その2
勇者と英雄を抹殺するために異世界に送るだと?
なにを言ってるのか理解できない。
「英雄と勇者が異世界の荒廃となんの関連性があるんだーと考えるのも無理もないよ。 ヒーローは清く正しいイメージが根付いてるもんね。 あ、でも君はそういう類は嫌いか」
「俺のことはいいから、早く続きを」
「おほ、食いついた」
憎たらしい笑みを浮かべるが無視だ、無視。
それより、なぜ俺の秘密を知ってるのか。
ほんと何者なんだよ。
「我の世界ではね。 日本で不幸な運命をたどった若者に、定期的に転生または転移をさせてるんだ。 それが、勇者召喚と呼ばれる異世界の魔法。 ま、我が許可しない限り召喚できないようプロテクトしてあんだけどね。 これが崩壊へのカウントダウンでもあったけど……問題は貴様みたいな若者の頭だ!」
自分で首を絞めておいて急にキレ始めたぞ、こやつ。
俺に言われても知らんがな。
「むやみに魔物を殺しまくるせいで生態系が崩壊するわ、土地を守る役目の守護神を狩るわ、気分で国を亡ぼすわ――お前の世界のやつはイカれてるのか! サイコパスなのか! ネジが一本吹っ飛んでいるのか!」
「そいつら本人に言えよ」
「対話できないから、この際に君に怒りをぶつけてるのさ」
とんだ、とばっちりじゃねえか!
無茶苦茶だ。
「はーーーーーーー。 気が済んだ。 んで、好き勝手暴れるクソ共の掃除が、君の出番ってことさ」
「あのさ、掃除なら快楽殺人者を選抜すれば良かっただろう。 動物を殺めたことのない俺を選ぶより、経験者の方がよっぽど働いてくれるはずだが?」
「あーだめだめ。 無意味になんでも殺しちゃうから却下なんだよ。 英雄、勇者をピンポイントに狩ってくれる人物じゃないとだめなんだ」
「それが俺か。 論外だな」
話を聞けば聞くほど、くだらない言葉をペラペラと吐く。
世界のバランスを崩しかねない、狂人に頼めないのは理解した。
だけどな、ただ英雄と勇者が嫌いなだけで選ばれる根拠にはならない。
付け加えれば人間ではなくロリっ子が自ら行けばいい。
「君のような逸材は他に存在しなかった。 輪廻転生をすれば、前世の記憶および魂も通常はリセットされるが、君は違った。 転生してもなお、英雄と勇者が憎くて、恨めしくて、魂に刻まれるほど憎悪を持った希少な個体。 逸材を発見したのはいいけど、老衰でくたばるのが大体八十歳くらい。 事故死する可能性も低かった。 だから待ち切れず……つい君を殺しちゃった」
「なにを言って――」
「君は戻って来たんだよ! 願いが成就されるのさ。 さあ、喜べ!」
「わけがわからんのだけど――」
「ま、口で説明するよりも思い出せたほうが早いか。 あまり魂をいじると壊れちゃうから、一部分だけ再生してあげる」
ニッと笑うロリっ子が手をかざした瞬間に景色が一変し視界が燃ゆる先には――――――地獄が待っていた。
【いやだぁ】【だずげて】【ごろさないで】【この子だけは生かして】【いぎたい】【奪わないで】【じにだくない】
嘆き、悲鳴、悲痛の惨劇が広がっていた。
本来正義の味方であるはずの者から命を奪われる光景。
目の前で住処に火を打たれ燃え上がり、皆が死に絶えている。
呆然と立ち尽くし、無力な俺は見るだけしかできない。
場面が切り替わり、時間が経過したであろう村は炎に海に呑み込まれ、地面は血潮にまみれている。
もがき苦しみこの世を去ったのであろう亡骸が、ゴロゴロと転がっており、あまりにも惨い。
なん……だよ……これ。 現実あったことなのか?
人の肉片がそこら中に飛び散る光景は……吐きそうになる。
『まだ生き残りがいたのか』
声のする方向に視線を向ければ、銀色のプレートを装備した赤髪の男が立っている。
なぜだろう……コイツ、どこかで見覚えがある。 奇抜な髪の色をした奴に会ったことがないはずだが、どうしてか覚えている。
『さらばだ』
ズシャッと、肩から腹まで血に染まった剛剣で斬られた。
鮮血が飛び交い、前のめりに倒れ、斬った相手を見つめる。
痛みはないが、身体は地に吸い込まれピクリとも動かない。
ああ、そうか。 そうだったのか。
前世で俺は、勇者に斬り殺されたのか。
なるほど。 ヒーロー系が嫌いになるのは当然だ。
長年の問題が解決したが、
『許さねえ。 ただ邪魔だったからって…………妹も弟も、母も父も、村の皆を殺したお前を許さない!』
『仕事なんでな。 恨むなよ坊主』
『殺してやる殺してやる殺してやる。 いつか必ず喉元噛みついて殺してやる!』
『ふっ、死人がなにを語るのか』
憎悪は解決しない。 ああ。 恨み、怒りといった感情が流れ込んでくる。
久しく忘れていた感情に脳が沸騰する。
心地よくさえ感じるよ。
『……英勇者はいつか皆殺してやる。 い……つ、か』
前世の俺が息を引き取ったと同時に映像が途切れる。
「どうだい? さっぱりしただろう」
「ああ、おかげさまで。 感謝するよ」
「うん、それはなにより。 記憶のほうは戻ったかい?」
「いや、俺が死んだ部分のみだが……憎悪は戻った」
桜井翔太として生きた地球に未練はなくなった。
英勇者が世界を破滅させるのであれば排除しよう。
それが俺の責務だ。




