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英勇者の天敵  作者: バル33
第二章:守護竜の役目

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その14


 言葉を受け取ったシスターは子供たちに急いで外に出るよう促した。

 ハテナマークを浮かべるも教会から早々に立ち退いた。

 残ったのは男二人と女二人と、おまけの沈んでいるピエロ複数。

 部外者がいなくなったところでサーレは手離した武器をピエロに近づいていく。

 

「なにをする気だ?」

「そりゃ……後始末さ」

『おぶっ!』


 全体重を剣に乗せて身動きが取れないピエロに心臓を一突きした。

 迷いもなく殺したサーレに驚きを隠せない。

 温厚そうで教会の人たちからは信頼を得ていた人物が意図も簡単に刺した。

 「命だけは」「手出しはもうしないから」「助けてくれ」と懇願するピエロの言葉も耳を傾けず、次々と死体に変えていく。


「平気でやるとは驚嘆したよ」

「ああ、ある程度は慣れたものだよ。 いろんなものを見て、経験して、殺しには抵抗がなくなったきた。 けどやっぱり人を刺すってのは怖いものだよ。 いまだに手が震える」

「……でもよ。 口封じする必要があったのか?」

「ある。 ここで見逃したら子供たちやシスターが危険に晒される」


 最後の一人を止めを刺し、血で染まった剣をそのまま鞘に戻した。

 ぶるぶると手は震えて怯えているようにも見える。

 普通の感性がある者が殺しを行えば当然こうなる。 どんなに慣れようが恐怖は拭えない。

 サーレの揺れが収まったところで背を壁にもたれながら口を開いた。

 

「殺したのはなぜか……賊を逃がした仮定で語るよ。 ピエロが山賊だった場合、住処に逃げたのち大勢の仲間を率いて虐殺しにくるだろう。 ピエロが王国または貴族の手先だった場合、情報を持ち帰り暗殺部隊なり兵士を招集して【市民を虐殺された極悪非道のスラム街の住人】とでも嘘八百(うそはっぴゃく)を吐けばギルドメンバーも騙せるだろう。 最悪、勇者が出動するかもしれない。 そんな不確定要素が満載で生かして返すわけにはいかない。 殺した理由はこれだ。 納得したかい、サクライ?」


 マシンガントーク並の早口でわけを話してくれた。

 身元不明なやつを生かして返せば、火種は大きくなる可能性はある。

 ならば発火する前に元を壊せばいい。 俺がサーレの立場なら同じく抹殺していただろう。

 危険因子は摘んでおくのがベストだ。


「やっぱり似たもの同士だ。 火の粉は払う気持ちよくわかるよ」

「否定されたらどうしようかとドキドキしたよ。 理解してくれてなにより」

「共感しない点あったか?」

「勇者と英雄以外の人を殺したら軽蔑するかなっと思ってね」

「復讐するのは第一の目的でもあるけど、救える道があるのなら非道なことでもすべきだと考えているからな。 目の前で死んでいくのを眺めるだけなのはごめんだ」

「前世のサクライは…………似たもの同士……そうだね。 私も、無力のまま棒立ちするのはごめんだね」


 哀愁(あいしゅう)に満ちた目は過去につらい経験をしたのだろうな。

 反撃もできずに蹂躙され、喰いつくされるのを傍観するしかない悔しさを持っていると頭が教えてくれる。

 

「もう二度と失いたくない気持ちから手を汚してきた。 サクライに肯定された今、私のやり方は間違ってなかったんだね」

「俺が認めなくても、お前の周りの人は蔑んだり離れたりしないと思うぞ。 自分より他人を優先するような人は特にな」

「だといいけどね」


 鈍感なやつだ。 殺害現場を見れば怖がり恐れおののくだろう。

 だが、真実を知れば印象は一変する。

 教会という小さな楽園を守るため血の雨を降らす姿なら逃げはしないはずだ。

 力があるのに汚れ仕事をわざわざ引き受け手まで教会に固執する必要ないと、子供たちは気づくと思うがな。

 そこまで思考が回るのかわからんが、単純に好かれているので離れることはないかと。


「あ! 竜の卵は無事かい!?」


 ピエロとの対峙ですっかり竜の卵を忘れていて大声で叫んだ。

 が、心配は無用。 ティが肌身離さず抱えていた。


「なにかしらの拍子で落としてたんじゃないかと早とちりしたよ」

「あの……腕が限界なので落としそうですが」

「落とさないでくれ! 代わりに持つから」


 ヘッドスライディングをするかのようにティ方面に走っていく。 

 異様にテンパってる姿はなぜだか面白い。

 卵が割れたら王国が滅ぶのに笑いが出てくるのは精神が異常だと自己分析している。


「私以外触れれない場所に保管するから、君たちは遺体を外に運んでくれ」

「嫌な雑用を任されたな……」


 奥の部屋に消え去り転がっている死体を運ぶことに。

 キュレイピアはどうでもいいが、ティに運ばせるのは忍びない。

 身体強化を使いさっさと運搬することにした。

 教会の扉を開けて放り投げる準備をする。 身体強化を施し、服の襟を掴んで軽ーく手首を曲げると丁度いい位置まで飛んでいく。

 莫大な力のコントロールが制御できるようになってきたようだ。

 同等の力加減で外に遺体を投げていくと、あっという間に仕事が片付いた。


「しまった……血がそこら中に飛び散ってる」    

  

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