3.~俺最強伝説の幕開け~
「ちょっと、どうしちゃったのよ!? 早く離れなさい! 黙ってないで何とか言いなさいよ!?」
騒がしい、一体何だ?
いい気持ちで寝てるのに、うるさい女だ。んっ、女の声? 誰だ?
はっと我にかえり、目を開けて上半身を起こした。
ウズメがいる。
俺は、何があったかを思い出して惨めな気持ちになった。
あれは夢じゃなかったのか……
「あれ、早いお目覚めね、まだ十分もたってないと思うけど? 気分はどうかしら? さっきはごめんね~」
軽い調子で一気にまくし立てる。
謝罪しているようだが、全く気持ちがこもっていない。
しかし、あれだけ痛めつけられた後では、文句を言う気にもなれない……
何やら俺の体に巻き付いた白蛇を引き剥がそうとしていたみたいだが、確か白雪だったかな?
熟睡後のように頭はさえ、体が軽い、こんなに心身が充実したのはいつ以来だろうか。
十分しかたってないって?
信じられないという思いがわくが、それは一旦置いておく。
今は状況の確認が先だ、俺は恐る恐る彼女に尋ねる。
「えーと……ウズメさん? なんで白雪さんが俺に巻き付いているんでしょうか?」
「そんなのこっちが聞きたいわよ! あんたと契約した後、急に黙ってしまって、私が何言っても話さないのよ! しかも、あんたに巻き付いて離れないし、もう意味わかんないわ!」
「あんた何したのよ?」
コイツ……俺を何だと思っているんだ。
そんなこと分かるわけないだろう。
白雪をじっと見る。真っ白な陶器のような体……
血のような赤い目とのコントラストがなんとも神秘的だ。
さっきと違い不思議と怖さも感じない、なぜだろう?
今ならなんとか話せるかもしれない。
「あの~、白雪さん? どうして俺に巻き付いているんですか? 俺、何かやらかしました?」
「白雪とお呼び下さい、ご主人さま」
ウズメは眉間にシワを寄せた。
腰に手をあてると、大きな声で白雪を叱りつける。
「あんたねぇ、白雪! いい加減にしなさい! あなたの主人はこの私よ!!」
白雪は何の反応も示さない。どういうことだ?
俺が気絶する前は、ウズメの忠実なシモベという雰囲気を醸し出していたが、今はそれがない。
俺にかしづいているのか……分からない。とりあえず慎重にいくか。
「あの~、すいません、白雪さん、俺にも分かるように、どうしてこうなったかを説明してもらえると、ありがたいです……あと、今更ですが俺の名前は大石正也といいます。正也と呼んで下さい」
「承知しました、正也様。私も全てを把握しているわけではありませんが、分かったこともあります。状況を整理してお話ししてみます」
「お願いします」
「はじめに、私たちは正也様を代行者に仕立てるため、ここに参りました」
初っぱなから、怪しすぎる。
同じ時期に、同じ目的で悪魔も来た。
どう考えても偶然ではないだろう。
だが、今は最後まで聞こう。
「ウズメは戦闘に不向きな芸能の天使です。従ってこのまま戦争となれば生き残る可能性は低く、策を講じる必要がありました。そこで手っ取り早い方法として代行者を立てることとしたのです」
身代わりか……
ウズメはバツの悪そうな顏をしながらも黙って聞いている。ツッコミたい気持ちはあるものの、話の続きの方が気になるのだろう
「そして正也様からバアルとの話をお聞きし、我々は驚愕しました。なぜなら、魔王ほどの大物が代行者を立てるなど、聞いたことがありません。ましてやあのバアル……あり得ない話です」
あの子は本当に魔王だったのか。
はあ、こいつらのせいで俺のハーレムが……
「理由は分かりませんでしたが、ほっておくこともできません。ともかく、魔王があなたを代行者にしたいのなら、それを阻止することが私たちの利益になると考えました」
そんなことで殺そうとするのかよ……
天使ってこんなんだっけ?
「今、正也様が代行者になり、バアルがあなたを欲しがった理由が分かりました。あたな様は『神の器』をお持ちになっているのではと推測します」
神の器とは?
俺が言いかけたそばでウズメが口を挟む。
「はぁ!? 何言ってんのよ、神の器なんてただのおとぎ話じゃない! 大体、何で私を呼び捨てなのよ。あんたは私の物、私のシモベなのよ! 私を本気で怒らせたいわけ?」
こんなバカな話はもう聞けないとウズメは怒りをぶつける。
ちっ、いいところだったのに……
「ウズメ……信じられない気持ちは分かります。ですが今、私の所有権は正也様にあります。これが何を意味するか、分かりますか?」
「はあ? 何言ってんの?」
「もう私の主人ではないあなたに長々と説明する気もないので結論だけ言います。正也様の力はあなたを遥かに超えています」
「イヤイヤイヤ、ちょっと分からないんですけど? 力を授けたのは私よ!? 私より強いわけないじゃない」
「だからこその神の器です」
わけが分からずウズメのストレスは最高潮に達したようだ、頬を膨らませて両手をジタバタさせている。
キッーという声も聞こえてくる。まるで駄々っ子だな。
まだ分からないことも多いけど、少し事情が飲み込めてきたぞ。
どうやらバアルの言っていたことは本当だったみたいだ。
だけど、まだ分からないことも多い。今は逆らわない方が良いだろう……
話を続けたいが、それは彼女を黙らせた後にしよう。
今の調子では話が進まないと思った俺は、とりあえずウズメをなだめることにした。
コンコン……コンコン……
突然、ベランダの戸をノックする音が聞こえた。
全員の体が反応し、視線がその音に向けられる。
今は夜中でここは一軒家の二階。
カーテンは閉まり、外の様子は分からないが、ただの訪問者でないことは明らかであった。
俺たちは話に夢中になり、バアルが来ることをすっかり忘れていた。