その4
ドアは自動で開きとても画期的。
多少なりと元の現実世界の文化が浸食してるのが伺える。
受付の窓口で金貨らしき者をロリっ子が渡し会計が終了し、店員さんから真ん中にある筒状の透明ガラスの所に案内された。
乗っていいのかわからず戸惑っていたが、ロリっ子は慣れた動作でポール状の空間に入る。
危険なことはないとわかり、ティと同時に乗り込むと、いきなり上昇し始めた。
足元を見れば透明な板で俺たちを持ち上げているようだ。
急発進にガラス板のエレベーターが怖いのですが。
そんな不安は裏切り、無音のまま宿泊する部屋の階に泊まったようだ。
エレベーターを降りた後は、暗証ロックキーであろう鍵を穴に差し込むとガチャリと解除された。
扉を潜るとダブルベットが三つに、円形のテーブルが一台、椅子が二脚と、なんとまあ前世界のホテルに模様した部屋なこと。
「はあ~、至福だあ~」
ゴロンゴロンとベットの上で暴れているロリっ子。
俺はベットに向かわず椅子に腰をかける。
ティも真似して椅子に座った。
「うんうん。 防音は完璧みたいだし本題に入っか」
いつ音が漏れない部屋だと調べたのか聞きたい。
「この世界の命運は君に託されたよ、桜井翔太」
「意味不明なんだが」
「経緯を話すと……」
世界を救う重い使命を俺に託されても正直困る。
勇者と英雄を屍にするのが俺の目的だ。
寝そべりながら会話されても真剣みに欠けるなあ。
「妹のためにあらゆる重罪を犯したのさ。 他の神が管理する世界の侵入、魂の強奪及び改変、無断の転移をね」
「妹のためって……俺の聞いた内容と違うが?」
「ああ、そう話を通しておくとすんなり納得するだろうから嘘を吐いたんだ。 ごめんね」
「自分の利益しか考えないサイコパス野郎と思ってたが意外だな」
「決めつけはよくないよー。 妹のためなら鬼でも悪魔でもなれるのがモットーだからね、我は」
パタパタと両足を緩やかにばたつかせ、ご機嫌な模様。
サイコパスなんて躊躇いなく本人に言葉をぶつけたら激怒するもんだと思うが、ロリっ子は気にしないタイプのようだ。
しかし、他人のために重罪を犯してまで行動するとは……前の世界じゃ、そんな人間いなかったよ。
「で、罪を犯す神なら今までいなかったわけじゃない。 問題なのは最高神が天界のルールを破ったのがキモなんだよ」
「最高神? 例えばゼウス、オーディン、シヴァとかの神々部類なのかロリっ子は?」
「ロリって……その認識であってるよ。 異なる点は君たちが知る神々は存在しないとこだね」
「え、まじかよ」
逸話で有名な神々がロリっ子の住む天界とやらにいない事実に驚嘆。
じゃあ神とは何者なんだよ。
神という言葉はどこで生まれ、人類は知り得たのか。
謎が多いこと。
「第一に下界に神が降りるわけないし、天界規約違反だ。 仮にルールを破り降りたとして人間にバレようが、その世界を管理する神が人間の記憶を改ざんする。 君たちが知る神は人間の妄想だよ。 ま、それでも神が存在するまで突き詰めているのは末恐ろしい想像力だけどね」
「疑問が一点。 なぜ神の存在自体の記憶を改ざんしない?」
「未確認飛行物体と同じ原理だよ。 実際にいるとは信じてないけど、もしかしたらいるかもしれない。 半信半疑な状態だからほっといているのさ。 記憶の改ざんにもエネルギーを消費するから、無駄な部分は手を加えないってのも理由の一つだけど」
半分は納得はしたが……なんだか釈然としない。
本当に人間の想像力だけで神の存在を認知し、幾数の神の物語を創作したりするのかと。
基本人は、見たものや体験したものをベースに新たな物語を作る。
ゼロからではなく原点となる物がなければ生まれない。
例外もあるっちゃあるが、ほとんどはなにかからの影響を受けている。
ロリっ子の言い分は全て鵜呑みにはしないほうがいいな。
あとでティにやつの心情を訪ねておこっと。
「路線がずれたね。 最高神である我が禁忌を犯したことで、我を含む七人の最高神が極七神決議案だっけ? ていうのを緊急で開いてね、決まったのさ。 勇者召喚のシステムを導入してからは、神々が多々消滅する傾向が見受けられる。 これを機に実験を行う。 キュレイピアが選抜した人間が世界を救えるのかどうかを。 監視役としてキュレイピアはその者の最後まで見届けよと――判決が下ったのさ」
「投げやりじゃねえか。 勇者召喚システムとやらを廃止すれば解決じゃないのか?」
わざわざ実験しなくても原因である勇者召喚のシステムを無くせばいいのに理解しかねる。
「議題に何度も何度も上げたけどねー。 すっっごく頭が固いのよ。 岩盤かよってくらいさ。 他の最高神はそんな思考停止野郎ばかりさ」
「ふー…………たかが人間一人で世界が救えるとは思えんがな。 人間を救うって具体的にどの条件なんだよ?」
「ええっと、全人口の十パーセントを下回れば破滅なんだよ。 つまり十パーセント以上保てば救済完了なわけ」