その17
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円形状に囲まれた石垣に足場は砂。
通称コロシアムと呼ばれ、奴隷や罪人を決闘させ観戦するのが醍醐味だった闘技場。
数十年前までは使用されたはいたが、現在は観光スポットの名所となっている。
だが今はコロシアムの惨劇が始まろうとしていた。
四勇の一人と俺ことサクライの殺し合いがだ。
この決闘は国をかけた試合でもある。
三人の勇者という後ろ盾を失った王国はあっけなく制圧され、人を死ぬまで生かして魔力を強制奪取する魔道具が知られ弱みを握られてしまった。
非人道な魔道具の存在を国民に知られたら暴動がおき、王国は一気に崩壊するだろう。
そこで提案として一対一で勝負し勝てれば公表しない、負ければ全て開示すると。
王国は受諾し望みを一人に賭けた。
国の命運は目の前にいる茶髪の勇者に託したのだ。
「勝敗の有無はどちらかが死んだ場合あるいは、負けを宣言した場合のみ。 異論はないな?」
「ない。 てめえを倒し英雄となる」
自信たっぷりなのは結構だ。 どこからそんな自信が沸いてくるのやらと奴を一瞥すると理解した。
見慣れない指輪に首飾りアクセサリー。 ガントレットにレギンスと最後に出会った時とは違う。
威圧感を覚える装備……一級品だ。 国宝でも持ち出したか。
「英雄なれるといいな。 どこからでもかかってこい。 ――身体強化」
「見下しやがって。 後悔するなよ。 ――《フレムベルハウンド》!」
火ぶたが切られた。 ギアは当然、一に設定。
火炎の化身の突進を跳躍しやり過ごす。
内心驚いていた。 三人の勇者でやっと発動を可能とさせる大技を詠唱せずに放ってきたのを。
さすが国宝級の装備だ。
「あだ名すものを裁きを、――《ジャッジメント》!」
空中で回避不能は聖属性の魔法が貫いた。
圧縮された光線を身に受けたがダメージはなし。
反動を計算すると《フレムベルハウンド》と同等の威力。
その程度では傷はつかない。
「直撃してかすり傷もないか。 なら、これはどうだ!」
鞘から剣を引っこ抜けば七色に輝いていた。
何者をも掻き消す閃光の刃ってイメージだ。
「自慢の防御力で耐えれるのなら耐えてみろ」
銅なぎに振るわれる剣線。
避けずに受けようと思った瞬間、ぞくっと冷気が身体に駆け巡った。
脳が受けてはならないと指令を出してきたからだ。
バックステップしたが剣先が腹をかすめ血が噴き出る。
腹を押さえやつを見据える。
「有効なダメージが入ったな。 この刃なら頑丈な身体でも斬り裂けることがわかったぞ」
「…………」
身体強化中で自分から避けるのを選択したのは初だ。
ギア一で防御を貫く矛がなかったばかりに油断していた。
装備の性能によっては使用者が弱くてもギア一を上回ることができる……か。
いい教訓になったよ。
「そらそら死に物狂いで逃げ回れ!」
傷をつけたことに喜び無謀に攻めてきた。
大振りでぶんすか斬りつけてくるが当たらない。
フェイントせず力一杯に叩き斬るしか頭にないようだ。
力任せだが剣速はすざましい鋭い。
けどそのぶん軌道が単純で読みやすい。
そんな軽い剣がヒットするわけがない。
なにより身体強化中の俺ならばかわすことは朝飯前だ。
あまりにも眠い斬撃にちょっかいを出す。
三割ぐらいのパワーで顔面を殴りつけた。
ドゴォっと音が鳴り、砂地をバウンドし石柱に激突。
衝撃で石が崩れ瓦礫の下敷きになっていた。
「……の……やろう! まだ終わってねえぞ!」
一トンもあろう瓦礫を弾き飛ばし構えていた。
鼻は殴った際に潰れ大出血している模様。
ギア一の三割とはいえタフな身体だと称賛する。
死んでしまった三人に比べれれば頑丈で強固だ。
だが相手が非常に悪い。
ギブアップしてくれた殺さずに済むが、諦めてくれ気配はなさそうだ。
「はあああああっ!」
凝りもせず襲いかかってくる。
学習せずただ振り回すだけの子供のお遊び。
そんなやつにボディブローを浴びせる。
痛みを耐えて反撃するが空回り。
反撃の隙ができた時間に腕に足と全身くまなく打撃を与える。
激痛にもがきながらも必死に刃を差し向けてくるが、当たらず何度も何度もボディに拳をねじ込む。
隙だらけで単調な動きに飽きてきた。
もうそろそろ引導を渡してやるか。
「お、れは……負けられ……ないんだ! ここで倒れたら……皆が死ぬ。 絶対に、敗北は、許されない」
殴打を止めて下がる。
口から血を吐き膝ががくがくと震え今にもくたばりそうだ。
まだギブアップしないのか。
「まけれないんだあああああああああ!」
勇士を奮い立たせ天に向かって剣を掲げると変化が訪れる。
抱擁するように神秘のベールを纏っていたからだ。
なんだあれは?




