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2.~私の身体を好きにして良いのよ?~

 やべえ。眠くなってきた……

 昨日は興奮しすぎて、ほとんど眠れなかった。

 先ほどまでは、元気に掃除していたが、睡眠時間が短くなったツケが、今になって現れてしまった。

 そう言えば、高校受験の前日も眠れなくて、さんざんな目にあったな……

 だが、寝るわけにいかないぞ。

 俺は改めて自分の身に起こったことを思い出し、気を紛らわすことにした。


 世界の半分……寿命三百年……死後は魔界の貴族……バアルと友達。

 世界の半分は具体的にどういったことか確認するか、もらえるのがクソみたいな国ばかりだと嫌だしな。

 寿命三百年はその間の健康と若さを保証してもらえないと困る。

 魔界の貴族は人間で言えばどの程度の地位なんだ? バアルと友達以上になるには……


 考えるのは楽しかった。しかし、問題もある。

 この話を素直に信じて良いのかということだ。

 あの時は浮かれていたが、バアルとは初対面でしかも悪魔だ。騙されたとしても不思議ではない。

 表面上は礼儀正しく誠意も感じたが、心の中までは分からない。

 上辺だけで判断するのは危険だ。

 しかし、いくら考えても答えは出ないだろうな。

 それに今のままダラダラ生きていても先はないし。


 また、当初はゴネて報酬をつりあげようと思っていた俺も、冷静に考えてみると、もうつりあげようがないことに気づく。

 もはやイケメンになりたいとか、名声が欲しいといったことは意味がないものに思えた。


 結論が出た。問題があるにしても、受けるべきだな……

 交渉は程々にしておこう。

 欲を出しすぎると、話もご破算になるかもしれない。

 息子を大きくしてもらうくらいでいいや。

 でも、彼女に言うのは、気恥ずかしいな。どうやって切り出そうか?

 


 決心した俺は大急ぎで部屋の掃除をすると、ベッドに腰を掛け、これから始まる自分の伝説に思いを馳せた。

 自然と口元が緩み、だらしのない顔になってしまう。

 その都度、顔を引き締めて元に戻した。

 時計の針を確認する。約束の時間まであと少しだ。


 目の前の空間が歪んだ。

 んっ? 早かったな。

 眼前に女性が現れる。

 バアルではない。だが、彼女に引けを取らない美女だ。

 童顔の可愛らしい顔とは対照的に、肉付きの良いエロい体をしている。

 バアルを月とすると、この女性は太陽と言えた。

 胸のラインがくっきりと浮かびあがり、走るとどうなるんだろうか? と変な心配をしてしまう。


 うっひょひょひょ! ダイナマイトゥー!

 てっきりバアルが来ると思っていた俺は、予想外のことで驚いたが、すぐに納得する。

 おそらくバアルの関係者だ。

 なんせ魔王だし、手下も大勢いるのだろう。

 しかし、なぜ彼女が来ないのだろうか?

 そんな俺を気にもせず、女性は話をはじめた。


「初めまして人間、私はアマノ・ウズメ、いわゆる天使と呼ばれている存在よ。今日はあんたに聞いてもらいたことがあってきたの」


 んっ? 天使? 悪魔じゃないのか?

 困惑する俺に関係なく、しゃべり続ける。


「今まさに悪魔と天使の最終戦争が始まろうとしているのよ。力を授けてあげるから、一緒に戦って欲しいのだけど、いいよね?」


 サクッと始める上から目線の提案に俺は戸惑いを感じていた。

 バアルの態度と全然ちがうけど、俺が必要じゃないのか?


「……えーと、それじゃ協力した場合の見返りを教えてもらえますかね?」


 ウズメは予想外の言葉に驚きの表情を浮かべた。

 彼女にとって、人間というものは、ひたすら服従し、機嫌を伺うもので、それが普通だと考えている。

 そして願い事を言えば、喜んで受けるものだと思っていた。

 お願いする立場であるにもかかわらず、懇願する様子もなかったのは、この考え方によるものだ。


「天使の命を聞くことは人間にとっては、この上ない名誉なことだと思うのだけど?」


「じゃ、いいです、帰ってください」


 少考もなく、投げつけられた言葉に彼女は面食らっている。

 だが、俺からすれば当然のことだ。

 バアルにつけば、世界をもらえるんだよ?

