デデンデンデデン、デデンデンデデン!
思いついた設定を考えなしに書いてみました。
「……え、はぁ!? なんでいきなりこんな場所なんだよ! 非常識過ぎるだろーー!」
絶叫が木霊する。
今俺がいるのは灼熱のマグマに支配された、生命が存在できす、もうもうと煙だけが吹き荒れる火口付近。
常人であれば近づくもの困難なその岩壁に、気が付けば俺はしがみついていた。
「くっそ、何が『神』だよ! 何が『お詫びに』だよ! いきなりこんなところに出現させやがって、最初からラストシーンになんかにさせるかよ!」
一人毒づき、死に物狂いで岩壁を登る。
火口から遠のき、熱さも幾分か和らいだ頂上付近にたどり着いた俺は岩石だらけの地面など構うことなく大の字に横になり、荒れた呼吸を整える。
「まったく、もう少し優しく転送して欲しいもんだ。……しかし、本当に来ちまったんだな、異世界」
横になったまま右手を空に掲げ、念じた瞬間に右手が剣に変化する。剣から斧に。斧から盾に。盾から銃に。
身体を起こして試しに無数に散らばっている岩石の中でも数メートル先にある岩石に銃口を向けて発砲してみる。
テレビや映画等で聞いたことのある音より幾分か大きな音がしたと思った瞬間、岩石は粉々に粉砕された。
「うはぁ、銃なんて初めて撃ったけどこんなに威力あるのかよ。やべーな、こりゃ」
放たれた銃弾を回収して立ち上がり、今度は思い付くものに変化出来るか色々と試して見た結果、補正でもかかっているのか曖昧な記憶でも満足いくものに変化させることが出来た。
「なんだよ、雑なところはあるけど仕事はちゃんとしているんだな。安心した。ふぅ、ならここまでの出来事を整理してみるか」
俺、烏丸 仁、32歳は昨晩死亡した、いや死亡したらしかった。
会社から今日も今日とて残業して終電で帰宅途中、いつもならくらい夜道がやけに明るいなと空を見上げた瞬間、意識が切れた。
気が付いたときには光を発する白い床が見渡す限り続く場所で片膝をたてて座っていた。
その後、突然現れた自称『神』によると異世界で召喚された隕石を誤って俺がいた世界に落としてしまったらしい。
知的生命体に当たるわけがないと思って放置した結果、俺にぶち当たってしまったそうだ。
『神』の世界にもいろいろあるそうでそのまま何もしないと不味いことになるらしいので自分が管理する世界で俺の身柄を引き取ったとのこと。ちなみに拒否権はなかった。
その際、『お詫び』という事で俺が望むモノを一つ与えてくれると言うのでまずはどんな世界に行かされるのかリサーチしてみた。
剣、魔法、勇者、魔王等、典型的な異世界をイメージすれば、さほど差異はないそうだ。
武具、特殊能力、希少なアイテム、果たして何を貰えば、悠々自適な生活がおくれるのか。
悩んでいると『神』は何かが記された紙を一枚渡してきた。
なんでも過去に渡った人が何を選んだかを纏めたリストらしい。
つか、俺の他に何人も行っているのかよ!?
