その13
麓まで下りると魔物は襲ってこなくなっていた。
ちょくちょく魔物が不意打ちを仕掛けてくるが、サーレの魔法剣により敵は瞬時に蒸発して楽な山下りだった。
スラム街に到着しひとまず安全。
教会の門まで赴き扉の門を叩きシスターが来るのを待つ。
「妙だな……誰も出ない?」
ぼそっと呟き、異変に気付いたのはサーレだ。 十秒ほど時間が経過したがなにか手を離せないで出向くのに遅れているとしか思えなかったけど、おかしな点でもあったか?
「鍵がかかっていない? まさか!」
勢いよくドアを開き教会に入ると、ピエロマスクを被った集団がシスターや子供たちを人質に取っている姿だった。
人質にナイフを突き立て『動けば刺す』と無言で伝えてくる。
急停止しピエロ軍団に刃物を向けるが……
「勇者サーレよ。 武器を床に落としなさい。 これは命令です、さもなくは――」
「言うとおりにする。 皆を解放しろ」
「条件次第では聞き入れましょう」
武器を床に放り投げ両手を上げて降参のポーズをする。
魔法を唱えようにも詠唱に時間がかかり人質はその間に殺されてしまう。
サーレは頼りにならない。 身体強化を行使すれば簡単に助けれるがピエロたちは死ぬ。
勇者と英雄以外の人間は殺めたくはなかったが……もう首をへし折るしか手段はなさそうだ。
「おいそこのチビ、こっちに来い。 お前だけは特別に俺専属の奴隷にしてやるよ。 逆らえば公開処刑だがな」
「……はい、あなた様の命令に従います」
「へへ、いい子ちゃんだ」
相手に聞こえない声で
よりにもよってキュレイピアを指名するピエロの一人。
肌は白くてつやがある小動物のような可愛さ……だが、中身はドロドロの腐った性格だ。 あいつ地獄を見るぞ。
「今日は最高の日だ。 奴隷は手に入るし、金はたんまり貰えるしよお!」
ピエロ側に渡ったキュレイピアは乱暴に片手一つで両手首を掴まれ、バンザイする形で自由が奪われた。
抵抗すれば人質は皆殺し。 暴れることもできずピエロにされるがまましかない。
「上玉だ……髪はさらさらでほのかにいい香りだ。 それと美人ときた。 くく、食べ応えがあるな」
「あとで俺にも分けてくれよ」
「ああ、ヤッたあと回してやるよ」
ゲラゲラと下品な笑い声が教会内に響く。 聞いているだけで不愉快な声だ。
指を加えて待っていてばキュレイピアは犯されるだろう。 仲間じゃないといえ目の前でいたぶる姿は胸糞悪い。
「首も細くて肌もちも一級品、人形みてえだな。 どこぞの育ちのいいお嬢様か?」
「……んぅ」
二の腕から首まで指を這わせて反応を楽しんでいる。
太ももを執拗にこねくり回し、吐き気がする手つきで恥辱をするピエロに憎悪を抱いた。
無抵抗のままなにもかも奪いさられた過去と似ている光景。
……今すぐにぶっ潰したい。 あれこれ理由をつけてる場合じゃないな。 身体強化で一掃するか。
「さてと、まずは小ぶりな胸から堪能させてもらおうか」
「身体――」
「図に乗るな」
「あ?」
「グラビティバインド」
「強……化?」
身体強化の呪文を唱えた時点でピエロ軍団はなぜか地に伏せていた。
えっと、順に追って起きたことを整理する。
身体強化を使おうとする→ピエロの一人が胸をボディータッチをしようとする→キュレイピアの逆鱗に触れて潰される→唱え終えた時にはピエロはうつ伏せ状態
ざっくり起きたことは合ってると思う。
確実に言えるのは魔法でピエロ集団を無効化したことだけわかる。
「太ももまでは我慢できたが……貴様らクソザコカメムシが気安く我の身体に触れるな。 身体を許しているのは我より強く養いたくなる男だけだ。 罰として押し潰される感覚を一日中味わい続けろ」
身体を撫でまわしていたピエロに唾を吐きかけ不機嫌な目つきで戻って来た。
キュレイピアが無効化したことにより、血の海を子供たちに見せなくてよくなったのに感謝しかない。
「災難だったな」
「ん」
「顎を上げてどうした?」
「撫でてよ」
行動原理が不明なことをしてくる。
猫みたいに顎をさすれと? 意味が分からない。
触って元気が出ますとでも言い張るのか。
無視しても同じポーズで待ってるし……めんどくせえなコイツ。
「カリカリカリ。 満足しただろ」
「うん! ありがとうお兄ちゃん」
「てめえ馬鹿にした笑いしやがって。 ぶっ殺すぞ」
どうやら俺のしかめた面を見てストレス発散したようだ。
ほんと性格が悪い神様だよ。
意地でもスルーしておけばよかった。
「シスターも君らも教会から出て行ってくれ。 日が暮れるまで絶対に帰らないように……子供たちを任せましたよ、シスター」