 天使だろうが、何もくれない奴につくはずがないじゃないか。

 それにもうすぐ約束の時間だ、早く帰ってくれ。

 彼女の驚きが焦りに変わって、なんとかその場を取り繕うとする。


「ちょ、ちょっと待って、当然、それなりのお礼はさせてもらうつもりよ!」


 カスが、先に言えや……

 彼女は、ベッドに座る俺にゆっくりと歩み寄る。

 手を伸ばせば届きそうなくらい近づくと、するりと滑り込むような動きを見せ、あっという間に俺の上にまたがった。

 マシュマロのような太ももが、俺の膝と合わさり、圧迫されて広がる。

 俺は、そのまま押し倒され、あお向けにされてしまった。

 ふぁぁ~、なにコレ? やわらけぇ……


「あなたの考えは理解したわ。私を好きにして良いのよ? 協力してくれたらね!?」


 俺に跨がったウズメが顔を近づける。

 吐息が額に当たるほどの距離だ。

 艶のある長い髪が揺れると甘い香りが周りに立ち込める。

 彼女は肩出しの上着を下げた。

 俺は露わになった谷間と挨拶を交わす。

 お、おっぱいだ……あっ、顔に当たった。

 柔らけぇ……おお、いい匂いだ。


 彼女は、俺の股間に手をやって、優しく擦ってきた。

 あふぅ……ふぅ……いぃ……いい気持ちだぁ。


 何を勘違いしたか、突然の色仕掛けであったが、美女に、いや、女性経験のない俺はもう陥落寸前であった。

 『禁じられた遊び』を脳内再生するが、効果はないようだ。

 バアルを知る前なら、この時点で誘惑に抵抗する力を失っていただろう。

 だが、今の俺は違う。


 くそ! やりたい! やりたい! やりたい! やりたい!

 あふぅ……だか、俺は世界を手に入れて、ハーレムを作って、なおかつ、バアルさんと付き合うんだ!!

 はうぅ……ま、負けるものか! くうぅ……


 唇を噛みしめて必死に理性を保つと彼女の肩に手を置いてグッと前に押す。

 彼女との距離が開いて心に余裕が生まれた。


「あはぁ……はぁ……す、すいません。先約があるんで」


 ウズメは訝しげな顔をする。

 自分の魅力が通じない人間がいるなんて、信じられないといった顔をしている。

 面倒事が起こると嫌なので言うつもりはなかったのだが、このまま隠し通すのも難しいだろう。

 まあ、相手は天使だ。無茶はしないだろうとタカを括ったことが間違いだった。


 俺がバアルとのやりとりを大まかに説明すると、ウズメは余命宣告を受けたかのような深刻な顔をしている。

 う~ん、だまっておけば良かったか……

 彼女の変わりようから重大なミスを犯したように感じたが、言った言葉は戻らない。


白雪しらゆき、状況を説明しなさい!」


 ウズメの言葉で、彼女の胸元からニュッと白蛇が顔をだした。

 青大将ほどの大きさだ。服に膨らみはなく、中に隠れていたとは思えない。

 どこから現れた? まるで手品だな。

 するすると体を這い上がりマフラーのように首に絡みつくと、彼女の耳元にささやくように喋り始めた。


「非常にまずい状況と思われます」


「そんなことは分かっている。知りたいのは、なぜ、この人間がバアルの名を知っている? なぜ、奴がじきじき現れてこいつを代行者にする?」


「その前に、一つよろしいですか? ウズメ様はどうして彼を代行者に選んだのでしょうか?」


「どうしてって? 咲耶さくやに言われただけよ! 私の代行者にぴったりの人間がいるって!」


 言うと、ハッと気づく。


「どうやら、咲耶様に面倒ごとを押し付けられたようですね」


 いつもそうだ。ウズメはため息をつき、白雪に問いかける。


「で、どうすれば良いの?」


「バアルの考えは分かりません。ですが、奴が、彼を代行者にしたいのなら、それを阻止することが我々の利益になると考えます。咲耶様もそれを望んでのことでしょう」


「で?」


「結論を申し上げると、ウズメ様が取るべき道は、彼を代行者とするか、殺すかだと考えます」


 殺すだって?