そんな内心はおくびにも出さずに紙束を開き、参考までに見てみるとエクスかリバーとか魔力無限とか不老不死等々、なにか一つでもあれば『そっちの世界で無双出来るんじゃねーの』的な内容のオンパレードだった。
散々悩んだ末に俺はリストには無い大好きな映画に出てくる、ある能力を選択する。
――『液体金属』
人形の機械同士が一人の少年を巡って争う映画。俺はその映画が大好きだった。もう何度繰り返し見たかわからないほど大好きで特に個性的な敵役がお気に入りだった。
「これを選択したときは何となく『神』が不安げな表情をしていたから本当に出来るのか? とこっちに来るまで不安だったがこれなら問題なさそうだな。なら、次はこの世界の人もしくは町でも探すか」
今思えば、想像力があまり豊かでない俺がまともに形状を変化させられない可能性もあったのだ。想定していた以上の能力があるとわかり安堵する。
とりあえず裸だったので服を着ているように変化させておいた。
改めて岩石がゴロゴロしている頂上から周囲を観察する。
今が何時かわからないが辺り一面雲海で地表の様子が全く分からない。
「ったく、何を考えてこんな場所に出現させたんだか……。異世界転送の定番は草原とか森の中だろが!」
その場にいない相手に対して一人文句を言ってもしょうがないと割り切り、とりあえず雲海の下まで降りてみることにした。
雲海の下は草原で遠くの方に森や微かに町が見えた。
「おっ、一発で町がある方向に出るなんて運がいいな。……いや、隕石に当たって一度死んでいるんだから運は良くないのか? だが隕石に当たること自体の確率は……考えないようにするか……」
過ぎてしまったことはしょうがないし、考えば考えるだけ深みにはまりそうだか。これからのことだけを考えるとしよう。
さて、日本にいたときは仕事が楽しかったせいもあってこれといった趣味もなかったし、女性関係もその……だったんだよなぁ。
勇者として召喚されて魔王を倒せ、とか使命があるわけでもないからのんびり気ままに過ごしてみるのもいいかもしれないな。
そんな事を考えながらしばらく斜面を降っていると遥か前方の森の近くの草原で突如として土煙が舞い上がるのが視界の隅に入った。
降っていると最中、代わり映えのない景色に少し飽き始めていた俺はすぐに身体を望遠鏡に変化させて土煙が舞い上がった辺りの様子を注視する。
「……ほほぅ、これはこれは」
自分でも顔がにやけるのがわかるくらい定番の展開に驚きと笑いが込み上げてきた。
二頭立ての馬車の前に剣やら杖やらを構えた如何にも冒険者風な人間数人に対してそれを取り囲む十数匹の魔物。
土煙はさながらあの魔法使い風の人間が風の魔法でも使ったというところだろうか。魔物の目の前の地面がえぐれている。
どういう経緯でそうなったのかはわからないが片方が攻撃の意思を示したのだ。全く姿形が違う種族でも親密な交流があるならともかく、そうでない場合は戦闘になる以外ないだろう。
社会人になってからは忙しくて殆どやっていないが学生の時はゲームとかライトノベルをよく読んでいたものだ。
冒険者風の人間たちの格好は正に当時夢中になっていた世界そのもの。まさかこうして来る日が来るとは夢にも思わなかったな。
なんてことを考えていると件の冒険者達が戦闘状態になっていた。
問答無用で助太刀するのがセオリーなのだろうがこちとらまだこの世界に来たばかりで自分戦闘力はもちろんこの世界の人間や魔物がどの程度強いかわからない。
『あの映画』通りの能力があるならまず死ぬことはないと思うが安全確保や情報は必要だろう。
という事で文字通り高みの見物をしばらく決め込むことにした。
……
…………
………………
「あぁ、もうなにやってんだよ、反対の横手から来てるって! 後ろの魔法使いっぽいやつ前衛のフォローしろよ! あ、おい、馬車の後ろ側からも魔物が来てるぞ! あ…………あーあ、馬車制圧されたぁ。後ろを完全に取られたからこりゃ挟撃されるな。もうダメだわ」
さらに観察していると案の定冒険者達は全滅。馬車の中にいた数人の女性は戦利品としてお持ち帰りされる模様。
ゲームやライトノベルなんかの正義感ぶった主人公ならこんな結末になる前に助けに入るのが定番だろうが俺は違う。
相手側の戦力も自分の戦力もよく分からないのに突撃する気はさらさらない。
『彼を知り己を知れば百戦して危うからず』
ってやつだ。
で様子を見た結果、相手の戦力は理解できた。正直言って大したことない。見た目通り、数と腕力による肉弾戦、物量戦でしかなかった。あの程度なら液体金属であるこの俺が負けることはないだろう。
