーゴに「あんたには、もう一つ話しておくことがあるわ」とユーゴにだけ聞こえるようにバーバラが話しかけてきた、「西のある国でね、勇者の召喚の儀式が行われたらしいわ」

へ?、勇者召喚?、そんなのがあるんだやっぱり、

「今、ドイルが調べに行っているわ、あの男、ユーゴちゃんの影響で転移者に興味が湧いちゃったらしくてねえ、喜んで出掛けていったわ」ああ、この間から調べてたのはそれか、

「それで、さっき、ドイルのフクロウが手紙を運んできたんだけど、召喚されたのは女らしいわよ」


女の人かあ、それはちょっと気の毒だなあ、ユーゴは召喚されたという女性に同情心を隠せないでいた。






いかがだったでしょうか、素人の作品ですので、展開のスピード感がいまいちつかめません、

設定説明も、何処まで書いた方がいいのか迷いましたw、

ご意見を頂ければ幸いです。

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