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英勇者の天敵  作者: バル33
第三章:欺瞞の王国

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その14


「俺、一度試してみたいことがあってだな。 ……人の頭蓋を握りつぶす感覚はどんなものかを」

「むごっ!」


 未来の自分を想像してしまったのか胸に刺突を繰り返してくるが無駄だ。

 諦めて剣を投げ捨てては二の腕を殴ってくるが(かゆ)いだけ。

 今のお前らの実力では気泡とかすだけだ。


「お願いだから最愛のルナを殺さないでくれ! 金も名誉もなんでもやるから手を放してくれ!」

「……そうやって命乞いをする人に耳を傾けたことがあるのか貴様ら? 無抵抗な相手に残虐を繰り返していただけじゃないのか?」

「そ、そんなことはない。 俺たちは絶対悪を裁いてこの国の秩序を守ってきた。 悪を絶たねばさらに不幸な人が増える……だから命を刈り取るのも致し方ないことだ!」

「ふーん。 なにをもって正しいのか、悪いのかを判断している?」

「王の情報だ。 間違いは一度たりともなかった」

「……救いようがないな、哀れだ」


 活動を始める。 五指に徐々に力を加えていき頭を潰しにかかる。

 激痛のあまり女勇者は雄たけびをあげた。


「痛い痛い痛いいだだだいっっ! わわ割れちゃう割れちゃう! このままじゃ死んじゃう――フレイ助けてよおっ!」


 パキメキといった骨が砕ける音が指に伝わってくる。

 あと数ミリ指を押し込めば中身が出るだろう。


「やめろやめろやめろやめろやめろーっ! 薄汚い手を放せよ! おい、聞こえねえのかをポンコツがあっ! いい加減いうことけよおっ、グズ野郎があ!」


 中傷誹謗を浴びせられてだけで手を止めるわけもなく、着実と頭蓋を割っていく。

 手加減なく刀身を顔面に打ち込んでくるが学習能力がないやつだ。

 悪あがきしても女勇者の結末は変わらないのだから。


「ルナ! ルナっ!」

「た、たすけっ――」


 最後の力を振り絞り腕を伸ばし鶏君に触れようとしたが、一歩遅かった。

 すでに頭蓋を握り潰してしまったからだ。

 手の全体に残るのは生暖かい感覚と気味が悪い感触のみ。

 今後は頭を潰す行為は控えよう。


「うがあああああああっー! あああああああああああ! ルナナナナナナナナナナナナあああっっっ!」


 目の前で恋人が殺められ悲鳴を出す。

 喉が壊れてもおかしくない絶叫を終始繰り返す。

 似た光景を重ねてしまうが心は痛むことはない。

 大事な人を失ってようやく気付く馬鹿どもだ。

 同情するわけがない。 今さら感傷に浸るわけがないのだから。


「よくも……よくもっ!」

「自分がやられたら激昂し憎悪する。 人としては当たり前な感情なんだけど……どうだ? 少しは堪えたか?」

「ぶっ殺してやる!」


 聞く耳持たずか。

 なにをやっても無意味なのに果敢に挑んでくる。

 敢えて身で受けずに攻撃を避けて鶏君に言いたいこと告げる。


「苦しみもなく悩み事もなく、やりたいことを出来て最高の生活を送れて不満もなかっただろう。 だがそれは自己欺瞞(じこぎまん)だ。 なにをやっても許され肯定され、さぞいいスローライフを満喫してきただろう。 だがそれも自己欺瞞(じこぎまん)だ」

「死ね死ね死ね死ねしねえええ!」

「真実から目を背け、自分の都合のいいことばかり想像する。 時には必要なスキルでもあるが……他人に不幸をまき散らなかったらの話だ。 お前ら……いや、大多数の勇者は世界に対しやり過ぎた」

「くたばれ外道があっ!」


 もはや声は届いていない。

 殺す二文字以外見えていないのだろう。

 そろそろ幕引きだな。


「終わりにしようか」

「――なっ!」


 人差し指と中指で刃を受け止め離さないようにする。

 剣を引っこ抜こうと柄に力を精一杯込めるが微動だにしない。


「転生してからは悠々自適に暮らして十分満足しただろう? 痛みもなくあの世に送ってやるよ」


 剣を力づくで奪い取り柄を握りしめる。

 取られて呆けている鶏君の首一線を引く。

 ザンッと斬り伏せ首から上が吹き飛び、同時に刀身も宙に舞った。

 電池が切れたように崩れ落ち、真っ赤な液体を無造作に散布させる。

 一振りで跳ねれる切れ味に驚いたが、まだ一人生き残っている勇者がいる。

 悲惨な現場を目の当たりにしたからか、腰が引けて立てないようだ。


「遺言を残すことはあるか? なければ楽に天国(いかして)やるよ」


 刃が折れた剣を捨てて怯える勇者に接近する。

 こいつの名前ってなんだっけと考えるが、もう顔を合わせることはないので思考を停止させた。


「に、逃がしてくれ……誰にも目につかない山奥で暮らすからさ……」

「んーと、棄却します。 お前には”死“以外の選択肢しかないからな。 罪は償なわず逃亡は許されん」

「罪は犯していない! 法に触れることなんて一度もない」

「そりゃこの世界の法には触れてないだろうな。 誰も咎めない、咎められるはずがない。 ……だけどな俺はお前を認めない。 俺も言えた立場じゃないけど、少なくともお前より正しい知識は持っている」


 遺言はなしと判断し処刑を開始する。 

 右足を頭上近くまで持ち上げて振り下ろす。

 かかと落としが炸裂し潰れたトマトの出来上がりだ。

 びくびくと頭部がない身体は痙攣していて「頭がなくても動くんだ」と声を漏らした。

 四勇のうち三人を殺したが一人は生きている。

 ティと魔女の子が殺される前に全速力で向かう。


 無事に生き残っててくれよ。


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