最悪離れて銃でもぶっ放せばいい。
さて、そこで今後の俺の取れる行動としては、
1、生きている女性を助けて町へと送り届ける。
2、女性は見捨ててさっさと街へを行く。
3、魔物を駆逐して戦利品を奪う。
4、面倒だから全て殲滅
5、その他
ってところか。
選択の自由がありすぎるってのも迷うもんだな。さて、どうするかな。
町へ行く前に一応言葉が通じるかどうか、確認したいな。
まあ、変な転生のされかたはしたけど、言語一致の定番は外さないだろ。
よし、そうと決まればさっそく行動開始だ。
背中の肩甲骨を翼に変化させて、上空から改めて周囲の状況を確認する。魔物たちだけならだいたい20匹くらいいるようだ。普通ならよっぽどの実力差がない限り相手にしないような状況だろう。
そうして魔物たちの進行方向約10m先に勢いよく着地する。
勢いよく着地と砂埃が舞い上がる。俺は陸上選手のクラウチングスタートの足を折りたたんだような、いわゆる『例の映画』の『例の登場ポーズ』を再現する。そして気が付けば、俺の頭の中では、
『デデンデンデデン、デデンデンデデン! チャララー……』
と例のテーマソングが脳内再生されてテンションが最高潮になっていた。
突然砂埃を発生させて現れた目の前の男に対して動揺する魔物たち、自分達の行く末に絶望して怯え、震えている女性たち。
おもむろに立ち上がったその男が武器らしい武器を持っていないことが分かると一匹の魔物がニヤリと笑い、そして吠えた。見れば僅かではあるが他の魔物よりも体格がいい。
途端に動揺していた魔物たちは先程戦闘していた高揚感を思い出したかのようにその勢いを取り戻し、奇声を挙げたり、激しく体動かすなどあからさまな敵意をぶつけてきた。
挑発行動を繰り返す魔物たちに囲まれるなかで魔物たちとは正反対に一人心を静かに保つ。
こんな場面で同じようにテンション上げて向かったところでいいことが一つもないと言うことはこれまでの人生で経験上知っている。こういう時こそ静かに、冷静に周りの様子を伺うことが大切なのだ。
とは言え、準備はもう終わっているんだがな。
あまりに何も行動をしない俺に焦れたのか、一匹の魔物が無警戒に、さもバカにしたように近寄ってくる。
この世界にきて初めての魔物を間近で観察していたが正直ド低脳すぎる。さっさと全員で襲ってくればいいのにこちらが一人だからと舐め過ぎだ。
これ以上観察していても大した情報は得られないな。
「……さて、やるか」
近寄ってくる魔物に対して右手を上げると魔物は警戒する素振りも見せず、変わらぬ歩調で向かってきた。あと少しで魔物の攻撃が俺に届く距離になる、その手前で俺は右手を振り降ろす。
向かってきていた魔物の動きがピタリと止まる。
直後、本来転がるはずのないものがごろりと地面に向かって転げ落ちた、20匹くらいいた魔物の首、全てが。
首がなくなった魔物の体はバランスを失ったものからバタバタと倒れ始める。少し前まであれだけ騒がしかったのが嘘のようにあっという間に辺りは静寂に包まれた。
辺りに残ったのは数名の人間。
絶望して震えていた女性たちは、何が起こったのか分からず呆気にとられたまま身を寄せあって硬直しているように見えた。
女性たちに声をかけることをせずに魔物が死んだ様子を少し観察するため、周囲を窺う。
……なるほど、そっち系か。
この世界の魔物は倒しても消えたりしないことを確認すると、先程地面に着地した瞬間から魔物にバレないように地中を通してまるで木の根を張り巡らすかのように魔物一体一体の元へと送っていた俺の液体化した身体を戻す。
魔物たちの首が落ちたのはなんのことはない、魔物たちのところまで液体化した身体を伸ばし、後ろから一斉に首を落としただけの簡単なお仕事だ。
それを張り巡らすのに時間が必要だったから着地した位置から動かず魔物たちの位置を確認していたのだ。
ちなみに手を降り降ろす動作は必要はあの時点ではなかった。ただのポーズの意味合いが強い。
魔物の死体が多数転がっている中、女性たちの方へと歩み寄る。
「*、**********!」
「……ん?」
近付くと女性たちの中でも一番年長だと思われる女性が声を発した。発したのだが何を言っているか聞き取れなかった。
「**************************************」
なんか必死になって全員で頭を下げて何か喋っているがさっぱりわからん。
参ったな、異世界転生の定番の言語翻訳もしくは一致ってないのかよ!
くっそ『神』め、ここ重要なところだぞ?
普通のサラリーマンとして生きてきた俺に言語解析なんて無理だぞ?
一気に生活難度が上がったわ!
