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英勇者の天敵  作者: バル33
第二章:守護竜の役目
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その8


 煩悩を捨て去るためにシャワーを浴び、(よこしま)な感情を洗い流してから早三十分頃。

 装備を買うにしろ、道具を買うにしろ、金が必要だ。

 ティにも替えの包帯を買ってくださいとせがまれるし、無銭の今、稼がなければならない。

 例の最高神からの情報でギルドという場所がある。

 魔物の討伐が主な仕事らしいが怪我をした人の治療や雑草刈りと、なにも魔物を命を奪うだけではない。

 簡単に言うならば万事屋(よろずや)だ。 なんでも仕事を請け負っているのがギルドなのだ。

 で、現在出稼ぎのためにギルドに向かっている。


「次は右です」

「了解」


 土地に無頓着(むとんちゃく)な俺に茶色のローブで身に着けたティが指示をしてくれる。

 使い古したあろうローブはボロボロで所々が破けて痛々しい傷跡が見えてしまう。

 不甲斐ない。 早く稼いで包帯と新品のローブを買ってあげたい。


「あ、あいつは……」


 右折すると、前日、噴水広場で言い争っていた金髪の勇者だ。

 ざわっと血が騒ぎだし殺人衝動の波が押し寄せてきた。


「すまないがティ、予定変更だ。 奴を追跡する」

「おおせのままに」


 冷静さを失っているわけではない。 憎悪に支配され動かされているわけでもない。

 金を稼ぐのはたしかに重要だ。 だが最優先させるべきなのは勇者。

 やつらは放置してはならない危険因子。 見過ごすわけにはいかない。


「うんうん。 さぼらず仕事してるね。 神様感激しちゃったわ」

「けっ、わかってるくせに…………。 なあ、キュレイピアさんよ。 仮に勇者を殺さない選択をしても異論はないよな?」

「できれば殺して欲しいけどねえ。 不穏分子(ふおんぶんし)は潰してくれたほういいのだけれど、異論はなし。 君がやりたいようにやればいい。 世界が崩壊しなければ、どう選択しようと我はかまわないよ」


 顎に指を添え眉をひそめながら、不満があるもオーケーのサインがでた。

 殺せと命令されても従わないつもりではいたが一応確認にしてみた。

 ロリっ子がどう反応し、どう判断を下すのかを。

 まだ仲間として信頼しきれない以上、目を光らせるしかない。

 裏でなにを企んでいるのか気になるからだ。


 ……ロリっ子のことは置いといて追跡をされているのに気づかない勇者に注視しなくては。

 噴水広場の一軒にてやつは俺の知る残忍(ざんにん)な赤髪の勇者とは正反対に感じた。

 冷徹無比の人殺しとは違うと。 だからすぐに抹殺しない。

 金髪の勇者は善なのか悪なのか、お前の動向で見極めさせてもらう。

 もしも、あの一軒が演技で嘘だとしたら……その時は命を刈りとる。


 振り向く仕草もなく真っすぐ歩いていく金髪の勇者の後を追うにつれて、建物が古いものばかりが目立つ。

 人が歩く道も精緻(せいち)されてなく雑草がぼうぼうに生えている始末だ。

 先ほど居た場所とは大違いで、ここはどんよりと湿った空気が漂っていて気分が滅入る。

 まるでスラム街のようだ。


「教会なのか?」


 外壁は所々崩れてヒビが入っており屋根も穴が開いているのが目視できる。

 教会とは言い難いが、見た目上は教会だ。 十字架もあるし多分間違ってない。


「ごめんくださーい。 ベルベルさんいますかー」


 十メートルは離れてもうるさく聞こえる声で教会の扉を叩いていた。

 声量すごいな。


「これはこれはサーレ様。 どのようなご用件で?」

「少ないけど子供たちの資金です。 自由に使ってください」

「いつもほんとにありがとうございます。 これで一週間は食べ盛りの子供たちを満足させることができます。 ほら、お前たちもサーレ様にお礼をし」


 シスターらしき服装をした者が手招きすると、ぞろぞろと子供たちが出てきた。

 歳は五~十四ぐらいの子供が「いつもありがとう勇者様」と笑顔で感謝している。

 何人かは勇者にしがみつきじゃれていた。

 慕われているな。 子供たちの顔を見てると微笑ましくなる。


「ごめんなお前ら。 俺に力がないばかりに貧しい生活をさせてしまって……」

「サーレ様、それはサーレ様が悪いのではありません。 すべては王政が」

「いいや、俺が悪い。 好き勝手にやる勇者(どうりょう)を止められず、民を苦しめる国も変えられず、限定の範囲でしか救えない。 力さえあれば解決するのに俺が弱いばかりに皆が幸せになりやしない。 すべては己の力量不足のせいなんだ」


 ……決定だな。 あいつは善だ。

 自分のためではなく他者を救おうとする思いはよく伝わった。

 視野も狭くなく、勇者の異常な行動にも気づいている。

 子供たちに生活費を渡している当たり正常な勇者ではあるだろう。

 あいつと話をしたいので接近することにする。


「さ、サーレ様! 後ろ!」

「何者だ!」

 


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