その10
先ほどからうるさく指令を出す勇者に人の頭蓋を投げつける。
人の頭はボーリング並みの重さがある。 直撃すれば無事ではすまない。
が、意図も容易く頭蓋を剣で縦に割り凌いだ。 さすが英雄クラス。
左右にステップを踏み撹乱しながら着実に距離を詰めていく。
一太刀、一矢、と攻撃されながらも急な方向転換で避けていき、英雄クラスであろう勇者の間近くまでたどり着いた。
避けるのが困難な掴み技を相手の顔面に向ける。
「スキル――空間固定!」
一定の空間範囲のみ全ての時を止めて硬直させる技のようだが、危険を察知した俺は半歩後ろに下がり相手の効果外から抜ける。
スキルを使用した原因か動きが鈍っているようだ。
好機は逃さない。 跳躍しスキル外が及ばない高さまで到達したところで、マッハを超える蹴りで空気を土台にする。
重量と音速を合した威力のかかと落としを英雄クラスの脳天に叩き込んだ。
頭どころか身体までが分裂する破壊力。 隕石が衝突したようなクレーターが出来上がり自分自身驚いている。
英雄が一人が死体に変わったことでどよめく勇者たち。
もっと効率よく始末するため太もも、ふくらはぎ、足の指先まで均一に力を溜めていく。
力が行き渡ったところで地面削りながら真上に足を蹴り上げる。
不可視の風の刃が勇者に襲う。
肩から股関節まで深く抉られ真っ赤な血が溢れる。
隣にいた勇者は悲鳴を上げて逃走を図ろうと背を向けた。
無防備だったので風の刃で一刀両断。 鮮血が飛び散った。
「敵前逃亡は死を意味すると思え」
背を向けた勇者に語りかけたがもう聞こえてないだろう。
次はどいつを殺ろうかと視野を広げれば異変に気づく。
距離を空けているのだ。 一歩一歩後方に下がり警戒しつつ。
仲間を捻り潰され恐怖を抱いている。
英雄も葬られたのも要因があるようだ。
「おいおい、勇者とあろうお前らが恐れてどうする。 勇気がある者、略して勇者だろう? 悪を目の前にして放置か?」
誰一人と喋ろうとしない。
沈黙が流れる。
「はあ……情けねえよお前ら。 散々弱者に俺つええええしたり、無双で楽しんだり、最強スキルで蹂躙してきてだろ。 自分が弱者になった途端に恐れおののき、傷を負いたくないから逃げを選択する。 見苦しいよな」
躍起になって斬りかかるやつが出てくると予想したが当てが外れた。
冷静で臆病だな。
「ここまで貶されてアクションを起こさないか。 なら秘密を明かそう。 お前らの祝願たる敵が目と鼻の先にいるって話ならどうだ?」
全員が困った顔で見つめてくる。
言ってる意味がわからないと表情で伝わる。
「そうだな簡単に言えば相反する者だ。 勇者でいえば魔王。 英雄ならば反英雄。 つまり英雄と勇者の天敵ってわけだ。 絶対悪を倒せる機会は滅多にないぞ。 そら、かかってこいよ」
『世界の敵ならば排除せねばな。 風王絶断』
脳内に直接音楽が流れたように声が響いた。
周囲に圧迫された空気の壁が作られており、抜け出すには時間がかかりそうだ。
濃密な魔力で練られた風の結界。 一体どいつが作り上げた?
と、疑問はすぐに解決した。
「これで幕引きにしよう」
燃えるような髪に深紅の瞳。 忘れようがない因縁の相手。
前世で村ごと崩壊させた勇者だった。
こうも早く出会えるとは幸運だ。
「渦巻く紅炎の終わり」
足元に紅い結晶体を落とされた刹那、すざましい爆風が結界内に巻き起こる。
灼熱の火炎が空間が歪むほどの莫大なエネルギーで渦巻く。
逃げることも叶わず、地獄の炎でなにもかも消し去る一撃。
もう生きてないだろうと確信しているだろう。
大英雄はすごいな。 奥の手を使わせる羽目になるとはね。
「最上級の炎系統の魔法である灼熱紅炎を、固有スキル圧縮保管で五回溜めて解き放つ天地開闢の一撃。 これを受けて生還した者は今まで一人もいない」
「……へえ、俺は初の生還者第一号だな」
「――!?」
全身から溢れる深紅のオーラ。
ギア三を解放した影響で見える魔力に少々感心していた。
やつの渦巻く紅炎の終わりを受けて無傷ではない。
強度が薄い箇所は低火傷していた。
大した威力だよ、まったく。 ギア三でも守り切れないエネルギーとは恐ろしい固有スキルだ。
「視界に映るほどの濃密な紅い魔力……そうか、同系統の魔法で火炎を操作し力を分散させたか。 面白い。 久々に本気で渡り合える強敵に感謝を。 さあ、殺し合おうぞ!」
「こちらこそありがとう。 復讐させてくれてな!」