訳のわからない言語を話す女性たちを前にしてどうしたもんかと、頭を悩ませていると唐突に飛んできた一本の矢が俺の足元に刺さる。
半ば予想していた事態に矢が飛んできた方向を見ると十人程の男達がこちらに向かって走ってくる。
そして男達の約半数、六人が俺を取り囲むとなにやら持っていた武器をちらつかせて諭すような声で語りかけてきた。
残りの四人は嫌がる女性たちの手を引いて俺から遠ざけようとしていたり、魔物の死骸を解体し始めた。
どうやら女性たちと倒した魔物の死骸をよこせと言っているようだ。
薄ら笑いを浮かべながら、俺をバカにしたような態度を取っていたが無視して女性たちの方へと向かうと二人の男に回り込まれ、ニヤニヤしながら武器を突き付けられる。
これで正当防衛成立だとは思うがもう一押ししてみるか。
俺は突き付けられた武器を無造作に両手で払いのけ、女性たちの方へ歩き出そうとする。
すると男二人は俺の行動が予想外だったのか、キョトンとした表情のあと、先程のニヤニヤ顔を一変させて怒気を含んだ表情で容赦なく俺へと斬りかかってきた。
さすがにここまでやられたら何をやっても大丈夫だろ。
殺すつもりの攻撃をしてきたんだから、殺されても文句はいえないだろ。
先程の魔物たちは数が多かったので万が一を心配して奇襲で仕留めたがこの男達に同じことをするつもりはない。
今度はさっきまで死んだような目をしていた女性たちの目に多少の光が戻ってきているから。
そんな中でいくら強盗と言えど人間相手に同じことをすれば、助けたとしても奇妙に写るだろう。
だから今回は人間らしく、武器を持って戦うぜ!
両手の人差し指を少し前の冒険者が使っていたようなショートソードに瞬時に変化させ、左右から首めがけて襲いかかってくる武器へと両手を交差させてかっこよく受け止めてやる!
――つもりだった。
「……あれ?」
剣を扱ったことの無い素人だからか、相手側の技量が高かったのかはわからないが襲いかかってきた相手の武器は変化させた俺の武器の下を通って胴体に直撃した。
だが、ダメージはない。
相手の武器はまるで水を切るかのように何の手応えもなく素通りして空振りに終わった。俺の身体は液体金属。相手の物理攻撃を通したり、受け止めたり、無効化するなんてことは簡単だ。
(って言ってもちゃんと機能するか不安はあったけど)
目の前で起こった出来事が理解できず、戸惑っている二人の後方リーダー風の男から声が飛んでくる。
何やら急かすような口調。察するにもう一度攻撃しろだ、とか早く仕留めろ、とかそんな感じだろうか。
だけど残念、いくら戦闘は素人の俺でもこんな隙だらけな相手を見逃すつもりはない。
一人ずつ胴体にショートソードを突き刺し、横に薙ぎ払う。
それを見て逆上した残りの三人が連携も何も無しで向かってくるが先程と同様、攻撃を素通りさせて出来た隙に攻撃してあっさりと始末する。
その様子を見ていた残ったリーダー風の男は逃げようと後ずさるが腰を抜けたのか尻餅を着いて座り込んでしまった。
今となっては無抵抗なのかもしれないがさっきこいつが俺を攻撃するように煽ったことは忘れていない。
あっさりとリーダー風の男の首を飛ばして女性たちの方へと向かう。
そこは今にもお楽しみが始まる寸前で女性たちは服をビリビリに破かれて観念したのか、下半身を丸出しの男たちに組み敷かれている。
女性を襲うのに集中していた男たちは俺の接近にまったく気が付いておらず簡単に後ろから始末することが出来た。
改めて女性たちに声を掛けようと近付こうとしたとき、三人居たらしい女性のうち、一人は抵抗が激しかったのか、それとも見せしめか、殺されているのが見えた。
俺が殺された女性に視線を送っていた隙を着いて、残った二人のうち一人が男たちが持っていた武器を奪い、もう一人の女性の胸を指した。
あまりに予想外の展開に呆気にとられていた間にその女性は自分の首を切り、自殺してしまった。
「…………なんでそうなるかなぁ」
魔物に襲われ、盗賊にも襲われて、最後に勝ち残った俺にも襲われるとでも思ったのだろうか? 弄ばれるくらいなら死んだほうがましってことだろうか?
精神が磨り潰されるような状況ではあったとは思うが短絡的すぎる行動に俺は肩を落とす。
しばらくその場で自身の行動を振り返り、どうしたら彼女らを救えただろうか、何が悪かったのだろうかと思考する。
「あれは……鳥か?」
しばらく考えていると遠くの方からこちらに向かって飛んでくる物体が視界に入った。
最初は気のせいかと思ったが間違いなくこちらを目指して一直線に向かってきている。
まさかとは思いつつも展開にドキドキしながら待っていると、程なくして俺の目の前に一匹のドラゴンが着地し、ドラゴンの上から悪魔とも思える人間みたいなのが降りてきた。
「オマチシテオリマシタ、マジンサマ」
「…………はいー!?」
そいつは俺の前に片膝を着いて、そう言い放ったのだった――。