その6
清潔なシーツがひかれた台に寝そべりリラックスしていた。
意識がはっきりし夢だと理解する。
雰囲気はマッサージ店。 ……一度も行ったことないのに夢とは不思議なものだ。
背中を天井に向けて待ってれば誰かが近づいてきた。
意識はあるものの身体は動いてくれない。
がさこそと物音を立てなにか探している。
見つかったのか物音は消え去り、腰に違和感が生じる。
針……のようなものが腰に突き刺さり痛みを感じた。
深く奥に針が肉を突き破る感覚に悶える。
痛い、かなりの激痛だ。
刺された先からは血を吸われている感じがする。
夢なのに痛みを伴うのか………………痛い?
待ておかしいぞ。 決定的におかしい。
現実ではない幻想の世界で痛みが発生するものか。
起きろ! 己の身に異変が起きているぞ。
――目覚めろっ!
「……ふ、あぐ……変な夢…………いぐっ!?」
腰に突き刺さる異物をはっきりと感じ取り激痛で筋肉が強張る。
明らかに鋭利なものが刺さっている。
恐る恐る背中に手を回し異物を触ろうとするが、当たったのは温もりがある人の手首だった。
この場に山賊が忍び込み金品を盗みにでも来たのか。
勢いよく身体を起こし前転する。
頭を上げて刺した相手の顔を拝むと絶句した。
あまりの衝撃に全身から力が抜けてへこたれる。
信じたくない。 絶対に信じたくない。
「あら、もう起きちゃいましたか。 眠っていれば楽に殺したのに」
「……どういうつもりだ。 ティ!」
襲った相手は山賊でもなく盗賊でもない。
仲間のティが殺害しようと刺したのだ。
ティの掌には角が生えており血で真っ赤に染まっている。
体内に角を隠し持っているてことは鬼の力を引き続いていたか。
「やはりあなたは身体強化中でなければ脅威ではありませんね。 容易く身体を貫通できました」
「こた、えろ。 どういうつもりで危害を加えた!」
付着した血液を舌で舐めとりごくりと飲む。
唇を大きく広げ鼻笑いし愉快そうに見下してくる。
「まーだわからないのですか。 頭が鈍いですね~。 そんな鈍感なあなたに答えてあげましょう。 私は聖都ヴァルファルニアの工作員ですよ」
「なっ……嘘だろ」
「毎日毎日笑いを堪えるのに必死でしたよ。 勇者は悪だの滅ぼすだのと、おままごとしているあなたに傑作でしたよ。 現実を知らない無能なあなたに心底くだらないと蔑み、勇敢な意思で向かう姿も滑稽でした。 でもこの役目も終わり。 楽しい楽しい日々は最高でしたよ」
腹を抱えて高笑いし狂気な瞳で凝視してくる。
全部偽りだっていうのか。 笑顔も、恥ずかしがった顔も、悲しみにくれる顔も、演技だというのか。
最初から仕組まれ仲間になるのも計算だというのか。
認めたくない。 認めたら心が壊れそうだ。
ティと暮らした一日一日がかけがえのない日々だった。
それも欺瞞だ。 ……欺瞞だとしてどうすればいい。
殺すのか? 躊躇いもなく。
お前に仲間を手にかける度胸はあるのか?
殺す覚悟はないに決まっている。
ならば逃げる選択しか残されていない。
「は、え? ……力が入らない」
「当たり前ですよ。 魔力を吸収したのですからまともに動けませんよ」
立ち上がろうするが筋肉が痙攣し途中で倒れてしまう。
ひどい筋肉痛みたいで力が沸いてこない。
そうか。 鬼には吸収機能があったけ。
こりゃ絶体絶命だな。
「く……そ」
「ま、私の役目は危険すぎるあなたを無力化するだけですけどね。 抹殺可能であればしろと命令も受けてますが……ろくに歩くこともできないあなたならば殺せますね。 九割の魔力を吸ってしまえば誰でもそうなりますけど」
ああ……こんな結果になるのなら仲間を作らなければ良かったと後悔している。
せっかく復讐の機会を与えてくれたキュレイピアに申し訳ない。
上体を起こす力もない。
呆気ない幕引きだったな
「これであなたは大英雄と戦えませんね。 あの世で懺悔でもしてなさい」
ぶすりと腹部を角で刺され魔力が吸われていく。
魔力を吸いつくした後、殺すみたいだ。
時間が経過するにつれて視界が霞み暗闇が増えていく。
意識もだんだんと薄れていき呼吸も聞こえなくなる。
…………悔しいな。 世界中の勇者を消す旅も……できずに人生を終えるの……が悔しくて……たま……らない。
も……だめ…………………………。
ここで意識は途絶え全てが暗黒に包まれた。