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英勇者の天敵  作者: バル33
第四章:最強の五十VS究極の一
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その12


 先に名乗るべきだったと思いながらも荒廃した地を駆け抜ける。

 レイピアの刺突から発生する風の弾丸を最大限の動作で回避しながら接近していく。

 ラースの攻撃パターンは単純で避けるのに困難ではない。

 才能と優れた固有(ユニーク)スキルで頼ってきたのか、キレのない突きに斬り込み。

 十年以上住み着いていてこれだ。 まだサーレの方が立ち筋は美しかった。


 大英雄といえどこの程度。 ギア二でも苦戦はしない。

 あれほど警戒したのはなんだったのかと拍子抜けする。


「チョロチョロと目障りだ」


 息がかかる距離での火炎魔法をぶっ放してきた。

 至近距離では避けるのは難しい……が避ける必要はなし。

 圧縮が脅威にならないと理解した今は恐れるにたたらず。

 そのまま炎を海に突撃する。


「せいやあ!」

「げぅ!」


 火に炙られながらラースの顎にアッパーをお見舞いする。

 頭部は砕けず舌を切る程度の怪我で済んでいるようだ。


「ほんと頑丈だな」


 百パーセントの拳で殴ってるのに死なない不思議な身体。

 ならば絶命するまで殴打を続けるまで。

 アッパーで浮いた身体にありったけの拳を叩き込む。

 肘、二の腕、胸部、脇腹、腹部、と可能な限り音速の打撃を与える。

 地面に足が着いたころにはラースは瀕死の重体となっていた。

 レイピアを杖替わりで胴体を支えてなんとか姿勢を保っている。


「……大英雄の俺が……一瞬でケリをつけられるとはな。 ああ……もう少し余生を過ごしたかった」

「お前が(あや)めてきた人もそう思っていただろうよ。 周りに回ってツケが来ただけだ。 そう、俺の手によってな」

「……自業自得ってやつか。 ……ふふ……此度の人生は快適も最後は殺される運命だった…………」


 立ったまま生気を失い絶命していた。

 意地でも倒れず死ぬまで腰を下ろさなかった姿に内心で褒めていた。

 勇者の矜持(きょうじ)ってやつか。

 と、ここで体温が急激に下がる体感に襲われた。

 体験したことのある悪寒。

 ティに魔力を根こそぎ奪われた時に起きた魔力切れの感覚。


 まだ三十以上は勇者が存命している。

 このままでは……。


「さあ、お前らの大英雄様はお亡くなりになられたぞ! まだ戦う気があるか!」


 口からのでまかせ。 残存魔力はもうわずか。

 英勇者共が大人しく引いてくれなければバッドエンドだ。


「逃げるならば追わない! 戦う意思のないものは去れ!」


 虚勢を張り気合だけで倒立をし続ける。

 ギア三も解けて身体強化なしの生身の状態だ。

 頼むから来た道を引き返せ。


「………………助かったぁ」


 誰一人勇敢に挑む者はおらずこの場から離れていった。

 限界が訪れ足から崩し、全身に重りが圧しかかる。 

 疲労感と痛みも追加され意識が混濁する。


「ター君! ター君!」

「……揺らすな……いてえよ。 それに今の名はサクライだっての」

「ふぐぅ……えぐ……生きてて良かった。 ……これ以上無茶はよしてください」

「無……理な相談だな。 有害な勇者を滅ばすまでとま…………」

「たー……サクライ? サクライ!」


 ブツリと生命装置の電源を落とされ意識は途絶えた。

 懸命に声をかけるティと静かな呼吸を繰り返す音だけがその場に残った。

 見事、大英雄の一人に勝利したのである。



 ――――――――――――――――


 一方山頂から大英雄との死闘を覗く輩がいた。

 親指と人差し指で輪っかを作り、終止を見届けていた。

 吹き荒れる強風で金色の長髪をなびかせるキュレイピアは、望遠鏡の役割をする魔法を解除し膝を曲げた体勢から立ち上がる。



「神具の確認。 やはり世界の破滅には神が一枚噛んでいたね。 我の操り人形(どうぐ)にしてはいい仕事するじゃないか」


 感情が抑えられないのか「くひひひひ」と奇声をあげて笑い続ける。

 近くいた魔物さえ不気味に感じてその場から逃走していく。

 一しきり笑った後、屈伸をし背筋を伸ばす。

 軽いストレッチを終えたのち山頂降りながら呟く。


「妹に害をなす神に裁きを。 我に喧嘩を吹っ掛けたのを後悔するがいい」


 怒りが呼応するように溢れる莫大な魔力を放出させ、無関係な魔物を殺生しながら下山する。

 いつの日か対峙する神に処刑方法を考えこの場から去った。

 


次はエピローグに移ります

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