その3
傍から見れば幼い子を誘拐している男に映るが、いかんせん嫌な気分になるけど無の心で行こう。
身体強化も使わず坂道を上がったので体力に底が尽いた。
息を切らし呼吸が整うまで休憩することに決めた。
「はあ、はあ、はあ……あー疲れた。 一旦、足を休めるぞ」
「うえ!? ひえ……あの……私まだ心の準備が……」
頬を紅潮させ髪をくしゃくしゃにするティが不思議でならない。
なにを慌てて恥ずかしがっているのか。
まあこれはこれで新鮮で可愛いがどうも様子が変だ。
ティに見えていて俺に見えない物。 後ろを向けば答えが判明した。
「い、いやいや違うからね! 断じてやましいこと昼間っからしようだなんて考えてないから!」
背後にはピンク色の蛍光で照らされるホテルがあったのだ。
異文化が流入した産物。 なんてもの作るのか。
そのせいでティに勘違いされし変態扱いされたら生きていけない。
「で、では夜にはやるのですね」
目をキョロキョロし泳いでいる。
さらに焦る原因を招いてしまった。
ああ、言葉選びを間違えてたよ。
昼間というフレーズが余計だったのだ。
夜にはやると解釈されてもしょうがない。
弁明しなければ関係が悪化することになる。
「待ってそれも違うから! ティとはそんな気にならないし、必要性も感じないからどうか誤解を解いてください」
「……そうなんですね。 ではギルドに戻りましょうか」
あれほど焦っていたのに氷点下のごとく冷気を感じる。
冷たい視点……ああまた言葉選びを誤ってしまったのか。
どこがティの機嫌を損ねる発言だったのか……口に出せば出すほど空気が悪くなるな。
「置いていきますよ」
「ストップ。 ギルドには行かせない。 向かわせたら危険な気がする」
「なぜですか?」
「言動がさっきからおかしからだ。 ティはあんな暴言を人前で吐かないし口調は柔らかったはずだ。 脳に異常がある今、安全のためにこの手を離せない」
真剣な眼差しでティに訴えかける。
「ええとですね…………私は正常です。 すみません嬉さのあまり舞い上がってました」
「はぁ?」
「若気の至りでしょうかついつい棘がある発言したくなったのです。 要するに照れ隠しです、はい」
治ることは一生ないと言われた後遺症が完治すれば喜ぶのは当然だ。
前は涙を流し感激していた。
今回は照れ隠しで言動がおかしな方向になったようだ。
過剰に心配して損した気分だが異常がなくて安堵した。
「原因が解明されたしギ――」
ギルドに帰ろうと喋ろうとした瞬間、ある三人組を目視し憎悪に染まる。
勇者だ。 それも新参でもない。 転生したばかりでもない。
明らかに長年住み着いている装備の充実さ。
ラルクと戦った際に着ていた武具より良質だ。
上位に位置するであろう勇者がなにようにここへ来た?
どうも向かってる先は王城のようだし追跡をする。
「追って確かめるぞ」
「ええ、追いましょう」
尾行されているのが悟られぬよう気配を殺し距離を一定に保つ。
旅の途中で立ち寄った感じではない。
モダル・ヘルクに用があって来客した風に思える。
なにごともなければ良いが不穏でしょうがない。
「ここで待機だ、ティ」
「了解しました」
追跡すれば三人の勇者は王城の中へと入り姿を消した。
城まで足を踏み入れれば関係者だとばれてしまい、存在も知られてしまう。
現時点で悟られてはいけない。
もしも国にあだなす者ならば軍事力を知られない方がいいからだ。
勇者の数は直結してその国の強さに比例する。
戦力がないと知れば実力行使してくるだろう。
国が安定していない今、戦争を起こさせるわけにはいかない。
「出てきたな。 ティこっちに隠れろ」
「はい」
外壁と木々に囲まれた空間に身を潜め三人組の勇者が通り過ぎるまで待つ。
気づく様子もなく王城から去っていった。
なにしに訪問したのか知るため王城へと参る。
門番に近寄り開けてくれようお願いする。
身内のこともありすぐさま門を開いてくれた。
王城に入ったのちは手持ちの魔法石を使用し、三階へと続く階段を出現させる。
二段飛ばしで駆け上がりあっという間に王室の間に到着。
そこには頭を抱えるサーレと壁に背持たれるラルクが暗い空気を醸し出していた。
「なにがあった二人とも?」
「終わりだ……なにもかも……」
うわの空でまともに話をしてくれない。
明らかに三人組が原因とわかる。
「……心して聞いてほしい」
震えた声で告げてくる。
「――宣戦布告された。 大国聖都ヴァルファルニアに。 ……勇者三十九名、英雄十名、そして大英雄一名で全力で侵略すると」
平和を掴み取ったのも束の間、平穏は二日しか続かなかった。




