13.~あらたな戦いの序章~
伝説のリッチを討伐して、アスタロトの居城に戻ってきた俺たちは、盛大なもてなしを受けていた。
連日の祝勝会で俺とウズメはすっかり有頂天だ。
今日も朝っぱらから、豪華な食事を出されて、陽気に騒いでいる。
「かんぱ~い! いや~、朝酒はうまいわ! 勝利の美酒は格別ね!」
「おおー! かんぱーい! どんどん持ってこーい!」
「ハハハ! どうぞどうぞ、いくらでも申し付けてください。それにしてもすさまじい戦いでしたね。この城からでも分かりましたよ。隕石が落下したような衝撃の後に、今度は空一面が燃え上がり……想像を超えた戦いをされていたようで。私は雷帝様の勝利を信じていましたが、気が気でありませんでしたよ」
アスタロトは興奮した様子だ。帰ってきてから同じことばかり言っている。よほど嬉しいのだろう。当初は俺たちに不信感を持っていたが、今はない。
魔王であるにもかかわらず、俺たちに対して敬意をもった態度をみせている。
「ええ、相当なもんだったわ。まぁ、私たち以外で奴を倒せる者はいないと思うわ」
そう言うと、ウズメはリッチとの戦いをアスタロトに説明する。毎回、アスタロトに話を振られる形となり、ウズメが話すのも何回目か分からない。
ただ俺たちの正体は秘密なので、ウズメの立場をバアルに置き換えての話だ。
何度も話しているのだが、アスタロトは本当に楽しそうだ。心から喜んでいるのが分かる。
(こいつは、案外いい奴なのかもしれないな……)
俺のアスタロトに対する感情は変わりつつあった。
帰ってきて、彼に根ほり葉ほり聞かれるとめんどくさいと思っていたが、彼は心得たもので、こちから話すことを聞くだけで、彼から厄介な質問をしてくることはない。それにこの態度だ。バアルが信頼をおいているのもうなずける。
「ちょっといいか?」
夕食のような朝食がひと段落したころ、バアルが俺に話しかけてきた。
彼女はドンと机の上に杖をおく……死王の杖、リッチから回収した物だ。この杖にどれほど苦しめられたことか……これさえなければ、俺たちはもっと楽に勝てていたはずだ。
「この杖だが、白雪に解析を頼みたい。今となっては必要ないことかもしれないが、奴の正体を知りたいんだ」
「雷帝様、とてつもない力を感じますが……この杖は一体?」
バアルがアスタロトに手短に説明すると、彼は感嘆の声を上げて杖を見つめる。
魔王クラスの者がこの杖を持てば、恐ろしい力となる。興味があるのも無理はないだろう。
白雪は俺の顔を伺っている、俺が小さくうなづくと彼女は準備を始めた。杖を手に取り、クルクル回したり、撫で回したり、匂いを嗅いだりしている。
「何をしているんだ? スキャンしないのか?」
「戦いの時と違って時間があるからね、丁寧にやっているんだよ。今は、サイコメトリーで杖に蓄積された記憶を読もうとしているんだけど、やりやすい箇所を探っているんだよ」
「白雪様は、サイコメトリーができるのですか!?」
「うん、そうだね」
アスタロトの驚きの言葉に白雪はあっさり返す。彼女は本当に便利なスキルを持っている。リッチ戦でも彼女のスキャン能力が大いに役に立った。それにカワイイ……完璧なシモベだ。
俺たちは白雪を静かに見守る。しばらくして、やりやすい箇所とやらを見つけたようだ。
「ここか」と小さくつぶやくと、ワンドのグリップ部分に人差し指を当て杖の記憶に潜り始めた。
「……奴の真名はハデス……スサノオという者と刺し違えて、滅んだみたいだね」
白雪が言うには、奴が始まりの神魔であることは間違いないだろうということだった。
奴は死を司る悪魔であったことから、死後も完全に消滅することがなかったようだ。
また、驚くべき情報として、俺たちと戦った時、奴の実力は生前の半分以下だったいうことだった。
「まじかよ……そう言えば、最初からHPも低かったよな……」
「うん、弱っていてあれだからね、奴が万全ならやばかったと思うよ」
杖にはスサノオとの死闘も記憶されていたが、それは壮絶なものだった。
スサノオは刀の一振りでいくつもの山を吹き飛ばし、ハデスは小型のブラックホールを作り出して周囲の全てを飲み込む……この世の法則を無視したかのような戦い……奴らが衝突した余波で魔界の半分が壊滅したようだ……。
アスタロトはゴクリと唾を飲み込む。
俺は、あんな奴が他にもいたら、たまらないと、本当にもう生き残りがいないかを確認する。
「前にも言ったが、まだ生き残りがいる可能性は限りなく低いだろうな」
「でも、絶対とは言えないだろうね……」
「うむ、とにかく奴の真名が分かったのだ。いろいろ調べてみることにしよう」
奴が復活した理由も知りたかったが、それは分からずじまいであった。果たして偶然なのか、それとも……。
「そうそう、これは約束の報酬だ……」
バアルはそう言って一冊の本を差し出した。かなり古く、ぼろぼろでカビ臭い。だがしっかりした分厚めの本だ。表紙には文字らしきものが書かれているが、俺の世界の文字とは思えない。
「これは?」
「神の器について書かれた書物だ。これを読めば、力の秘密が分かるだろう。白雪に読んでもらうといい」
(おぉ、そう言えば、そんな約束をしていたな)
白雪が目を輝かせている。今すぐにでも本を読みたいという感じでそわそわしている。本当に好奇心旺盛なやつだ。
俺は酔っており、いい気にもなっていた。少し、いじわるしてみるか……。
「見たい?」
「うん!!」
「よし! じゃあ、お兄ちゃん大好きって、十回言いなさい!」
「お兄ちゃん大好き! お兄ちゃん大好き!…………お兄ちゃん大好き!」
アスタロト達からの視線が痛い。俺はすぐに後悔し、黙って本を白雪に渡した。




