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英勇者の天敵  作者: バル33
第一章:奴隷たちの悲劇
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その6


 ……なんだか心が痛むな。

 言い表せない感情が渦巻き心が晴れないでいた。



――――――――――――――――――



 歯がゆさを残したまま案内人に着いていていくこと約十分。

 複数の明かりが照らされている密集地帯に赴いた。

 そこには狼の姿をした人や、尻尾を生やした人と、獣人というやつだろうか。

 ケモナーがいたら卒倒しそうだ。


「おいおいおいおい! 勇者を連れてくんじゃねえよ! 俺たちがされた仕打ちを忘れたわけじゃないだろ!」

「ご安心ください。 一応彼は勇者の部類には当たりますが、勇者を超絶に憎む転生者です」

「……なんじゃそりゃ」


 リーダー格っぽい狼男がキョトンとしている。

 最初から勇者が嫌いです、と転生してくるやつなんていない。

 当然の反応だ。

 それより勇者のことを相当毛嫌いしているようだ。

 さっそく英勇者絡みの事件か。


「ふう、コイツの言うこと(・・・・・・・・・)だけは正しいからな(・・・・・・・・・)。 まあいい、兄ちゃんが勇者を嫌うならここに居てくれていい」

「助かります。 ……どうして勇者を拒絶しているのですか?」

「居場所を奪われたからだよ」


 狼男の発言を聞いた瞬間、最悪なフラッシュバックが映し出される。

 鮮血が飛び交う業火の光景が。

 また、地獄が繰り返されてしまったのか。


「俺たちはよ……奴隷として生きていた。 誰もやりたくない仕事を嫌でもこなした。 けっして幸せとは言えないかもしれない。 けどな、飢えに苦しむもなく生きていけた。 それだけで幸福だった。 なのに……あの勇者は! 主人を奴隷を卑下に扱う悪だと決めつけては、問答無用で斬り殺し。 一瞥したと思えば、美人な奴隷だけを連れていき、俺たちは放置された。 住処も用意されないおかげで俺たちは路頭にさまよい、挙句の果てには国のやつらから追放されたんだ! 行く場もない俺たちから奪っただけなんだよ。 勇者ってやつは!」


 ひどい目にあった出来事を語る狼男は瞳は血走り、怒り心頭だ。

 仕えていた主人が殺された挙句、その後の処理もしない……自己満足なI勇者やろうだ。

 しかも美人な奴隷だけ連れていくね。

 ハーレムでも作りたい願望で他は放置か。

 悪か正義がも不明な状態で、実行する勇者はやはり害悪だ。

 勇者によって引き起こされた悲劇だ。


「あんたの怒りに憎しみは、よくわかるよ。 俺も似たような惨劇をされた過去があるからな」

「なるほどな……だから今にでも誰かを殺そうとしている()をしてるわけだ。 勇者嫌いも納得できる」

「えっ?」


 顔に出しているつもりはなかったが、内なる感情が表に出ていたようだ。

 鏡でもあったらどんな表情をしているか見てみたい。


「勇者が憎い同士、分かち合える人と巡り合えたパーティでもしたいところだが……すまないな。 あいにく食料も水もねえんだ。 光源もない真っ暗闇だ。 夜目も利かねえから寝て明日に備えるだけになるがいいか、兄ちゃん?」

「もともと飯にたかるつもりはないさ。 寝よう」


 敬語じゃなくなってるのに今さら気づく。

 勇者関連のネタだと性格も変わるみたいだ。

 寝ようと言いつつも、異世界にやってきたばっかで眠くないんだよな。

 どうせ森の中なら魔物やら危険生物もいるだろう。

 眠ることができない俺は、護衛ってことで夜の間は奴隷らを守ろう。


「ん? ……おい、血の匂いがそこら中からするぞ!」


 突然、狼男が叫びだしたと思えば、毛を逆立てて爪を伸ばし戦闘態勢に入っている。

 ただ事ではないようだ。


「とんでもねえ奴が来るぞ、兄ちゃん。 気を抜くなよ」


 狼男からの険しい表情は事態の深刻さを物語っていた。

 なにか危険な者が迫っているのだけは理解できる。

 眩かった一面が暗闇に支配されていた。

 松明が消えているのだ。

 おそらく、遠くにいた奴隷たちはもう…………考えるのはやめよう。

 今、生存している人たちでも救おう。


「――身体強化」


 俺は極点魔法の呪文を呟く。

 ギア一に設定し、相手の強さによってはギアを解放していく。

 効力が絶大なゆえに制限を設けておく。

 奴隷たちを巻き込むかもしれないからだ。


「う……うそだろ! なんでA級の熊蛇獣(キメラ)がこんな場所にいんだよ!」


 先ほどまでやる気満々だった狼男は、子犬のようにプルプル震えて縮こまっていた。

 彼の反応から見ると相当やばい生き物らしい。

 A級てのも、どの基準の強さなのかわからんが……どのみち俺の敵ではないだろう。


「魔女の怪物(ペット)がなぜここに……無理だ、叶わない。 全滅だ」

「恐れるな。 絶対に死なせたりしない」

「転生したばかりの勇者が倒せるレベルじゃないんだよ。 ……無為に希望を与えるのはやめてくれ」


 地面に尻餅をついてへたり込み、狼男は諦めモードに。

 覚えたての知識に魔法では討伐は叶わない強敵か。

 なぜ勇者が序盤に倒せない、魔女の怪物(ペット)やらがいるのか疑問だが、今はいい。

 守り抜くことに専念しよう。 

 

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