 必死で逃げようとするが、いつの間にか体の自由がきかない。

 助けを呼ぼうとしたが、まともに声も出ない。

 俺は、あわわと奇妙な音を出し、ぷるぷる震えている。


「殺しちゃうの? 少し可哀想じゃない? とりあえず、さらってから考えるのはダメなの?」


「相手はあのバアルです、さらってもすぐにバレます。そうなれば、奴の不興をかう恐れがあります、生き残るためにそのようなリスクは許容できないと考えます」


「殺したら、もっとやばくない?」


「今、殺すなら殺害者まで特定することは難しいと思われます」


「代行者とした場合は?」


「一旦、代行者となればバアルといえども簡単に取り返すことは出来ません、奴が真に彼を欲しがっているならば、なんらかの取り引きができるのではと考えます」


「ふんふん、それで?」


「彼を代行者とすれば大きなメリットを得ることができるかもしれませんが、実際どうなるかは分かりません。ともかく、奴が来る前に事を終わらせる必要があります。今すぐ決断して下さい」


 ウズメの頭は良くないが、決断の早さは一級品である。

 白雪の助言を受けるなり、行動に移す。


「聞いていた? 分かったかしら? 時間もないことだし、こっちは勝手にやってるから、もし私の代行者になりたいのならその旨、言いなさい」


 口元の拘束が緩む、途端に激しい痛みが右腕を襲い全身を駆け巡る。

 頭はハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた。

 し、死ぬ、いや、むしろ死んでしまいたいと思える痛みだ。

 俺は大声をあげるが、両親が気づく様子もない。

 なんでだよ? 

 信じられないことにウズメは右腕を軽くつねっているだけのように見えた。

 もう意味が分からない。


 《ペインコントロール/痛覚操作。本来、苦しみの末に最後を迎える信者を救済するためのスキルであるが、本質は痛覚操作なので僅かな痛みを増幅して究極の苦しみを与えることも可能。彼我の実力差が大きく上回る相手にしか通じないため、専ら対人間用のスキルである》


「ちょ、ちょっと待って下さい! 代行者のこと、前向きに検討します! でも、少しだけ考える時間を下さい。ほんの少し、少しで構わないので!」


 どうやら、こいつらはバアルを恐れているようだ。

 もう少し待てば彼女が来るはず、そうなれば状況を打開できるかも。

 俺はわずかな望みにすがった。

 白雪が上半身と思える部分をこちらに伸ばして、俺の顔を覗き込みチロチロと長い舌を出す。

 うぅ、怖ぇぇ……


「嘘の匂いがする……。時間を稼いでいるようです、どうやら代行者になる気はなさそうですね」


 ウズメにとって白雪が放つ言葉の意味は重い。

 彼女(彼?)が忠実なシモベであることはもちろん、過去にその助言でどれだけ窮地を脱したことか。

 迷った時は白雪に従えば良い、これは頭の弱い彼女が長年の経験で学んだことである。


 ウズメは白雪に促されると、哀れな者を見るような目をしならがら今度は左腕をつねる。

 喉が潰れるほどの声を上げる。

 それでも両親は気づかない、痛みで思考力が吹き飛ぶ寸前だ。


「残念ね、あと三回やったら、死ぬわよ」


「いえ、二回かと」


「勘弁して……下さい」


 俺の言葉はもう意味を持たないようだ。

 躊躇なく脇腹をつねってきた。

 嘘は見破られ、体は動かず、激痛で死にそうだ。

 すでに絞り出すようなうめき声しか出ない、限界だ。

 俺は悟った、こいつらは本当に殺す気だ。

 黙っていれば迷いなく俺を殺して、ここを去るだろう。

 せっかく、自分に輝ける才能があると分かったのに、こんなことになるなんて! 死にたくない。死にたくない。


 ウズメが攻めの姿勢に入る。


「……分かりました、代行者になります」


 刹那、俺は気を失った。





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