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英勇者の天敵  作者: バル33
第三章:欺瞞の王国

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27/55

その3


「ティの身体を元通りにしてくれ」

「――っ!」


 小鳥に突かれたような形相でティは凝視する。

 なぜ私を治すのかと不思議な顔つきでだ。


「拒否します。 そんな高価な物は受け取れません」

「いいや、ティにこそ受け取るにふさわしい」

「一生に一度にしか治せる機会がない魔法を、自身ではなく奴隷にあげるのですか。 ありえません。 二度言いますがそんな高価な物は受け取れません」


 断固拒否の意思でまくしたてられた。

 ティの言い分はもっともだ。 主人が奴隷に高価な品を無条件で与えるなどありえない。

 だけど、俺はティのことを奴隷とは認識していない。 仲間として扱っている。

 大火傷を負い、片腕は失い、音を無くした絶望の中で生きてきたティより俺がふさわしいとは思えない。

 言語に支障がある程度だ。 俺には不必要な代物だ。 だからティに捧げる。


「ティの気持ちはわかるよ。 でも、受けるべきはティだ。 俺は治さなくても今後困ることはないから」

「あなたって人は!」 

 

 胸の中枢を平手で叩かれ転倒した。 咄嗟に受け身を取ったおかげ後頭部を打たなくてすんだが、ティの張り手の威力はすざましかった。

 小柄な肉体のどこにそんなパワーがあるのかと考察していると、ティが馬乗りをしてきたではないか。

 胸倉を掴み悲痛な面持ちで睨んでくる。


「あなたはいつも自分より他人を優先するのですか。 あなたはいつも己を犠牲にしてまで他人に尽くすのですか。 もっと自分を大事にしてください。 自分が幸福になってから、他者に幸せを分ければいいではないですか。 奴隷で役にも立たない私より自身を優先させてください!」

「…………」   


 嘆き悲しみの表情をしたティを見て、どこかで知ってる光景だ。

 出会ってから感情を露わにしたティを見るのは初めてのはず……けど知ってる。

 前にも言われた気がする台詞。 一体どこで……?

 記憶を探ってもわからない。 それより返事しなければ。


「おたくら痴話げんかをするのはいいけど、外でやってくれないか? 家具や薬を壊されたらかなわんわ」

「「痴話げんかじゃない(です)!!」」


 夫婦扱いされてたまらず条件反射で返してしまった。

 ティも同様だ。


「息もピッタリと相性がいいんだね。 それはともかくご主人の命令なんだから素直に聞き入れなよ。 奴隷なんでしょ」

「……その手があったか」


 形式上はティは奴隷だ。 主人はサクライになっている。

 主従関係は絶対で覆ることはない。 主人の権利を行使すればティが不服だろうが従わせることが可能だ。

 心地よくはないが手っ取り早く使わせてもらう。 


「命令だ。 治療を受けろ」

「ちっ、設定が仇となりました。 おおせのままに」


 再生屋さんの助言もありふてぶてしくても了承したティだが、舌打ちしたよこの子。

 また設定とか言っちゃうしティの変りっぷりが怖い。

 

「可愛らしい少女を治すのは受けよう。 だけど身体全てを復元はしない。 どこか一部のみだ」

「なら聴覚を戻してやってくれ」

「片方なら受け付けよう。 両方は割に合わない」

「……それでいい」

「契約成立だ」


 営業スマイルでにやりと口角をあげて笑う。

 ただで治して貰うのに両方やれはわがままだ。 無理じえは好まない。

 さっそく治療を開始するのかティを手招きし、近くに来いと指示する。

 直立したままティの頭部に触れて再生屋は目をつぶった。


「…………実に興味深い肉体だね。 半分は鬼で、もう半分は人間のようで異なる人間の肉体。 ぜひ解剖してみたいわ」

「サクライの前で暴露しないでください! 魔女(まじょ)!」

「鬼? 魔女?」


 二本の角が生えた人喰いのイメージがある鬼。 忌み嫌われ人々に恐れられるイメージがある魔女。

 この二人がそうだと? 魔女は外見のまんまだが、ティは鬼らしい要素がない。

 三百六十度見渡しても普通の女の子しか感想はでないぞ。


「おや? てっきり黒髪勇者は知ってて人間の天敵を連れているのかと思っていたよ。 そりゃ知られたくないよねえ。 |()()()()()()()()()()()()()、くひひ」

「あなただって人間の天敵でしょうに。 ()()()()()()()()()()()()


 悦に浸りニヤニヤが止まらない魔女にティは辛辣に返す。

 鬼と魔女。 人ではない人の形をした怪物。

 身内に人間の敵がいるとは予想外だ。


「失望しましたかサクライ?」


 哀しげにそう告げてきた。 

 人間じゃないから嫌われるとでも思っているのか。


「鬼だろうがなんだろうが失望するもんか。 ティはティだろ。 それで嫌う理由にはならない。 むしろ興味が沸いて、鬼について聞いてみたい探求心があるね」 

 

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