その11
「ふふ、たのもしい。 君を連れてきて正解だったよ」
「どういう意味だ?」
「まだクエストの内容を説明してなかったね。 依頼達成の条件は、竜の卵を教会まで運び保護することだ」
「なんでまた持ち帰るんだ?」
「そうしないと国が滅びるからだよ。 竜と契りを交わした一族の末裔の話だと……」
昨日、竜を狩ったとサーレが激怒していたのを脳裏によみがえる。
竜を討伐したことにより起きた弊害。
……たく、勇者ってのはクズしかいないな。
「竜は山脈から侵入する魔物が入って来れないよう、魔除けの結界を張ってるらしんだ。 ある一人の者と契りを交わしたおかげで竜は山奥で棲んでいる。 竜の寿命は短くて五十年で老衰してしまうが、灰になる一週間前に卵を産み落とす。 竜の加護を次世代の子に託して消え去り、モダル・ヘルクの人々は安全が守られている。 けれど……」
「サーレと口論していたやつは継承が終える前に竜を倒してしまった」
「その通りだよ。 ほんと腹立たしいよ」
鉄製のグローブがミシミシと音を立て握りこぶしになっていた。
たった一人の身勝手な行動で大人数が危険にさらされるのが怒り心頭なのだろう。
俺だって腹が立つ。 目の前にいたら即刻処刑しているほどに。
「あいつのことは置いておいて……過去に一度だけ竜が継承する前に息絶えた事例があって、竜の加護は失われると人々は恐怖に怯えていたそうだ。 魔物の数は増え絶望に浸り諦めていたその時、急に魔除けの結界が張られたそうなんだ。 山脈頂上に赴けば竜のヒナが孵化し、暗黒の時代は終始した。 つまり竜の卵を守らないと国は終焉を迎える」
「事情は把握した。 敵は誰だ。 魔物か? 人か? それとも……」
「どっちもだ。 王国のやつらが黙ってるとは思えないし、魔物は結界を張る前に卵を割りにかかるだろう。 敵の戦力は未知数だ。 最悪このメンバーの誰かが命を落とすかもしれない危険な任務なんだ……」
立ち止まり振り向いたサーレは真剣な眼差しでこちらを見やる。
「それでも君たちはついてくるかい?」
ここから先は命の保証はできない。 無事に生還できないかもしれない。
引き返すなら今しかないと問う。
自分の身よりも、他者の身を心配するとはつくづくお人よしだ。
踵を返したとこでサーレは一人で戦場に向かうだろう。
一人で向かえばサーレが命落とすかもしれない。
待つ人がいて、身寄りのない教会の子らを助ける良い奴を死なせてたまるか。
答えはもちろん――
「ついていくに決まってんだろ。 今さら怖がって頂上付近まで来れるか」
「サクライはそうだね。 二人はどうする?」
「勇者に気づかいされるほどやわじゃないよー。 我をなめないでもらいたい」
「主人に意思に従うまでです」
「覚悟はしているようだね。 では突入しようか」
参加の意思を確認したのち目的地に足を踏み入れた。
目に飛び込んだ景色は荒廃した灰色の世界だった。 冷たいそよ風がまた寂しさを感じさせる。
殺風景な場所に似合わない色をしたのが視界に捕える。
黒いフードを被った人の姿をした者が大きな卵を抱えて走ってるのを。
「お前たち! 命惜しくば竜の卵を置いていけ!」
抜刀をしたサーレは二人組に距離を詰めていくが遠すぎる。
たどり着く前に逃げられてしまうだろう。
遠距離攻撃でもないかぎり逃走を許してしまう。
「くそ、射撃精度が悪いけどやるしか――」
盗人のいる方向に右手をかざし、なにかを放つ構えをしようとした瞬間、巨大な影が上を横切った。
空を見渡せば鷲の形をした鳥が二人組に襲いかかっていた。
「ひゃあああああ!? だ、誰かだっ……」
片方は嘴の一突きで絶命し、もう一方は逃走を図るも深紅の瞳をした巨大な鷲は尖った鉤爪で引き裂きてしまった。
竜の卵はゴロゴロと転がり割れていない様子。
良かったと安堵したのもつかの間、翼を広げて飛び立ち竜の卵目がけて突進をしている。
卵を守りに来たのでなく、破壊しにきたモンスターか。
ついでに盗賊を殺しただけようだ。
「――身体強化」
ギア一に設定し全速力で竜の卵に守りにいく。
嘴が竜の卵に触れる直前に奪取に成功した。
取った衝撃で割れていないか殻を見るが大丈夫のようでなにより。
「サクライ! まだ油断してはいけない!」
天高く上空から急降下で尖った嘴で竜の卵ごと貫こうする。
油断してはいけないとサーレが注意するが恐れることはない。
この程度の相手ならギア一で対応できる時点でたかが知れている。
俺には魔眼機能が備わっている。
敵の戦闘力を測れる能力だ。 と言っても、魔眼と称していいのかわからない。
なんとなく敵の強さがわかるってだけの感覚だし。