その9
「そ、そなたは勇者サーレの味方ではなかったと?」
「は、コイツとはおままごとに付き合っていただけだ。 誰が好きで平和面したやつと仲良しにならなきゃいけない」
「……ほっほっほ。 いいでしょう、仲間に介入させてあげましょう。 勇者が増えた記念にパーティでも開きましょうぞ」
簡単に落ちてくれて助かる。 サーレを生け捕りにしたのが信用に値したのかもしれない。
なにはともあれ城内を自由に移動できるようなった。 地下室とやらの捜索かねて城内の構造を頭に叩き込んでおこう。
「いやー、同じ勇者同士戦闘を交えなくてほんとよかったよ。 王様が警戒しろと言うから緊張したよ」
「そうそう力んで損しちゃったわ」
「同意」
馴れ馴れしく話しかける勇者ども。
全員金髪となにかブームが流行っているのかと推測してしまう。
「自己紹介がまだだったな。 俺はフレイ。 こっちがルナ。 陰キャぽいのがゼルだ。 あそこに一人で呆けている新人がラルクだ。 君の名前は?」
「サクライと呼んでくれ」
「わざわざ日本名で名乗っているのか。 まあいいや、これからよろしくな」
「こちらこそ」
四勇のリーダーであろう人物と握手を交わすが、握っている手をトマトのように潰したくなる。
煮えたぎる熱を堪えているのが今の精神状態だ。
殺したくてたまらないが見極めなくては……なるべくな。
半日ほどでどれだけクソ共の良心があるか調べさせてもらおう。
「歓迎パーティーが始まるまで時間がかかるだろうから、城内を案内するよ。 道に迷っても困るだろ?」
「そうだな。 助かる」
鶏頭のリーダー格の勇者は、ロン毛女性勇者と暗そうな男勇者に手を振り玉座の間を去った。
階段を降りていき、一階に到着すると直進に続く廊下を歩き始める。
等間隔の花瓶が置かれていて、このどこかに隠し通路があるのかと見つめていた。
行き止まりまで着くと二、三メートル級のなガラス窓を開き城外に出る。
視界に映るのは自然が満ちる精緻された庭だった。
庭の中央には噴水があり囲うようにロングチェスとが配置されている。
町の中心エリアと酷似しているように思えた。
伸びきった草木はなく手入れが行き届いているようだ。
これには無表情のティも感嘆を漏らしていた。
「ガーデニングエリアだ。 次は監視室を案内するよ」
もう少し自然を堪能したいが鶏君に付いていく。
突き当りだったガーデニングエリアを右折し、最奥まで進むと銅で固められた扉が出現した。
重たそうな扉をなんなく押し開ける鶏君。 閉まる前に扉を潜り抜ければ漆黒のローブを纏う人が数名いた。
チラッとこちらを一瞥したのち視線を宙に浮く球体を見つめていた。
青い球体には赤い斑点が大量に付いている。 少数だけど黄色の点が混じってるがなんだろうか?
「ここが国全体の人を監視する部屋。 赤が正常で黄色は犯罪者だ。 いち早く情報を仕入れることで被害を最小限に食い止めているのさ」
「へえ、便利な装置。 犯罪者をあぶりだすシステムの構造はどうなってんだ?」
不意に鶏君に問いをかけてみる。
都合よく判別可能なシステムがどのように計算し、導き出しているのか純粋な興味だ。
「さあ。 王様にはそう聞かされているから、詳しくはしらないなあ」
「そうかい」
役に立たねえな。 長年住み着いていると思い込んでの質問だったが無意味か。
本当に夢のような監視システムだといいがな。 どうも胡散臭いから信用はしない方がいいだろう。
「次々、紹介していくぞ新人君」
鶏君の歯を光らせる笑顔にイラっとした。
◆
日は沈み満月が空に顔を出していた。
城内をくまなく歩き覚えきれない数の部屋を教えられ少し頭が痛い。
クールダウンさせるため、二階にあるラウンジで夜風にあたっていた。
隣には当然のごとくティもいる。 今頃、サーレは拷問とか受けていないか心配である。
「あの鶏君といると変に疲れる」
「意見が合いますね。 馴れ馴れしくて、鬱陶しくて、ボディータッチとかしてきますし」
「え、いつセクハラされてたの?」
「サクライが目を離している隙に肩や尻などを触ってきましたよ」
「この上ないクズだな。 言ってくれれば殴り飛ばしのに」
「騒ぎを起こしては作戦が水の泡でしょう。 ご迷惑をかけるわけにはいきません」
「……気づけなくてごめんな、ティ」
慰めるようティの頭を撫でる。 監督不行き届きだ。
仲間が傷ついているのに気づかないとは不甲斐なくて情けない。
「い、いえ……私もその場で言わなかったのが悪いですし」
俯いて震えている。 顔を上げたくないようだ。 それほど心痛めたのだろうか。
ああ、もっと目を配るよう意識しないとな。
「勇者サクライにティ様。 パーティーの準備が完了いたしました」
「後ほど向かいますので王に伝えておいてください」
「かしこまりました」
不愛想なティが執事に返答し、いつものティに顔だ。
戻ってよかったと俺は安堵した。