その1
激闘の末、気絶し意識を取り戻した時には白いベットの中だった。
指一本動かせない重症で恥ずかしながらティに看病してもらっていた。
食事も、風呂も、トイレも……だ。 あれほどの辱めは一生忘れない。
二度と魔水を服用した後の魔力運用はしないぞ。
完治したのちは旅の準備を始めモダル・ヘルクを出ることに決めた。
その頃には五十人の勇者を退け大英雄に勝利したと話題で持ちきりだった。
こちらにとっては興味のない話で、モダル・ヘルクは毎晩どんちゃん騒ぎしていた。
と言っても、たった数十人でのお祭り騒ぎだ。
モダル・ヘルクに戻って来たもの極小数だった。
ほとんどが国に滞在していた人物。
もう国とは呼べず、土地が広大な小さな村と言っていい。
そんな喧騒をしてる内にコッソリとモダル・ヘルクを抜け出そうとしたが、サーレに見つかってしまった。
会いたくなかった人物だ。
「待ってくれサクライ。 君はこの国にとって欠かせない存在だ。 今一度考えてほしい」
「断る。 決めたことなんだ」
「お願いだ。 どうしても必要なんだ、君が」
土下座までして引き留めようとしてくれる。
サーレは偽りなく必要と言ってくれるのは嬉しい。
けど、
「これ以上俺に関わるな。 サーレ、あんたは地獄に来るべき者ではない。 勇者を殺す外道と人を導き生かす者では共存できない。 それくらいわかってるだろ?」
「……だとしても私は……」
「優しいな…………じゃあな、世話になったな」
「止まれ、止まってくれ! ――サクライっ!」
静止を聞かずモダル・ヘルクから離れていく。
生きてる世界が違う以上、交わることはあり得ない。
闇にサーレを引きずり込みたくない。 サーレは尊敬され平和の象徴とされる人物なのだから。
「優雅に暮らせる権利を放棄して良かったのですか?」
「そんな人生に興味はない。 馬鹿な質問をしないでくれよ、ティ」
「愚問だったですね」
クスリと微笑み豊かな表情を差し向ける。
出会った当時に比べたら感情が表に出るようになったものだ。
「行く宛は決めてるのかい?」
「当たり前だ。 とりあえず大英雄がいた場所、王都ヴァルファルニアに向かう」
清楚な白いワンピースで問いかけるキュレイピア。
地図を広げて現在位置を確認しながら歩く。
惜しげもなく前にすすんでゆく。
櫻井翔太の旅は始まったばかり。
道は険しく長い。
命尽きるまで世界を周り巡る。
そう、有害である英勇者が全滅する日まで歩みは続ける。




