その13
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不覚だった。 まさか勇者が煙幕という小細工を使うとは想定外。
四勇の一人、茶髪のラルクいう青年をティに追わせてしまったことに狼狽している。
チクショウ……拘束から解き放たれたサーレに託すしかない。
「ラルクならばを軽く屠るだろう。 君の仲間はもう助からない。 抵抗しなければ楽にあの世に送ってあげるぜ?」
「冗談言うな雑魚どもが。 お前らに勝機は一粒もない」
「威勢のいいこと……ちゃっちゃとかたずけるわよ!」
真ん中にそびえ立つ女勇者の足元に幾何学模様が浮かび上がっている。
魔法陣? あんな魔法初見だ。
この際だからじっくり分析させてもらおう。
「お、おい。 詠唱を見せるとなんの魔法かバレちゃうよ!」
「魔道具に通せば威力が愕然と下がりますわ。 勇者を盾を破壊するなら必要な行為ですわよ。 ――疾風の槍 《ウィンドスピア》!」
叫んだと同時に額に強烈な弾丸が脳を揺らした。
濃密な魔力の塊が撃ち込まれたのは当たってから初めて認知した。
風の槍で額を穿いた衝撃で地に背をつける。
……詠唱。 あれが詠唱か。
話には聞いていたが呪文を唱えることはないのは驚愕。
足元に魔法陣を展開し時間をかければ発動するものだったとはね。
イメージと違って避けそこねた。
「脳天必中! さ、一発で仕留めちゃったしラルクと合流しようよ」
「あっけなかったな。 犯罪者の一味を仕留めて酒でも…………待て」
「マジかよ」
衣服に付着した土を払い立ち上がる。
額をさすり損傷具合を調べるがダメージはなし。
乾いたタオルをはたかれた感じで痛みはない。
「なにを驚いている? たかが魔法一発で仕留めれるわけないだろ」
「風の加護を受けてるようですわね。 二人とも風魔法以外で攻めますわよ」
「「了解」」
またまた詠唱を開始し集中攻撃を仕掛けようとする。
加護の恩恵は授かってないのだが、あの程度の魔法であれば盾を破るにはいたらないか。
ギア一はどのくらいまで魔法を耐えうるのか研究だな。
回避せずに全弾受けてみよう。
「――《サンダーソード》!」
「――《ファイアーブレイド》!」
「――《アクアスラッシュ》!」
一斉に三種の魔法が解き放たれ鈍重な音が空気を震わせた。
美しい草原は荒れ果て人影も残らないだろう。
――通常ならば。
どれもこれもウィンドスピアを超える素晴らしい威力ではあったが無傷だ。
まだまだ攻撃力が足らない。 痛みを感じるまで到達していない。
勇者というのはここまで弱いものなのかと疑問を抱くレベルだ、
「……それが全力か?」
正直失望した。
少しは肩を並べると思っていたが、赤子に毛が生えた程度。
……キュレイピアの計算に狂いはなかったようだ。
十分捻りつぶせるほど落差は激しい。
「まだだ! ルナ、ゼル、俺に力を分けてくれ!」
どこかで聞いたフレーズだけど、先ほどの数倍はありそうな詠唱をしだす。
肩手を置いて魔力を注ぎ込み、詠唱の制御のサポートもしてるようだ。
さてさて、鶏リーダーの最大攻撃はいかがなものか。
「――《フレムベルハウンド》!」
紅の燐光をまき散らしながら顕現した五メートル級の犬。
足場を燃やし尽くしながら突進してきた。
前足でぎっちりと固定され、口から灼熱の火炎を吐かれる。
ブレスはが終わればその身を捧げて業火で一体を対象に焼きつくす。
大地を焦土と化す一撃……見事であった。
勇者といえどもろに喰らえば重傷はさけれない。
余程、武具の性能がよくなくては無事では済まない殺傷能力のある魔法。
だが悲しい。 俺には効かなかった。
もうネタ切れぽいな。
……始末するか。
「さすがに消し炭だ…………はえ!?」
「なかなか良い魔法だったぞ」
「あ、あり得ないあり得ないあり得ないあり得ない! 何種も加護を持てるわけがない!」
「そもそも加護なんて持ってねえよ。 単純に火力不足だ」
三人とも産まれたての小鹿のように震えていた。
恐怖のあまりから身体の自由が効かない様子。
まずは誰から殺ろうか。
……そうだな……最初に風魔法をぶっ放した女勇者に決めた。
「こ、こ、こ、来ないで!」
技も駆け引きもない大振りの縦斬りを半身を逸らして回避し、顔面を鷲掴みした。
じたばたと暴れるが解けるはずもない。
「や、やめっろ! ルナから手を放せクズ野郎!」
怯えて萎縮していたはずの鶏君が腕を落とそうと斬りはらうが、刃は両断することなく弾かれる。
幾度となく剣を振り回し急所を練れって来るが無に帰す。
魔法で傷がつけれない時点で、剣で怪我をするわけない。