その6
破格な治療をタダで受けティと一緒に教会の門に入り一休憩。
日の出を見るかぎり午前八時ぐらいだろうか。 まだ眠ってるはずのキュレイピアを叩き起こしにいく。
魔力量が少ない点についての問いだすために、ノックもせず部屋に侵入。
すやすやと気持ちよさそうに眠り、枕を抱きかかえて丸まってる。
「もう朝ですよー」
「……う……ぶ……」
こめかみを圧迫し夢から覚まさせる。
さっさと起きやがれ。
「……あいだだだだだだ! なに、片頭痛!」
「おはよう最高神様。 さっそくだけど質問に答えてもらおうか」
「いだだ……原因は君か、なんの恨みがあってアイアンクローをするのかな?」
上体を起こし腕を組んで偉そうにする。
キュレイピアの問いには無視だ、無視。
「先ほど、魔力検査を受けたのだけど魔力量Dと最低な評価だった。 魔力が少ないと長期戦できないじゃないか。 英勇者を狩らせる気はあるのか、おい?」
「うーんとね、極点の魔法に、無詠唱の魔法君に与えるだけでリソースを割けなかったんだよ。 魔力まで多い設定にすると廃人になるから断念した。 それに計算上は少なめでも支障はないよ、君に勝てる相手はこの世界にいないから」
「だとしてもだ。 万が一、魔力切れを起こしたらどうする気だ。 それこそ世界が滅び、終焉を迎えるぞ」
「魔力が枯渇したら逃げればいい。 時間は有限にしろ焦る必要はないよ。 あと、魔力保有量は増やすことができるから、そこまで真剣にならなくても」
「それを先に言えよ」
アイアンクローをやめ魔力量を増やす方法を聞くのに専念する。
最悪の事態ばかり想像して損した。
「産まれた時から個体の魔力量は絶対に変化することはない。 いわゆる才能と呼ばれる。 ではどうすれば増やせるのか? 答えは存在進化。 最初から定められた運命から抜け出すには種族を変えるしか方法がない……納得した?」
「人間を超えた存在、魔女の話も聞いてたから妙に納得したよ。 でだ、存在進化の仕方は?」
「……個々によって方法は変わるから模索するしかないね」
「早々に不安を取り除きたかったんだけどしょうがないか」
返答のスピードが若干遅く表情が曇ったのが気になるが、魔力量を増やす手段があるという情報を掴めただけで良しとしよう。
存在進化ね。 俺が進化すればなんの種族になるのやら。 悪の親玉にジョブチェンジするのは願い下げだ。
「ロリっ子よ、四六時中寝そべってばっかで暇だろ。 今日は俺に付き合え」
「え、え、え! デートのお誘いですか、ぷふーー」
「もう一度アイアンクローをお見舞いするぞ。 じゃなくて、監視役だろ。 今日は勇者と戦闘するかもしれない……予感がする」
「我の魅力におぼれたわけじゃないのね。 でも、やっと掃除屋として働いてくれるねえ」
「嬉しそうだな」
「もちろん。 迷信せずに特攻しない君に呆れてたからね。 その気になってくれたのが喜ばしいかぎりだよ」
殴りたいこの笑顔。 主観だがキュレイピアの笑顔って無性に腹が立つ。
バカにしているようで見下している感じが神経を逆なでする。
付き合いは短いがキュレイピアの笑顔に耐性をつけたいものだ。
「皆を召集する。 合図があるまで待機してくれ」
「うん、それまで一眠りしておくから起こしに来てね」
枕に頭が付いた瞬間にねびきを出し爆睡。
いや、起きておけよと思いつつも祈りの場所へと移動する。
教会の中心となる祈りの場所には、子供たちが走り回っては泣いてと元気なこと。
見守るようにシスターとサーレが子供たちを監視している。
視界に映るかぎりでは全員そろってそうだ。
息を深く吸い込み大声を出す準備をする。
「注目! 今日はとても大事な要件がある!」
一斉に皆が振り返り喧騒がなくなる。
何事だろうと隣の人と目を合わせ首をかしげる皆。
「四勇が住まう王城に攻め入ることを決めた。 攻め入っている間はサーレも俺も不在だ。 皆を守ることできない。 留守中にピエロのような悪党が襲撃するかもしれない。 王城を攻略するまでの期間は教会を捨てて安全なとこへ避難してほしい。 身勝手なのは重々承知だが腐れきった国を正すために協力してほしい」
自分らしくない言葉を口にして吐き気がしそうだ。
国を正すためなどと綺麗に聞こえる言葉を並べるのは良心にくるなぁ。
皆は真顔でピクリとも動かないし反応がすこぶるほど悪い……避難誘導は失敗か?
「いいよー、助けてもらった恩があるし」「お安い御用よ」「兄ちゃんには感謝してるし」
怪訝な顔つきもせず笑いかけて肯定してくれた。
否定の一つもなく素直に聞き入れた事実に動揺してしまう。
ほんの二週間ほどしか共にしていない関係性なのに、理解不能と脳に駆け巡る。
サーレが発言するならまだしも、他所からやってきた信用性が皆無のやつにだぞ。
わからない……わからない。