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英勇者の天敵  作者: バル33
第三章:欺瞞の王国
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その12


「よっと」


 緑の絨毯を一蹴りしガーデニングエリアを見下ろす。

 敵兵が隠れていないか確認するためだ。

 が、驚くことに一人も残存していなかった。


「あわわわわ! ははは吐きそうです!」


 さながらジェットコースターを体験しているマルダさんの子は、取り乱し今にも嘔吐しそうになっていた。

 急降下しだすと「いぎゃあああ!」と悲鳴を上げるせいで耳朶に響く。

 衝撃を地面に吸わせ、また天に目がけて跳躍する。 幾度かジャンプしていると格納庫にたどり着いた。

 施錠された鉄製のドアを前蹴りで吹き飛ばし中へと侵入。

 辺りを見渡すがサーレの武具は置かれていない。


「……格納庫のはずだが」

「マスター。 あそこに頑丈な鉄格子があります」


 多種多様な武具が飾られ視界が遮られていて気づかなかった。

 ティの指を差す方向に不自然な隙間がある。

 防具立てを投げ捨てるようにどかせば、鉄格子で囲まれた特殊な部屋がでてきた。

 明らかに魔力が込められた鉄格子。 並の剣士では斬れもしないだろう。


「よいしょっと」


 鉄の棒を生身で掴んで左右に力任せでねじ広げた。

 極点の身体強化では紙を破くのと変わらない。


「あった、荷物運びはティに任せるぞ」

「承りました」


 サーレを運んでいた際に使用した布袋を投げ渡し、王国のやつらが来ないか見張る。

 奇襲されては俺以外を守り切る自信はないからだ。

 侵入者に攻撃を仕掛ける者は来ることなく、サーレ愛用の武具は布袋に詰め終えた。

 あとはサーレと合流し四勇と一戦交えるだけだ。

 外へ出ると予想外の人物とエンカウントした。


「城門にいるんじゃなかったのか」


 異様な存在が四人待ち構えていたのだ。

 歓迎パーティーで着ていた装備と違い新調したのか、鈍く光る緑色の鱗を装着する四勇。

 以前とは比べ物にはならない防具の格差を感じた。

 いや、それより四勇がなぜ格納庫周辺に集まってるのか不思議でならない。

 執事は城門に集まるよう指示をだしていたはずだが。


「殺人に窃盗。 王に言われた通りだ。 ……外道め」

「いくら同じ勇者でも許せませんね」

「罪のない人を殺め、金品を奪うために王城に侵入か。 死で償え」

「くくく、勇者同士の殺し合い一度してみたかったんだよなあ」

 

 逃がしてくれる気はないようだ。

 戦う以外選択肢はなしと。 戦うのは別にいい。

 殺し合いはいいが一つ懸念することがある。


「私もお供します」

「ダメだ。 今すぐ離脱しろ」


 ティや魔女の子の身の保証ができないからだ。

 魔法使いの戦闘はやったことないうえに、勇者との殺し合いは初めてだ。

 なにが起きるか不明な以上、気を使いながら戦闘できない。


「で、ですが」

「足手まといだと言っている! お前らを守りながら戦うほど余裕はない。 今すぐサーレと合流し戻ってこい!」

「っ……! ご武運を」


 魔女の子を背にしがみつかせ拘束されたサーレのもとへ駆けだす。

 それでいい。 ティが居ては本領を発揮できないから。


「小娘を逃がすな!」


 一斉に鞘から剣を引き抜きティらに襲おうとするが、地面を殴りつけ砂埃を立たせる。

 静止した四勇が睨みつけるが怯えない。


「俺を無視して通れると思うなよ?」


 無謀にも見える黒髪の少年は口のこうを上げて笑っていた。



                        ◆


 早く早く早く! サーレに合流せねば。

 強力無比な魔法を身に宿しているとはいえ、四人の勇者と対峙するのは愚策だ。

 勝てるはずがない。 あちらも埒外な存在なのだから。


「はぁ……はぁ……ふぅ、くぅ」


 鬼の筋力があっても目的地に着くのには時間がかかる。

 距離も距離だ。 軽く二、三キロは格納庫から離れている。

 死なないでと気持ちがいっぱいで全力疾走するがまだ拘束場が見えない。

 苛立ちを覚える。


「………っ……」


 腕が振れたら多少なりとも、もっと早く走れるのに、荷物がなければもっと早くたどり着けるのにと。


「お姉ちゃん……大丈夫ですか?」


 必死に肩に捕まりながら魔女の子はティに語りかけた。

 言葉を返す余裕もなく、ぜぇぜぇと息を切らしていた。

 ただ一心。 合流すること。


「かは、はあ……つい……た」


 呼吸がままならない状態で拘束場の扉を開けてサーレを捜索する。

 檻には空白しかなく一番奥の空間には人がいた。

 見間違うごうもない金髪の青年、サーレが退屈そうに寝転んでいた。

 駆け寄り鉄格子を叩くと、眉を上げて嬉しそうに近寄ってきた。


「やっと助けに来てくてた。 檻から出してくれ」

「緊急事態です。 マスターが一人で四勇と交えてます。 鍵は持っていませんので、こちらで叩き斬ってください」

「なんだって!」


 檻の隙間からサーレ愛用の聖剣を渡し、受け取った矢先にバターを斬るように鉄格子を破壊した。

 布袋に入った防具を慌てず迅速に装着し、ティと一緒に拘束場から飛び出る。

 向かうは格納庫と駆けだそうとしたその時、人影が地面に映った。

 前方には茶髪の勇者。 サーレとよく喧嘩する馬が合わない勇者。


「ラルク」

「あんたも黒髪のやろうとつるんでいたか。 粛清しなきゃなあ?」


 竜の鱗をベースにした防具に武器もグレートアップしている。

 武具の性能差は天と地の差と理解しているが、サーレは戦闘の準備を始める。


「君を倒しサクライと合流する」

「一度も勝ったことがない落ちこぼれがほざくなよ!」


 月明りがよく照らす大地で剣戟が繰り上げられるのだった。


      

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