その5
「他に質問はあるかい?」
「生態のみ聞きたかっただけなのので、質問は以上です」
「ありゃもったいない。 魔女に答えてもらう機会は貴重なのにねえ」
寿命が尽きることがないマルダさんは歴史の生き証人でもある。
醜い清算も目に焼き付けてきたであろう。 文献でしか残されていない歴史も記憶しているのは想像がつく。
昔の人々はどのように生活して、魔物の生態系を解き明かすチャンスではあるが興味がない。
俺の目的とはなんら関係がないのだから昔の知識を得ても意味がないのだ。
「答えたわびといっちゃなんだけど、サクライ君の身体を調べさせてくれない? 勇者の身体ってのは未知の構成で作られているから解析したくてたまらないのさ」
「いい、いいですよ」
実った二つのたわわを押し寄せられついOKを出してしまった。
うう、女性への耐性がなくて嫌気をさす。 あのロリっ子は子供として認識してるので問題ないけど。
「ふふ、これで二人目の解析。 どんな結果が出るか楽しみだわ」
最初の犠牲者はおそらくサーレだと断定。 マルダさんを紹介したのはやつだ。
サーレを除く勇者が交流関係にあるとは考えにくい。 自然と答えが出る。
ふう、これからマルダさんに肉体に神経回路に魔力を隅々まで調べ上げられるが、解体とかされないよねと心配ごとが脳裏に浮かぶ。
ティみたいな解析だと思うけど魔女の話を聞いてから少し恐怖を抱いている。
「さあ、深ーく呼吸をして無心になってみて」
「ぜ、善処します」
すーはーと大きく息を吸いこんでは吐いてを数度繰り返す。
次第に緊張がほぐれ気分が楽になる。
「…………そうそういい感じよ。 そのまま意識を水の中にいるイメージを思い浮かべて」
転移されて溺れた経験を掘り起こす。
酸素がある邪魔ものがいない静かな水の楽園を想像し漂うように。
頭の中に偶像とはいえ、なかなか気持ちいいものだ。
「はい、終わり。 目を開けていいよ」
「もう解析終わりですか? 早かったですね」
「いや……それがね……」
明後日の方向に目を逸らして言いにくそうな仕草をする。
え、なぜに。
「サクライ君正直に言うと、検査の結果は普通の人間。 それも魔力ランクDの下から二番目、素質も才能もゼロ。 ほんとに勇者なのかと疑ったよ」
「んな、バカな!? たしかにちゃんと転生されたはずだけど」
心臓を一突きされ魂を引き抜かれたのち、肉体を再構成され転生されたはずだけど、身体が人間なのは不可思議だ。
勇者は魔女と同様で人の姿をした人ではないもの。 人間の機能や臓器の位置は変わってないが理を逸脱した存在。
あり得ない魔力量の保有や魔法適正が全てOKなのも人間ではないから可能な所業。
帰ったらキュレイピアに問いだたしてやる。 主に魔力保有が少ない点について。
「稀に見る才能ゼロだよ。 勇者だから、私が思いつかない新しい糸口を発見できるかなと期待したのに非常に残念だよ」
「期待に応えられなくてすみません」
「気にしなくていいのいいの。 何度も挑戦し失敗して慣れてるものさ」
がははと下品に大口で笑い背中をバシバシと叩いてくる。
地味に痛いがモヤモヤが吹き飛んで気分が晴れた。
「そろそろティちゃんが退屈してるはずさ。 向かいに行ってあげなさい」
「あ、忘れていた。 質問に答えていただき、あありがとうごございました!」
「いいってことよ。 あっと、行く前にサクライ君に依頼していいかな?」
「はい、かまいませんが」
「王城の地下室に行ってほしいんだ。 達成したあかつきにはティちゃんの片耳を治すと約束
しよう」
「地下室に行くだけでいいのですか?」
「ええ、それだけで私は満足するから」
王城の地下になにがあり、赴くだけでマルダさんにメリットがある依頼。
わからないな。 依頼内容が軽すぎるゆえ思惑が想像つかない。
「厳重な警備があるせいで一般市民及び魔女の私は王城に忍び込めないのさ。 勇者であるサクライ君なら王も歓迎し、易々と入られるだろう。 それとこれが地下へ続く見取り図ね」
「……なんで見取り図を持っているのですか?」
「細かいことは気にしない。 金ボンが信頼して絶賛するサクライ君だからこそ頼んでいるんだよ。 朗報待っているよ」
背中をグイグイと押されて突き放された。
忍び込めないと言いつつ、王城内部の見取り図を持参しているのがおかしいと指摘したいが、ティを迎えに行くのを優先する。
「長話になって遅れた、すまない」
「いえ精神がだいぶ落ち着いてきたころですし、丁度いいです。 拠点に戻りましょう」
「ああ、帰ろうか。 教会にいる寝坊助に要件あるし……お世話になりましたー!」
窓際にいるマルダさんに手を振りキノコハウスを後にした。
ティもお時期をして扉を潜り抜けた。