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英勇者の天敵  作者: バル33
第一章:奴隷たちの悲劇

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その8


 恐怖に塗れた顔で俺から走って逃げていく。

 他の奴隷たちも恐れをなして全員が離れていく。

 助けたのにこの始末。 報われない。

 覚悟はしたつもり――ではいた。

 救世主たる勇者を滅ばしに世界を回る外道が、賞賛なんてされないのは百の承知だったんだ。

 でも、いざ目の前でやられると……


「辛いな」


 自然と心の嘆きが漏れていた。

 誰にも理解されず、誰にも尊敬もされず、孤独に生きるのをわかっていたはずなのに心が痛い。

 奴隷らを助けない方が良かったかもしれないとさえ思える。

 救いをしなければ傷つかなかっただろうに。

 

「はぁ…………うん?」


 遠方に奴隷ら全員が逃亡したと思いきや、一人だけが棒立ちしていた。

 片腕に耳が聞こえない奴隷が不思議そうな目で見ている。

 なんで逃げてないのか? 怖くないのか?

 疑問ばかりが脳内にぐるぐると飛び交う。

 手っ取り早く奴隷さんに訊こうか。


「ど……うして逃げてないんだ?」

「逃げたとしてどこに私の居場所があるのでしょうか。 片腕がないので仕事はままならず。 耳が聞こえないので他人の口元を見るまで意思疎通ができず。 一応女ですので、身体を売ろうにも……ほら、火傷だらけの醜い姿で相手にしてもらえません。 ただ食費がかさむだけの存在に居場所はないでしょう。 どこに逃げても一緒です」


 生気のない目でそう淡々と語られた。

 いつ死んでもいいその考え方に俺は賛同できやしない。

 せっかくの命なんだから無下に扱うな。 大事にしろと彼女に直接言いたいが……言ったところで改心もしないだろう。

 深く深く絶望を味わった彼女を生きる気力を与えるのは簡単ではない。

 簡単じゃないのを知ってる。 なぜなら俺自身が絶望を体験してるからだ。

 前世の記憶が全てあるわけじゃない。 断片しか持ち得てないが…………あの地獄は奥底の魂に刻み込まれた。

 いや、呼び起こされのだ。 憎悪が全身を包み込むように。

 憎しみも憤怒も全部知りえている俺だからこそ、見捨てられない。

 このまま放置するわけにはいかないのだ。 救える命は救う。

 それが俺のアイデンティティーだ。


「醜い身体、片腕なし、聞こえない耳。 どれもかしこもお荷物でしかなく、なんの役にも立たない存在。 君の言うとおりだ。 居るだけで邪魔でしょうがない」

「……そうですね」

「そんな君だからこそ俺のパートナーになってくれないか?」

「――え?」


 鳩が豆鉄砲食らったような顔ってこうなんだなと一言。

 虚を突かれてびっくりしたようだ。

 彼女を思惑なら見捨てると思っていただろう。


「い、意味がわかりません。 なにが目的なんです?」

「目的もくそもない。 善意で君とパートナーになりたい。 ただそれだけだよ」

「…………」


 怪しんでいる。 絶対に裏があると疑りぶかい眼光で凝視。

 しかし、不思議だ。 彼女と話してるとどもりが出てこない。

 言葉が詰まることなく、リラックスした状態で会話ができるのは嬉しい。

 俺がどもっても、眉一つ動かさず聞いてくれるのは有りがたい。

 さて、彼女の返答はいかに?


「嘘……ではないんのですね。 邪な感情もなく偽りのない人間は初めてです。 わかりました。 あなたのパートナーになります」

「やった! ……と、邪な感情もなく偽りのない人間は初めてってなんだ?」

「それはですね。 相手の言葉が嘘なのか、悪意があるのか直感でわかる能力なんです、私。 いままで生きるのに役に立ちませんでしたが……」



『コイツの言うことだけは正しいからな』



 狼男が正しいと発言していたのに納得した。

 相手の言葉の真理を解き明かす能力か。

 マインドスキャンしてる訳じゃなく、直感で判断するとは便利だ。

 黙秘している相手だと通用しないのが欠点なのね。

 無人島サバイバル生活より過酷であろう異世界じゃ、彼女の能力は生活にはあまり活用できないだろうな。

 逆に人間関係がギクシャクするに違いない。

  

「一つ疑問は解決したけど、質問あと一つしていいか?」

「はい、なんでも答えますよ」

「言葉に詰まったり、苦しそうな表情で喋ってるのに、気にせず話を聞いてくれるのはどうしてだ?」

「そんなことですか……気にせず話を聞くのは当たり前ですよ」


 眉をひそめて呆れられている。

 俺にとっちゃ重大な質問なんだ。

 表情を一切変えず、普段通りに話を聞いてくれる人なんていなかったから気になってしょうがない。


「私と同じでなにかしらの障害をお持ちの方に、奇妙と思う感情は虫けらです。 苦しみを理解してるのに、そう感じるならば不道徳です。 ですから私はあなたに邪な感情はなく、普通に聞くのです」

「………………泣きそうだ」


 辛い日々を暮らしてきて初めて理解された。

 周りの人みたく、普通に話せないのがコンプレックスだった。

 どもらないよう発声の練習して膨大な時間を費やしても、人前で話せば結局はどもる。

 皆とは違う自分に心を苦しませていた。

 なのに、今日会ったばかりの彼女に理解されたのだから涙が出そうになる。

 救われた気分だ。 彼女にお礼を言おう。


「ありがとう。 君の言葉で心が楽になったよ」

「そんなつもりはなかったのですが、あなたの為になって良かったです」

「そうだ、まだ名前聞いてなかった。 俺は桜井翔太って名前だ。 君は?」

「やはり異国の名ですね。 私はティーレット・ソルシュバリエと申します。 ティと気軽にお呼びください」

「よろしくな、ティ」

「ええ、サクライ」


 戦友と分かち合ったように握手をして自己紹介が終わった。

 女の子の手って柔らかいなとヤラシイ感情があったのは内緒だ。

 


次は第2章になります

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