その9
旋回すると同時に鞘から抜いた剣の切っ先を差し向ける。
あと数センチ前なら鼻を斬られていたところだ。
「……黒髪てことは貴様は勇者か! 四勇の新たな仲間の者か!」
「そう憤るなよ。 戦いに来たわけじゃない。 お前と話をしたいだけだ」
素直に衝撃を受けている。
初対面なのにいつもの吃音はなく、スムーズに舌が回ることに対してだ。
激怒してる心情と似ているせいか吃もる気がしない。
勇者が対面だと饒舌になると。 いい経験をした。
「話……だと? 貴様ら四勇と対話する気はない、去れ!」
「まずは落ち着け。 四勇とやら手を組んではないし、それ以前に四勇を知らない。 ただお前と語り合いたいだけの転生者だよ」
「どういうことだ? まさかと思うが……転生したばかりの日本人か?」
「ああ、つい二日前ほどにやってきた」
「はあ、なんだ早とちりしてしまった。 すまない、無礼を働いてしまって」
殺気を向けた剣は鞘に戻し、角度四十五度に頭を下げて謝罪する金髪の勇者。
教会の扉付近からは怯えた子供たちの目は俺の心に突き刺さる。
奴隷を救出した際に向けられた視線と同じものだ。
化け物扱いされるのは……やっぱキツイな。
「自己紹介をしよう。 私はサーレ・アルドルト。 君は?」
「櫻井翔太。 よろしくな、まともな勇者様」
「……ん、ああ」
困惑した顔をしながらも握手に応じてくれた。
握手をしてくれるあたり敵ではないと判断されたようだ。
「サクライ。 話したいとはなにについてだ」
「勇者の在り方についてだ。 サーレにとって勇者はどうあるべき存在だと思う?」
「そうだな……」
瞼を閉じて顎を手に当てながら考え始めた。
サーレの人物像がこれで大体わかる。
「多くの命は救えるだけ救って、困ってる人々を助けれる範囲で助ける、かな」
「……合格だな。 他の勇者みたいに腐ってなくて嬉しいよ」
「ええ? 試されていた?」
口をポカーンとしてて間抜けに見える。
世界を救うと言い出したら馬鹿なやつと、揶揄していたが己の力量をちゃんとわきまえているようだ。
予想では最初の国から頭がイカれた野郎しか出会わないと思っていたけど空振りした。
こんなにも早く正常な勇者と会えるとは運がいい。
それと、他の勇者の情報を持っているようだから都合がいい。
情報を引き出して、クズのようなら掃除対象だ。
「サーレが口にした四勇ってなんだ?」
「そっか。 君は二日目に来たからここの勇者を知らないんだったね。 立って話すのもなんだし教会にある椅子に座ろうよ」
「それもそうだな。 行こうか、ティ」
いつもなら言葉を返すはずのティが無言のままだった。
頷いて合図を送るだけ。 頬も眉も動かさない無表情。
人見知りなのか? そんなわけはないか。
俺にときどき棘のある言葉を投げてくるし……なぜなのか。
「サクライ。 服もボロボロで火傷痕がヒドイけど、その子はどこで会った?」
「近くの森で。 元々この国にいた奴隷らしいが」
「二日前、奴隷……そうか、君はウーズベルト卿が保有していた奴隷だね。 ウーズベルト卿を救えなかったのを許してほしい」
首を九十度に曲げ横目でティに語りかける、 背中はどこか申し訳ない気持ちが溢れてくるのを感じた。
ティは首を横に振り『あなたは悪くないと』喋っているように思えた。
「教会には余ってる包帯やコートとかないか?」
「あとでシスターに聞いてみるよ。 さ、奥で続きを話そう」
オンボロな入口を潜り抜け休憩室であろう部屋にたどり着いた。
これまた今にも壊れそうな円形の木の椅子が四つと。
潰れないか少々不安になるが腰を下ろして座る。
「四勇についてだね。 四勇てのは王国に仕える四人の勇者のことさ。 直属の配下とも言ってもいい。 なぜなら、やつらは王の命令は絶対に従い破壊と殺戮をする悪魔だからね」
「どんな事例がある?」
「サクライが連れている奴隷の元の持ち主、無実のウーズベルト卿が殺された。 王国を内から侵略し、崩壊させる悪党だと王が言い放ち粛清された。 実際は捨てられた奴隷を拾って救っていただけなんだけどね。 良い人を亡くなったものだよ。 あと最近だとハビルコ山脈に棲む竜が狩られたこと。 生物の最上位に君臨する竜がいなくなると生態系がおかしくなる。 事実、凶暴な魔物が王国付近に現れる頻度が多くなった」
「……ちっ、不燃物どもが」
自然と勇者らに悪態をついていた。
一人では飯を食えない奴隷を助け善業をする貴族を殺し、竜を狩ったことで生態系を壊し魔物が増加する。
王の発言を疑いもせず平気でやってのける……か。
四勇とやらは掃除対象に決定だ。 なにがあっても必ず葬る。