その6
「神に向かって暴言ねえ……少しは崇める気はないのかい?」
「一ミリもない」
神様すら思ってません。
苛立ちだけの小娘にしか心にあらず。
「はあ、まったく君は……続きを話そっか」
敬意もなしの態度に不機嫌のようだ。
「監視役であるゆえに英勇者共の助太刀はしない。 我が最低限手を貸せるのは今回のみ特別だ。 同行するだけで、君が死にかけても援護もしないから覚えておいてね」
「あくまで傍観に徹するってわけか」
宿代の支払いもこれで最後。 あとは自給自足してくって感じか。
「それと、今は神の力は封じられているから普通の人間とさして変りわない。 食事をしないと空腹になる。 睡眠も取らないと不眠にもなる。 当然ムラムラもする。 どうだい? 崇高なる神とやってみるかい?」
「……あんたに興味ねえよ。 それよか俺に質問させろ」
「欲求不満じゃないのね。 期待してたのにねぇ」
面白おかしいのか、ロリ子はニヤついた面をして足を伸ばしくつろぎタイムのようだ。
刺された相手に情欲がわくはずがない。
さーてと、やっと謎だらけの問題だ解ける時間がきた。
こと細かく聞き出してやる。
「一。 転移したら水中だった。 なぜあんな場所に送り出した?」
「手元が狂ったんだよ。 他の最高神に追われたせいで指定場所間違いちゃった」
「二。 勇者の数は?」
「ざっと三千人ぐらい。 君を含めての数だよ」
「三。 身体強化について。 ギア一の解放だけでも計り知れない力だった。 デメリット及び身体強化能力を詳しく教えてくれ」
「完成された魔法だからデメリットはないよ。 魔力消費効率も抜群に良いから、少量の魔力で大地を砕くパワーと最強の盾にもなる鋼体化。 全神経回路を強化するからメリットしかない魔法だよ。 ああでも、一つだけデメリットがあるとすれば、ギアを上げていくごとに魔力の消費量が多くなることだけかな」
「弱点なしか。 とんでもねえ魔法なこと」
強力な力には代償が付きまとうものなんだが、一欠けらもなしとはね。
誇らしく最高神が最強だと断言するわけだ。
一人の人間には有り余る能力。 一歩違えば破滅に導く魔法。
……末恐ろしいものを手に入れたな。
「四。 この世界の構造について――――――」
少年の質問は日が暮れるまで続いた。
◆
「い……かな……いと」
誰かが絞り出す声で目が覚めた。
五臓六腑が巻き散る血潮の大地がそこに広がっている。
民家は火を放たれて燃え上がっている。
ああ――この光景は前世の記憶だ。
赤髪の勇者に斬り殺されたはずだが、まだ生きていたようだ。
「たす……けな……いと」
血を流しおぼつかない足で、ふらつきながらもどこかに向かっている。
痛みに耐え、息を切らしながら歩いく先は業火に呑まれている一軒家だった。
生存者がいるとは思えないが。
『ダレガ……ダレガ……タスケテ! だれがああああああああ!』
炎を中から絶叫が響き渡った。
生きている人がいた……が、助けることはおろか前世の俺はすでに死に体だ。
救う力なんて残されていない。
なのに足を引きずりながらも直進している。
「まだ……たす……かる」
血反吐しながら燃えさかる炎の家のドアノブを捻り中に入るとそこには、うつ伏せで倒れている人がいた。
左腕は失い、残った腕でなんとか外に出ようと這いずっている。
必死にもがく人に近づくと膝から崩れ落ちた。
ぼやける視界でなにか呟いている。
「た……べろ。 きみだけでも……生きてくれ…………テ」
――――――――
「――は」
窓から陽光で現実世界へと引きずり戻された。
……夢か。 生々しくリアルだったな。
人生最後で誰かと散るのは悲惨で虚しいが、一人でくたばるよりかは数倍マシだ。
でも、地獄の映像は見たくなかったと一言。
「気分が悪い。 シャワーでも浴びてスッキリさせるか」
上体を起こしよだれを垂らしている最高神をチラ見し、「ほんと神かよ」と呟きながら風呂場のドアの前まで赴く。
扉を潜り抜けるとそこにはティが背を向けて立っていた。 裸で。
しまった! 回れ右!
「すすすまない! ノックもせずに入って……」
「なにを慌ててるのですか? それよりこの道具の使い方を教えていただけませんか?」
恥じる様子もなくガシャンとシャワーヘッドを手に取る音がした。
振り向けないかつ、使い方を教えるのは心臓がバクバクして無理だっての。
はじけ飛びそうだよ。
「オーケーオーケー。 それの使い方は例のキュレイピアさんが教えてくれる。 だから風呂場を出ずに待機してくれ」
「かしこまりました」
さささっと早歩きでロリっ子神様の元に迅速にいく。
気持ちよさそうに眠るとこ悪いが、肩を大きく揺らし起こさせてもらう。




