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1.~世界の半分いらないかい?~

 クソ暑い。

 とにかくムンムンする。

 雄叫びを上げたくなる暑さだ。

 真夏か!! いや、真夏か……


 ダラダラと流れる汗を、肩先でぬぐう。

 残暑が厳しく、真夜中だというのに気温が下がらない。

 外では、コオロギが涼しげな声を響かせているが、こう暑くては風情もない。

 もう、適当でいっか。

 俺は手短に掃除を終わらすと、窓を閉め、エアコンをつけた。

 今度は、汗が冷やされて肌寒くなってくる。難儀なことだ。

 温度を上げる気のない俺は、服を着がえると、勢い良くベッドに腰掛けた。


 いよいよだな……

 肘を足に置き、指を組みながら、大きく息を吸い込んだ。

 彼女は、大事なお客さんだ。

 だから、脱ぎっぱなしの服も、食べかけのポテチも、怪しい匂いを放つティッシュも全て片付けた。

 大体は、押入れに投げ入れただけだが。

 その辺は、時間もなかったのだし、勘弁してくれ。

 まあ、押し入れを開けるシチュエーションなど考えられない。

 大丈夫だろう。


 目をつむって、これから始まる自分の伝説に思いを馳せる。

 明日から俺のしみったれた人生が一変するんだ。

 そう考えると自然と口元が緩み、だらしのないニヤケ面になってしまう。

 誰に見られているわけでもないが、その都度、両手で頬を叩き、顔を引き締めた。

 それを、ずっと繰り返すうちに、流石にほっぺたが痛くなってきた。


 手には、高価そうな金のブレスレットがある。

 ひんやりと気持ちの良い鎖の感触、刻み込まれた精巧な模様。

 俺が女であれば、この美しさの虜になっていたかもしれない。

 売れば金になるのだろうか? 

 不謹慎なことを考えらなら、指で輪ゴムのように回して昨晩のことを思い出す。


「おいおい、ここでオールインかよ!? 下手くそか!……はぁ? ナイスリバー? ふざけやがって!……やらせかよ! クソ運営がぁぁ!!」


 ツキがない。

 オンラインポーカーで負けまくった俺は、独り、声を出している。

 熱くなり、やめ時も分からなくなっていた。

 いつもは、こんなに負けないのに……しかもレートを上げてからだと?

 怒りでタブレットを叩きつける。だが、こんなことで物を壊すほど俺はバカじゃない。

 落とすのは布団の上だ。柔らかな生地が衝撃を吸収し、ゲーム画面は何事もなかったように写し出されている。

 しかし、全然勝てない。

 長い時間をかけたのに成果ゼロ。いや、マイナスか。

 元々、無料のチップから始めたので損はしていないが、長い時間をかけて増やしたチップが目減りするのは辛いものだ。

 それに負けることは単純にくやしい。


「はぁ、もうこんな時間か……」


 ため息をつくと、今度は両手を思っきり上げて背中のコリをほぐした。

 まぶたを閉じて目頭を強くつまむ。

 目を開けると、突然、前の空間が歪み、女性が現れた。

 一瞬のできごとだ。

 普通であれば、大声を上げて身構えるところだが、俺はただアホのような顔をして女性を見ていた。


 こ、これは!

 おおぉぉ、すげー美人だ……

 想像の中でしか、存在しえないような絶世の美女。

 真冬の湖よりも透き通った白い肌に、緩やかなウェーブの入った赤い髪。

 毛先を揺らしながら、彼女が近づいてくる。

 女性の人間離れした容姿と、この不思議な状況から天使と名乗られても否定できる自信はない。

 彼女は気品あふれる切れ長の瞳で、俺を見つめながら優しい口調で自己紹介をはじめた。


「驚かせてしまったようだね。まずは謝罪をさせてもらおう。私の名はバアル。君たち人間には、悪魔と呼ばれている者だ」


「はあっ!? 悪魔だって?」


 俺は内心、天使の間違いではないかと思い聞き直すが、やはり悪魔だと言う。

 どう見ても、人に害をなす存在とは思えない。でも、自分で悪魔だと言っているし……


「危害を加えるつもりはないから、怖がらないでくれ。ただ君と話がしたいんだ。いいかな?」


 俺は固まり、混乱していた。いきなり目の前に現れたことから、普通でないことは理解できた。

 彼女は、美しい。でも、悪魔というのなら、きっと碌なことじゃない。

 なんで現れた? まさか、散乱したティッシュが偶然、魔法陣でも描いとか?


「あ、悪魔にしては、何と言っていいか……その……清らかな格好ですね?」


 彼女は、美しい容姿に加えて、服装も悪魔っぽくない。

 涼しげな純白のドレスに、艶やかな毛皮のケープを羽織っていた。

 王族のような豪奢な衣装が、彼女が着ることによって天上人のような輝きを放っている。

 頭の整理が追いつかず、おかしな質問をしてしまった。


「ふふふ、いつもは、こんな服は着ないが……いかにも悪魔らしい姿では、君を驚かせてしまうからね。今日は特別なんだ」


 気を遣ってくれているのか?

