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4.~喧嘩をやめて~♪ 二人を止めて~♪~

 コンコン……コンコン……


「お客さんのようね、出ないの?」


 人間の常識を知らないウズメは、ただの訪問者と思っているのか。

 いや違う……緊張した面持ちでベランダの戸から目を離さない。

 あごをしゃくり早く対処するよう俺に促してくる。

 くそ~、俺は召使いじゃないんだぞ。 

 きっとバアルだ。しかし、天使の代行者になったことを知られたら、彼女も豹変するのか?

 軽く寝癖のついた頭を掻く。どうすればいい……無視はできない。

 ウズメが俺を見ている。

 白雪は今、俺から離れて、とぐろを巻いていた。

 俺はこぶしに力を入れると、ベランダに近づいてカーテンを開けた。


 バアルがいた。


 彼女だとは分かっていたが、確認するまでは、もしかしたらという思いもあった。 

 やっぱりキレイだな……今の状況が恨めしく思えた。



「ふふ、人間の真似をしてみた、君たちはこうやって他人の家に入るんだろ? 勉強したんだ。昨日は脅かしてしまったからな」


 彼女が得意げに言う。腰に手を当て威張る姿がカワイすぎる。

 普通の人はベランダから入って来ませんよ! くぅ~抱きしめたいぜ!

 屈託のないバアルの言葉は、俺の気を緩める。

 だが、中に入れてはウズメと鉢合わせしてしまうし、ここで話すのも明らかに変だ。


「すまないが、中に入れてくれるかい?」


 くっ! どうしようか迷っているところに、恐れていた言葉を吐かれた。

 焦って機転をきかすことも出来ない。ええい、ままよ、と部屋に招く。

 しかし、次の瞬間、バアルの瞳に赤い炎が宿り、友達同士のような態度は消えて無くなった。

 眉間にシワをよせて、鋭い視線を俺の背後に送る。 


「奥にいるのは?」


 俺の部屋は狭い。

 だが、外からウズメは見えないはずだ。天使の匂いでもするのか?

 ひょこっとウズメが後ろに現れた。


「お初にお目にかかるわ……私は能天使アマノウズメ、あなたがバアルね?」


 振り返ってウズメを見ると、白雪の尾を握りしめて頭上でブンブン回している。

 スケバンがチェーンを振り回して相手を威嚇しているような姿だ。

 こいつ……頭大丈夫かよ? なんつー物理攻撃だよ。

 優秀な参謀を武器として使用するイカレた姿に俺は絶句する。

 白雪は抵抗するそぶりを見せない。目を回しているのか?


「私の思い違い? 地上はまだ私たちの管理下のはずだけど、どうしてあなたがここにいるのかしら?」


「お前たちの活動を邪魔した覚えはない。私がここにいるのは取り決めで許されている範囲内だと思うが?」


「あれれぇ? でも、ここには私と、私の代行者しかいないわよ? 誰に用かなぁ? もし彼に用なら私を通してもらわないと!」


「……っ!! なんだと!!」


 俺を挟んで二人が言葉の応酬をくりひろげ始めた。

 挑発的なウズメの態度に争いが起きないかと、俺は気をもみ、全力でウズメをなだめる。


「ウ、ウズメさん落ちついて下さい。それに白雪さんをそんなプロペラみたいに振り回したらバカになっちゃうよ! 一旦地面に置きましょう。ねえ?」


 ウズメは態度を崩さない。

 だが、手から白雪が、すっぽ抜けてしまった。

 ウズメの動きがピタッと止まり、白雪だけが猛スピードで飛んでいく。

 鈍い音を立て、壁に激突する白雪。

 あちゃあ……頭からいってるよ。ムチャクチャしやがる……大丈夫かな、あとで手当をしてやるか。

 ウズメは、心の支えを失い、足を小刻みに震わしている。

 そんな様子に、バアルは話にならないと判断したようだ。視線を俺に移す。


「説明をしてもらえるかな?」


「えーと、この人たちに脅されて無理やり代行者にされました」


 脅されて無理やり……エロ同人誌かよと思いつつ、話を続けようとするが、後の言葉が出ない。

 今の話が俺の身に起こった全てで、これからどうするか、どうなるかなど知る由もないのだ。


「では、君は私の敵になったということか?」


「いや、できることならバアルさんと戦いたくはありません」


「ほぅ……」


 バアルが悪魔らしい笑みを浮かべた。

 途端に彼女が魔王であったことを思い出した。

 ウズメが後ろで喚いているが、俺は無視を決め込み、バアルの次の言葉を待つ。


「君が、そこの天使の代行者となったことは非常に残念だ。だが、道がないわけでもない。」


「えっ?」


「その力を持ったまま私に寝返るといい。それで問題解決だ。報酬も前と同じだけ出そう」


 俺は思いもよらない提案に衝撃を受けた。

 そんなん出来るの?

 ウズメは慌てて抗議する。根性だけは大したものだ。


「そんなの神聖法律違反よ! 他人の代行者を強奪なんて! このペチャパイ赤髪ブス!」


「そもそも、代行者の強要は無効だと思うが? 裁判になれば負けるのはお前だ! タイヤの国に帰れ、このふとっちょミシュランマン! あと私はブスではない」


 子供のような二人のやりとり、だが、コイツらは魔王と天使、何が起こるか分からない。

 ……さっきのバアルの提案を信じて良いのか? どう動けばいい?

 俺が考えを巡らしている間も、二人の罵り合いはエスカレートしている。

 争いは終わらないかのように思えたが、最後はあっけないものだった。


「む、もうこんな時間か、今の私は地上での活動時間が限られている。こんなバカを相手に時間を浪費することは出来ない」


「はあ? 私だって忙しいんだからね! 今日はジャンプの発売日だし」


 もうバアルは、ウズメを相手にしていない。

 コブシを下げ、脱力すると、視線を俺に向けた。


「正也、色々あったが、話せて良かったよ。では、これで失礼させてもらうよ」


「えっ、帰っちゃうの? この状況なんとかして下さいよ! バアルさんが帰ったらこの天使に殺されちゃいますよ!」


 泣きそうな顔をする俺に、バアルは子供のように笑って答えた。


「アハハハ、いや、すまない気を悪くしないでくれ……。そんなこと気にする必要はないんだよ。三流天使の代行者とはいえ、君はとてつもなく強いと思うよ、少なくともそこの天使よりはね?」


 ウズメは、文句のありそうな顔をしているが、バアルが帰るのであれば、刺激しないほうが良いと判断したのだろう。

 聞こえないように、小声でブツブツ何か言っている。


「ふふ、そんな顔しないでくれ。それに君とはまた近いうちに会える気がする。その時まで、ブレスレットは預けておこう!」


 そう言うと、バアルは消えてしまった。





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