その9
隣通しで顔を見合わせ、笑いに堪えきれなくなり爆笑しだした。
太ももを叩くものや腹を抱えてひーひー言う者と、英勇者共はドツボにはまったみたいだ。
『改心することないじゃん。 だって逆に裕福にしてあげてるし』
『どこを改めるのか意味不明』
『感謝の言葉しか聞いたことないけど』
『俺らが世界を導いている立場なんだけどね』
反論をしては揶揄する英勇者たち。
善業をしてきた私たちがなぜ改心する余地があるのかと思っているのだろうな。
……愚か者共だ。 今までやってきた行為が真の善業であれば文句も言わない。
だが現実は世界に終焉をもたらす害悪だ。
無知ってのは哀れで罪だ。
「おおよそ二週間。 裏でなにをし、勇者がほんとに悪なのか善なのかを調べた期間だ。 周りに恵まれ環境も良くての時間。 見定めるのなら一か月もしくは二か月を一人に要するだろうな。 そんなことしていたら、いくら時間があっても足りない。 その間に世界を滅んでしまう。 ……英勇者たちを吟味して選別する余裕がないんだ。 この一問でイエスかノーで全てを判断させてもらう。 理解してもらえたか?」
首を傾げ蔑む視線が身体に刺さる。
意図も掴めない言葉の羅列に聞く耳持たず、しまいには馬鹿にされた。
話し合いもなく皆の代弁者である勇者が前に出てきて宣言する。
「改心する気もない。 戯言を吐くなよ、クズが」
「そうかそうか。 ……ならばここで死ね。 ――身体強化」
交渉は決裂。 成功するとは微塵も思ってはいなかったがこれでいい。
楽に勇者の数を減らせる。
ギアは二に設定。 一では不十分と勘で理解したからだ。
「ほお、身体強化使いとな。 お前の身体強化と俺の身体強化、どちらか強いか勝負しようじゃないか! ――身体強……うぇ?」
「あほうが」
代弁者である先頭にいた勇者に音速で接近し、手刀の形で心臓を一突きにした。
ベラベラと語って余裕ぶっこいでいるので隙だらけだ。
まずは一人。
『よ、よくもベルウォンを!』
『速いな』
『油断したあいつが悪い』
「御託はいいからさっさとかかってこい。 フルパワーで掃除させてもらう」
心臓を潰した手を抜き取り、遺体となった勇者をそこらに放り投げる。
剣槍鎌と武器を引き抜き、詠唱も開始させる烏合の衆。
仲間を一人失ったことにより危機感を持ったようだ。
それでいい。 殺し甲斐があるってもんだ。
『集中を極限まで研ぎ澄ませ! 油断は一切するな!』
英雄クラスだろう一際目立つ装備をした敵が、メガホンで声を拡張してるかのように耳朶に響いて痛い。
注意喚起をしたとこで魔法が縦横無尽に飛び交う。
接触する直前で行動を開始する。
一直線でもっとも最短距離にいる甲冑を着た勇者に右ストレートをお見舞いするが、真横から水流が押し寄せ失敗に終わる。
「邪魔されたか」
簡単には攻略させてくれないようで面白くなってきた。
存分にギア二を揮えそうで笑みが止まらない。
『囲んで逃げ場を無くせ! 自由に動かせるな!』
ぞろぞろと列をなし円を描いて鳥かごの完成だ。
行動範囲が狭まり八方塞がり状態だ。
『撃って撃って撃ちまくれ! やつに反撃の隙を与えるな!』
頭部を腕で隠し防御の体制をする。
初発は雷撃が腹に直撃し、脚には風の斬撃で刻み、腕には重量のある岩が投石され、背中には高圧水流が撃ち込まれた。
たった一人に対して過剰なぐらいの魔法を放ってくる。
「……攻撃力は記憶した。 ずっと受け続けるのはマズいな」
実験でギア二はどこまで耐えれるかテストをしているが、若干痛みを感じ始めた。
すでに三百発も受けきっていたら当然か。
流血するほどにないにせよ、英雄クラスが混じるチームだとダメージを負うとわかった。
貴重なデータを入手できた。 そろそろ反撃と行こうか。
『前方警戒せよっ!』
魔法の雨あられを掻い潜り疾駆する。
先ほどと同じ戦法で一番近い勇者を殴りつけにいくが横やりが当然入ってくる。
棍棒が板挟み状態で振るってくるが地を蹴り空中に回避する。
『チャンスだ! 総員放てええっ!』
身動きが取れない空中ならば弾幕をし放題だと思ったようだ。
実に甘ったるい考えだ。
極点である身体強化が空白の場所で動けないわけがない。
足場にする箇所はそこら中にある。
空気という生きるうえで切っては離せない物質。
音速を超えるキック力があれば空気も足場になる。
「二人目」
反転し空気を蹴り標的だった勇者の首を捥ぎ取った。
魔法弾は花火のように上空で弾けていた。
この戦法ならば被弾せずに狩っていけると確信する。
『風魔法も習得しているようだ。 上からの奇襲も注意せよ!』
どいつもこいつも他の魔法の効力で実現させたと勘違いするのはなぜなのか。
気にしないで掃除していこう。