 俺は平静を装い、遅れて自己紹介をした。


「俺は正也(まさや)……大石正也(おおいし まさや)と言います。お話しとは、どういった用件でしょうか?」


 声をどもらせるが仕方ない。

 こんな状況だし、俺はニートだ。

 今日は誰とも喋ってなかったから、口の筋肉はガチガチに固まっている。

 彼女は俺の不安を察してか、少し微笑む。

 天使のような笑顔は、俺の緊張を解きほぐした。


「では、話をするよ……まもなく天使と悪魔が、世界の覇権をかけて最終戦争を始めるんだ。

 この戦いで我々が勝利するために、君の力を貸してもらいたいと思っている。」


 えっ何? その展開、事態が飲み込めないんですけど。

 悪魔と天使の戦争だって?

 ハルマゲドンってやつか?

 俺に協力して欲しいって? なぜ? 

 いや待て、それ以前に俺は力も強くないし、頭だって悪い。

 どういう人選だよ!?


「協力してもらえないだろうか? もちろん、できる限りのお礼は、させてもらうつもりだよ」


「なんか、相手を間違えていませんか? アルソックのゴリラとか誘った方が、いいんじゃないでしょうか?」


 彼女は首を振って答える。


「分からないのも無理はない。だが君でなければダメなんだ。気づいてないだろうが、君にはとてつもない才能がある。どうか、良い返事を聞かせてくれないか」


「いきなり、そんなこと言われても……もう少し、詳しく教えてくれませんか?」


 彼女が言うには昔から天使と悪魔は、世界の主導権を巡って争をしている。

 先の戦いでは天使側が勝利し、今は天使が世界を管理している。

 しかし、その権利も永久ではない。

 もうすぐそれは消滅する。

 そうなれば、再び、戦いが始まるということだった。


「なるほど、バアルさんは天使との戦いに勝ちたいと……だけど、なんで俺が必要なの?」


「理由を話そう。我々の中にも大戦を嫌がる者がいる。力の弱い者たちだ。彼らは出来ることなら、戦いに参加したくないと考えている……死にたくないからな。」


 まあ、そうだろうな。

 俺だったら強くても、めんどくさいわ……


「そこで彼らは、代行者という制度を利用するのだが……簡単にいえば、自分の力を代行者に授けて、代わりに、戦いに参加させるという仕組みだ」


「はあ、便利な仕組みですね……」


「ふむ、君に、その代行者になってもらい、代わりに戦ってもらいたいと思っているんだ」


 えっ、さんざん持ち上げといて、身代わりかよ!?

 俺はツッコミたい気持ちを抑え、確認する。


「えっと、今の話だと、バアルさんは、あまりお強くない? それで、俺に身代わ、いや、代行者になれってことですか?」


「違う!」 


 う~ん、気持ち良いくらい、ハッキリ言い切りやがった……

 でも、おかしいだろ? どういうことなんだ?


「まあ、今の話だけでは、そのように感じたのも無理はないことだと思う。しかし、話には続きがある。最後まで聞けば、納得いくはずだ」


「はあ、そうですか」


 よくわ分からないが、質問は最後にした方がよさそうだな。


「それに私は、悪魔の中でも魔王と呼ばれる者だ。他の悪魔とは、レベルが違う存在なのだよ。だが、今はその話は置いておこう」


 魔王って……こんなキレイな子が……

 この子が魔王なら、うちのババアは大魔王だよ……


「君のいうとおり、普通、代行者という者は、捨て駒みたいなものなんだ。弱い悪魔の力を授かったところで何にもならないし、更に人間は、その力を十分に使うこともできないからね。」


 ふむふむ、そこまでは俺の考えと同じだな。


「ところが君は違う、君には特別な才能がある。君は我々から授かった力をその才能で限界まで引き出すことができるんだ」


 特別な才能って……まじかよ、まったく心あたりがないのだが……

 でも、まあ、褒められているみたいだし、悪くはないな。


「例えば、普通の人間が私の代行者になっても、私より弱い代行者が出来上がるだけだ。それではなんのメリットもないね?」


「ほんほん」


「だけど君が代行者になれば、私を遥かに超える存在になると思う。これが、どれほど凄いことかわかるかい?」


「えーと、魔王さんより強くなるってことかな?」


「そうだ。予測だけど、君は単騎で全天使を殲滅できるほどの力を得ると思う。そうなれば我々の勝利だ!!」


「おお~!!」


 彼女は、俺以上に興奮して鼻息が荒い。

 頬を紅潮し、真っ白な肌がさらに協調される。

 そんな自分に気づいたのか、恥ずかしそうにコホンと咳払いをし、平静を装う。

 何? この魔王、可愛すぎるんですけど?

