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21.~早く決めて下さい~

 張り詰めた空気が漂っている。

 リリスは槍を構え、いつでも攻撃できる態勢だ。

 ウズメとの間には麻雀卓があるが、こんな物は障害物にならない。

 従って距離はなく、必殺の間合いと言えよう。


 リリスが勝手な働きをしないように、バアルは止まれ、と手で制しているが、それで安全が保障されたとは思えない。

 全てはバアルのさじ加減しだいだ。

 徐々に体力が回復してきた彼女は、態度に余裕が現れ始めた。


「もう諦めたらどうだ? 麻雀勝負は正也を賭けたものだと、私は理解していたのだが?」


「はあ? 頭大丈夫? 私が代行者契約を解除する。それだけのはずよ、まさか約束を破ったとでも言いたいわけ?」


「当たり前だ! このクソ天使が! バアル様に舐めた口を聞きやがって! 天界の聖女だと? 私が欲しいわ! ボケが!」


 激しく言い争ったかと思うと、今度は、時計の針が聞こえるほどの沈黙が流れる。

 こんなことが三十分は続いている。

 俺は、こそこそと部屋の端にいき、事の成り行きを見守っていた。

 今の俺は力の無いただの人間、まさに、ゴリラの群れの中に放たれたカピバラのような存在だ。

 本当であれば、この部屋を抜け出してリビングに逃げ込みたいところだが、リリスの前を通る必要がある。

 果たして、すんなり通してくれるだろうか? 試す気にはならなかった。


 どちらが俺を代行者とするか、あれやこれやと言い争っているが、双方、引く気はなく、折り合いをつけることが出来ない。


 俺はひそかに、ウズメがした提案の方が良いかもしれないと、心が揺れていた。

 だが、問題は話の実現性だ。こいつに、そんな決定権があるのか? 

 天界でのウズメの地位が、高いとは思えない。

 自分なりに考えはあるものの、このデンジャラスな状況、積極的に関わっていく気はない。

 今は、空気と化して事の成り行きを見守るのみだ。


 しかし、立場的には、バアルが有利と言わざるを得ない。

 暴力に訴えれば、ウズメを簡単に排除できるように思える。

 なぜ、そうしないのか分からないが、今のところ、その気配はない。

 最終手段として考えているのか?


 ひそひそと白雪が、ウズメに話かける。


(あんな提案したけど、ちゃんと約束守れるの? とりあえず、バアルを阻止することは出来たけど)


(出来るか、出来ないかじゃなくて、やるしかないのよ! アマテラスには事後報告で納得してもらうしかないわ。だって正也がバアルについたら、私たちの負けは確実なのよ?)


(はあ……だから、あんな勝負、最初からしなければ良かったんだよ。ウズメは本当に、本物のバカだよ……)


 業を煮やしたリリスが、いつ暴発してもおかしくない。

 ウズメたちは命拾いしているが、状況は綱渡りのように危うい。

 パワーバランスでは完全負けており、このままでは、最終的に力で押し切られてしまうかもしれない。


(っ~!! クソ天使を蹴散らせば済む話なのに、なぜ、そうされない? そういえば、イエロー・ドラゴン・イヤーを使用する時も、乗り気では無かったが。まさか、あの力を使ったことで引け目を感じてなさるのか?)


 バアルには、リッチの討伐を手伝ってもらったという恩があった。

 断っても良い、麻雀勝負も受けてくれ。更には、実力でその勝負に勝ったとは言えなかった。

 今、自分が有利な立場となったからといって暴力に訴えることは、バアルの魔王としてのプライドが許さなかったのだ。


 だが、このままでは話は平行線だ。

 白雪はウズメに寄り添い、静かに策を巡らせていた。察したウズメが助言を仰ぐ。


(どうすれば良い?)


(今の立場は、奴らの方が圧倒的に有利だから、慎重に事を進めないとダメだよ、追い詰めすぎたら、力に物を言わせてくる可能性があるからね。バアルを上回る報酬を提示して、お兄ちゃんを、こちら側に引き込むようなマネをしたら、おそらく最終手段をとってくると思うよ)


(八方ふさがりじゃない。どうすれば良いの?)


(奴らがギリギリ納得できる話に持って行くしかないね。例えば、また麻雀勝負をしてお兄ちゃんを賭けるとか。難しいとは思うけど……)


 ウズメは顎に手を置いて、少し考える。


(なるほどね……良いこと思いついたわ)


 ウズメが、やさしい微笑みをバアルに向ける。

 不利な状況の中、今から自分の意見を通さなくてはならない。

 けんか腰のままでは、それが難しいと悟った彼女は方針を転換し、態度を改めた。

 お年寄り金塊を売りつける営業マンのような完璧な笑顔だ。


「そうだ、また勝負して決めましょうよ! あなたの麻雀勝負も受けてあげたんだから、今度は私に付き合ってよ?」


「何、勝手なこと言ってるんだクソ天使! 死ね! バアル様に百回謝罪して自害しろ! そして香典を全てよこせ!」


「まあ、まてリリス……話だけでも聞こうではないか?」


 状況を打破したいのはバアルも同じだ。話の内容によっては、受けてやってもいい。


「もう一度、麻雀をするのは面白くなし……思い出したけど、ちょうど今、天界で大武道会を開催しているのよ。それにあなたが出場して、優勝出来れば、私は正也を諦めるわ。出来なければ正也をもらう。どうかしら?」


 ウズメの言う武道会とは、いわゆる天界一武道会と呼ばれる天界の一大イベントのことである。

 百年に一度、天使たちの間で行われる大会で、その歴史は古く、天界で最も権威ある大会の一つだ。

 ルールは単純明快。殺さなければ何をやっても許されるといもので、優勝者には、誰もが欲しがる天界の最高位、熾天使(セラフ)の称号が送られる。


 もちろん、バアルに受ける筋合いはない。

 だが、魔界最強と言われる彼女が、この武道会で優勝することは、さして難しいことではないと思われた。

 これなら、借りも返して心置きなく正也を代行者に出来ようというもの。

 ちらりと横目でリリスを見る。


(クク……間抜けども、バアル様に天界の武道会に出ろだと? 天界の青瓢箪がバアル様に敵うわけなかろう? 自ら墓穴を掘ったな、ふふふ、バアル様、天界で大暴れしてやりましょう!)


 どうやら、同意させる必要は、なさそうだ。


「へぇ、天界一武道会? いいじゃないか。天界の奴らなど私の敵じゃない。その勝負、受けて立とう!」


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