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英勇者の天敵  作者: バル33
第四章:最強の五十VS究極の一

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その11


 腰に携えたレイピアを引き抜き、上段中段下段と三段突きを繰り出した。

 迅雷のごとく速い突きだが見える。

 頭を傾け、腹をクの字によじり、右足を上げて回避しくるっと回転する。

 遠心力を乗せ低い体勢から大英雄の溝にボディブローをかました。

 加減なしの渾身の一発。 即死は免れないだろう。


「…………きいたぁ。 とてつもない腕力だ」


 少し吐血しただけで生きている。

 ギア三状態のパンチで生還してるとは……どんなからくりだ?

 確実に溝に打ち込んだ。 なのに少量血を吐いただけで済んでいる。

 こちらと同じ極点魔法の身体強化を行使しているとは考えにくい。 

 てことは一輪の花模様が入った防具に秘密がある。


 打撃何割カットとか特殊効果が付与されてるのだろう。

 それでも地形を変動させるほどの威力だ。

 伝説だろうが、幻想だろうが、関係なくぶっ壊すパワーを耐える防具。

 大英雄は格別だ。 武具とも未知の物を備えている。

 世界はまだまだ広いな。


「自称魔王と名乗るだけのことはある。 ここから先は慎重にいかせてもらう」


 後方にステップし突きの構え。

 刺すにしては距離が届いていない。


「しっ!」


 腕を伸ばし突きをすれば太ももにズドンと鈍く衝撃が走った。

 風の刃を飛ばした原理と同じだが異なる。

 魔法で強化された一点集中の技だ。

 痛みはないが体制を崩してしまった。


「しっしっしっ!」


 素早くて見えない透明の弾丸を受けて背が地に付く。

 これ以上の追撃を避けるため、地面を手のひらで叩き空高く飛翔する。

 視線を下に向ければ猛烈な炎が押し寄せていた。


「邪魔だ」


 火の粉を振り払うように手を動かすだけで炎は消える。

 視界が晴れれば大英雄は魔法陣を描き出し詠唱をしていた。

 魔法は発動せず両手には不自然異に輝く翡翠色。

 固有(ユニーク)スキル、圧縮を実行中のようだ。

 脳が警鐘を鳴らし回避せよと指令をだしてくる。

 空気の壁を蹴り瞬足で動きまくる。


「極限まで鍛えた炎が通用しないのなら、風で切り刻んでやろう。 逃げるあたり風属性は通用するってことだろ?」


 圧縮で数十倍になった魔法を受けるとダメージを負うから逃げてるだけだ。

 致命傷になったらしゃれにならないので全力で回避に費やす。


空破裂漸(くうはれつざん)


 大英雄が技名称を言った途端に大気を斬りながら進行する、かまいたちが発生した。

 音速の脚力を持っても逃げれない鋭利な刃。

 額を腕でクロスし頭は死守する。

 複数から木刀でボコボコに滅多打ちされる感覚に襲われた。


「くぐぅ!」


 エンドレスに続く風の斬撃。

 いつまで続くのかと思案してると急に刃は消え失せる。

 持続力はなく一時的な技だったようだ。


「……ふぅー」 


 後頭部から地面に打ちつけゴシャリと痛々しい音が鳴るが異常はない。

 圧縮攻撃を受けたはずが負傷した部分が一切出ない事実に疑問が浮かぶ。

 渦巻く紅炎の終わりプロミネンス・ジ・エンドという空間さえ歪ます莫大なエネルギーは最強の盾にヒビを入れた。

 なのに今回の大気を圧縮した斬撃は身が傷つかなかった。

 ……まさかとは思うが仮説が正しければ、もう大英雄の固有(ユニーク)スキルに恐れる必要がなくなる。


「大英雄さんよ。 圧縮技の威力が一発目より断然劣るってるぞ」

「あり得んな。 炎までもなく風も極限に至っているだと……何者なんだお前は……」

「その質問に答える前に一つ。 大気の圧縮技に使用した魔法は低級で間違いないか?」

「そうだ。 だからどうした?」


 大英雄に勝機は皆無となった。

 最上級の圧縮だとやつはべらべらとご丁寧に教えていた。

 なら凶悪な敵を確実に仕留めるには最上級の魔法を使用すべきだ。

 だというのに実行しない。 それはなぜか、答えは簡単だ。

 最上級の魔法を放つまで詠唱に時間がかかりすぎるからだ。


 無防備な状態をさらけ出せば一瞬で勝負が決定する。

 相手を足止めしても最上級の詠唱を完遂させるまで時間が足りない。

 固有(ユニーク)スキルの弱点は溜めるまでにかなりの時を要する。

 時間さえあれば最強のスキルだ。

 仲間がバタバタと倒れてるのに姿を現さなかったのは、魔法を圧縮し一撃で葬るためだったからだ。


 統率者にしては最低だ。

 仲間を命を利用して凶悪を倒す犠牲がつく前提での作戦行為。

 大英雄とはこんなポンコツばかりなのかと疑ってしまう。


「あんたの問いにお答えしよう。 単なる身体強化の副次効果である硬さで炎も風も通さないだけだ」

「くだらん嘘は吐くな。 身体強化で、身体を硬化させる効力はない。 仮にあったとしても限度を超えている。 実現可能とすれば俺より数十倍の濃密な魔力で全身を覆うことしか説明がつかん」

「……どいつもこいつも勇者ってのは信じないやつばかりだな。 まあいい、そろそろ決着をつけよう。 終わる前にあんたの名を聞かせてくれ」

「ラース・ドレイゴン。 それが今から貴様が殺される名だ」

「桜井翔太だ。 覚えておけ」


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