 俺は、こんな状況にありながらも、胸をキュンとさせた。


「先にも言ったが、お礼はさせてもらう。満足してもらえると思っているよ」


 俺は、お礼の内容を聞いて腰が抜けてしまった。

 世界の半分……寿命三百年……死後は魔界に貴族として迎える。


「えっ、まじか、世界の半分? よっしゃあ! ハーレム作りまくってやるぜ! ゲヘヘ!」


 思わず口を出た腐った欲望に、バアルもちょっと引いているようだ。


「コホン……では契約は成立ということでいいかな?」


 俺は、もちろんと言いかけ考える。

 ちょっと話がうますぎるんじゃないか?

 大きなデメリットを見落としていないか? 

 何か隠されているんじゃないか? 

 そもそも、本当に俺に才能があるのか? 


「ちょっと、待って! い、いや、大変結構な話だと思う。でも、もう少し、話が聞きたい。俺にデメリットはないのか?」


「そうだな、はっきりさせたほうがいいか。まず、代行者になれば、報酬に見合った働きをしてもらうよ。たくさん動いてもらうことになるから心してくれ」


 これは当然のことだろう。

 世界の半分を頂こうというのだから、それなりに働く必要があることは承知できる。


「次に、これは戦争だ。最強の君が死ぬことはないと思うが、絶対とは言えない。また、これもないだろうが、我々が負けた場合、報酬は出せない」


 まあ、負けた場合は、世界は天使の物になるんだろう。


「功績がなければ魔界の貴族にするのも難しいと思う。寿命を伸ばすくらいは問題ないけいどね」


 う~ん、報酬が欲しいのならちゃんと働いて結果を残せってことか……うまく出来てやがる。

 いろいろ条件はあるみたいだが、今のところは、おかしいとは感じない。


「分かったかな? これは純粋な取引だよ、我々には君が必要で、君は対価が欲しい。ただそれだけの話さ」


 多分いい話だ。俺の心はほぼ決まった。

 だが、悪魔が勝てば世界はどうなるんだ?

 まあ、そんなことは知ったことじゃないけどな!

 それより、少し待てよ? 交渉において初手から最終金額を提示するバカはいない。

 つまり、まだ交渉の余地があるんじゃないのか? 

 ゴネたら、もっと貰えるんじゃないか? 

 とにかく、こんなチャンスは人生で二度とないだろう。

 考える時間を稼ぐために思いついたことを言ってみる。


「話は分かりました。あと一つ願いが叶うようなら、この話を前向きに検討します」


「なんだ?」


「バアルさんと付き合いたいです」


 バアルは言葉の意味が分からず、キョトンとする。

 あごに手をやり、少し考える。

 途端に耳まで真っ赤にして俺から顔を背ける。

 くっ、カワイすぎる。魔王やべえ……


「な、何を言ってる? ダメですダメです、だって、そういうもんじゃないでしょ!?」


 女の子らしいセリフを吐くと、続けてこにょこにょと何か言うが、内容は不明だ。


「ダメですか?」


 彼女はあたふたと奇妙な動きをしたあと、目を伏して黙り込む。

 そして聞き取れないほど小さくなった声で答える。


「それを約束することは……できません。でも……付き合うことはできませんが、お友達からなら……」


 言ってみるもんだ。

 もともと時間稼ぎの提案であったが、結果は上出来であった。

 今更ながら、俺も恥ずかしくなってきた。

 しかし、報酬に不満はなかったが欲が出てきた。

 考える時間があれば、もっと交渉できるかもしれないという思いが更に強くなった。

 よし、出来るだけ引き延ばして、作戦を練ろう!


「分かりました。その話、お受けしたいと思います。だけど、俺にとっては命をかけた決断になるので、一日だけ、覚悟を決める時間が欲しいと思いますが、可能でしょうか?」


 彼女にとっては、今すぐ決めなければならない問題であったが、失態を演じた恥ずかしさもあって、今更ながら、ない余裕を見せつける。


(まあ、彼の心は決まったようだし、問題ないか……)

「いいでしょう。では明日、同じ時間ということで……」


 彼女は最後に話したいことや質問はないかと言い、問題がないことを確認すると、溶けるように消えてしまった。

 今の出来事を忘れぬよう、俺の手に輝く金のブレスレットを残して……。

 あっ、そういえば、どうして俺に才能があるって分かったんだろう、聞いておけば良かったな、まっどうでもいいか……




ここまで読んでくれて、ありがとうございます。


小説を初めて書いたので、お恥ずかしい限りの文章力ですが、話が進むにつれてマシになってきてると思います! 続きを読んで頂ければうれしいです。

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