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英勇者の天敵  作者: バル33
第三章:欺瞞の王国
39/55

その15


                            ◆



 交差する剣と剣。 高速で動く銀と緑の鎧を身に付けた勇者二人。

 皮肉なことに両者とも得意とするのは聖属性の魔法。

 弱点も変わらず、属性の強さもほぼ同じ。

 勝敗を決めるのは魔力の量、戦闘のセンス、武具の良さだろう。

 剣戟を繰り返せば如実に表れていた。

 装甲は徐々に砕け、切り傷を負い、魔力も枯渇していくアイアンアーマーの勇者サーレの姿がここに。


 魔力も劣っていて戦闘センスは普通。 防具に武器も一段階下だ。

 勝機の見込みは(はた)から見てもわかるようゼロだ。

 身体は満身創痍。 相手の勇者はまだまだ余力を残している。

 勝てる道理もないのに剣を振り続ける姿は痛ましかった。

 転んでも傷ついても立ち上がり、身体に鞭を打って奮い立たせる。


 負けるとわかっていても挑まなくちゃいけない。

 理念を分かち合い、初めて友と言える者を失うのは嫌だと。

 呪いにも近い感情を抱きながら攻めるも終焉を迎える。


「ぶっ……はが……あぁ…………」


 一太刀をもろに浴びてしまう地面をバウンス。

 血反吐をし立ち上がる体力も気力も失い、ガス欠してしまった。

 うつろな目で少女二人を見つめて「非力ですまない」と蚊のような声で発し、気絶してしまった。

 対等に戦える守りては瀕死の状態。

 子を守るようティは魔女の子を後ろに隠れるよう手を引っ張る。


 ニンマリと笑みを溢し、狂気に満ちた瞳で茶髪の勇者は一歩ずつ着実に距離を詰めてくる。

 肩に血で染まった剣を担ぎ舌を這わせて近づくが、背後から嫌な気配を感じ取り歩みを止めて後ろを振り返る。

 三人がやられ黒髪が来たのかと思考を巡らせたが、まったく関係のない人物が居た。

 小柄で細身の綺麗な長髪を夜風でなびかせる少女。

 場違いだ。 どこから忍び込んだのだろうと考えたのも束の間、死に体のサーレに回復魔法をかけているでではないか。

 剣先を向けて何者か問う。


「貴様……なにをしている?」

「見てわかるでしょ。 傷ついた身体を治しているの」

「そういう意味で問いてるのではない! 何者でどこから侵入し、なんの目的でここにいるのかと聞いている」

「うっへえ。 質問攻めうざいねぇ」


 クスクスと嘲り笑い答えるつもりはない。

 相手が勇者であろうと怯える仕草を一つも見せない小さき者。


「仕方ないな。 不穏分子は排除する」


 何者であろうと疑わしき者は殲滅するといわんばかりに詠唱を開始した。

 聖なる浄化の矢が小柄の少女に襲うが、ひらりと回避し勇者を気に止めずティに接近する。


「やほー。 サクライ君はどこにいるのかな?」

「やほー……じゃありませんよ、キュレイピア。 今までどこほっつき歩いていたんですか」

「王国全体を調べてたんだよね。 ま、成果は好ましくなかったけど」

「嘘ではないようですね。 それよりあの勇者カンカンに怒ってますよ」


 振り返れば青筋をたてて頬をヒクつかせていた。

 質問を無視したあげくに背を向けて会話とは舐められたものだと。

 可愛かろうが少女だろうがぶった斬ると殺気で伝えてくる。

 「ああ、めんどうくさいなぁ」とだるそうに呟くキュレイピアに、猛突進して斬りかかった。


「おわぁ! 危ないじゃん! なにするのさ!」

「さっさとくたばれ」

「ストレス耐性なさすぎでしょ」

「うるせえよビッチが」

「ねえねえ戦うのやめない? お互いに無益でいいことないよ」

「黙れよピエロが」


 剣筋見極め紙一重でかわし説得をするも耳を傾けない。

 突き、銅、兜割(かぶとわり)と小手先を使用しつつも詠唱も加えてキュレイピアに仕掛けるが、流水のように滑らかにかわされる。


「すばしっこいやつだ。 ネズミ野郎が」

幼気(いたいけ)な少女に斬りかかるわ魔法ぶっぱしてくるわ、ひどくない?」

「チビが戯言を。 幼気な少女がそんなに動けるかよ。 避けずに大人しく斬られろ」

「ふぅ、そっかそっか……君のお望み通り避けないであげる」

「観念したか。 痛みなく首を跳ねてやるよ」

「正当防衛ってことで反撃させてもらうからね」


 迷いのないフルスイングが狙うのは首。

 当たれば死は免れない斬撃。

 にもかかわらず、やれやれと頭を左右に振り呆れてるキュレイピア。

 防壁もなく避ける動作もしない。

 決まったと茶髪の勇者はニヤつき快感を得ていた。

 もう避ける手立てはないと、防御するのも遅すぎる。

 確実に仕留めたと。


「――《ホーリチェーン》《アクアウォール》《シャドウハンド》《グラビティバインド》《ブラッドゾーン》」


 なにもない空間から重ねて魔法が飛び出し茶髪の勇者を身を封じた。

 光の鎖で縛られ、水の壁で圧迫され、闇の手で絡まれ、重力で押し潰され、血の池で足が沈む。

 腕一本たりとも動かない強力な拘束。 力づくで解除しようと試みるがほどけない。


「くっぐ……お前どうやって魔法を発動させた? 魔道具を通さずここまで強力な魔法を……」

「魔道具? あはは、雑魚が補助のために扱う道具を使うわけないじゃん」

「バカを言え。 詠唱もせずに魔法を放てるものか!」

「君の言葉は正しいよ。 詠唱もせずに魔法は行使できない。 だけど我の固有(ユニーク)スキル『不可視の透明(インビジブル)』。 あらゆる魔法は発動するまで知覚検知もできない。 ゆえに解読もできず悟られない」

「……化け物が」

「さあ君をどう料理しよっか?」


 邪悪な顔面で微笑み問いかける。

 茶髪の勇者は背筋がゾッとし狼狽した。

 これからされるであろう拷問が頭に浮かんでしまったからだ。

  

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