その5
神々とやらは俺に政治でもしろと命令しているのか。
最終学歴高校一年生の人間に国を治めろとか無理難題を押し付ける。
とんでもねえ命運を担ってしまった。
「一つ宣言しておくが、人を治める能力は皆無だからな。 低知能プラス知識も足らない」
「くあははははは! 君にそんな期待はしてないよ。 ただ勇者共を掃除してくれれば解決する問題だからさ」
「本当に抹殺するだけで救済できるとは、にわかに信じがたいけど」
「先ほども喋ったけど、勇者システムを導入してから多くの神が消滅している。 ちなみに消滅していない世界は勇者の数が少ない所だけだ」
「要約すると数が多い世界は必ず消滅している。 で、あってるか?」
「大正解」
人差し指と親指で丸をかたどりウィンクを飛ばしてくる。
初見でコイツの性格を知らない人なら可愛い印象が映るだろうな。
外見はいいが中身がクソなので、あざとくしか感じない。
「いろいろと疑問点はあるけど、勇者をかたずければいいんだな?」
「そそ。 では一旦お開きにしましょうか。 汗をかいてべとべとで気持ち悪いしシャワー浴びてくるから」
「いってら」
「覗かないでよ?」
「てめえの絶壁に興味あるか! さっさと風呂場にいけよ」
「……レディに対して容赦ないね、君は」
ふくれっ面で部屋の奥へと消えた。
風呂まで設備してるとは民間のホテルそのものだな。
さて、ロリっ子が席を外している今がティに訊くチャンスだ。
「ティ。 あいつの言葉は全て真実だったか?」
「それが直感が働かなかったのです。 嘘をついているのか、悪意があるのかも、読み取れませんでした」
「能力を封じられた形跡はあったのか?」
「いいえ、全く。 触れられもしませんし、魔法を受けてもいません。 おそらく彼女自身に精神干渉を拒む魔法を付与していたのかもしれません。 神とやらの会話の時のみ感じ取れませんでしたから」
「いつでもオンオフ可能ってわけね。 ますますロリっ子の言葉を鵜呑みにはできんな」
天然のように装っておきながら、ティの能力に気づいているとは侮れないやつだ。
心を読み取れないよう魔法で防ぐ術があるとは、伊達に最高神を肩書ではない。
「こう休憩すると一気に身体がだるくなるな。 喉も乾いたし……ティも飲み物いるか? ついでに取ってくるよ」
「お願いします」
「あいよ」
ホテルを模倣してるなら冷蔵庫がどこかに置いてるはずだ。
四隅を見渡すと白色の物体がちょこんと座ってました。
冷蔵庫の傍まで歩き、ドアをオープンすると冷気がふわりと襲いこむ。
中身をチェックすると、水が三本にオレンジジュースも三本。
酒も少々あり、三食分のサンドイッチに果物の盛り合わせが一つと。
えらい豪華なこと。 高級ホテルらしいから当たり前なんだが……飲み物をどれにしようか。
お酒は論外で、オレンジジュースは喉がガラガラの状態で飲んでも逆効果だろうから、水に決めた。
水分補給には、やはり水一択に限る。
容器に入った水を二本手に取り、コップも忘れずにティの元へ運ぶ。
テーブルに着いたとこで容器の蓋を開けてコップに水を二人分注いで、飲む準備はオッケー。
ここで水を注いだのに飲もうとしない、ティ。
どうしたのだろうか……お先に飲ませてもらう。
「普通の水だ。 美味しくもなく、不味くもなく」
「毒はなさそうですね。 いただきます」
だから飲まなかったのか!
仲間に先に飲ませて毒見させるとは怖い奴だ。
「喉が生き返りますね。 ……それにしても無色透明の器は不思議な物ですね。 固さも上々で、均一な形も芸術的で惚れ惚れします」
「ティは触れるのも見るのも初めてか。 今、持ってる器はガラスコップってものだ。 俺の世界にごくありふれた代物だよ」
「異文化の代物ですか。 すごいものですね」
水を飲み切ったガラスコップをいろんな角度で眺めては、触ったり舐めたりしている。
興味津々のようだ。 舐めてる場面は目を逸らさせてもらうが。
「もう一杯いかがですか?」
「じゃあ、お願い」
注ぎ方を学んだのか静かにコップに水を入れてくれる。
コップの水をゴクゴクを喉に流し込み、もう水分補給は十分だ。
ティもこれ以上飲む様子はない。
会話することなくボーと時を過ごしてくと、風呂場のドアが開く音がした。
どうやら風呂から上がったみたいだ。
「ずっと見つめ合ってるとか仲良しカップルかよ」
「だから俺とティはそんな関――」
バスタオル一枚で胸から足首当たりまで隠す、風呂上がりの姿に言葉を失った。
なんつー格好で歩いているのか。 男がいるのに警戒心はないのかよ。
羞恥心もなさそうだ。
「あれあれー? まさかのまさかだけど、見惚れちゃった?」
「ぶちのめすぞロリ神」
反射的に悪態を吐いてしまった。
色っぽくてもその言動でマイナス評価だ。