その2
寝ぼけてたんじゃないかと錯覚するほど身体に熱が巡っっていく。
この感覚……間違いない。 やつらは勇者だ。
魂は正直だ。 ずっと頭の中で叫んでいる。
――今すぐに殺せと。
憎悪が俺の意思を跳ねのけあやつり人形みたく勝手に操作される。
身体の自由が効かない。
睨み合っている二人に歩んでいく。
ゆったりとした徒歩で確実に距離を縮める。
あとのことはいいや。 天国に送ってから考えればい――
「勇者になにをするつもりですか」
「……あ、いや……」
手首をティに掴まれ我に返った。
気が動転していたのか、錯乱してたのか……わからないが正常ではなかっただけは断言できる。
あと先問わず抹殺しようとしていた。
冷静になれ。 今、騒ぎを起こせば食料も買えなくなり、後々面倒になる。
静まれ。 勇者を殺すにはまだ早い。
万全に整ってからだ。 怒りは底に閉まっててくれ。
「ありがとう、ティ。 あと一秒遅かったら俺は……やつらの首をはねていた」
「異常でしたので静止させたのは正解でした。 狂気に取りつかれたのはしょうがないことです」
上目でじっと視線を飛ばし安堵していた。
てっきり怒ると思いきや、しょうがないと片付けられたのに驚愕。
ティには感謝してもしきれないな。
もしもティがこの場にいなければ今頃、汚い赤のペンキが落書きされてただろうから。
普段の俺に戻ったことで勇者共に頭を向ける。
『竜をなぜ狩った! 不必要な殺生は避けるべきだろ!』
『ぎゃーぎゃー、うっせえなあ。 王様からの指示で狩ったから不必要な殺生じゃないだろ。 それに、竜は人に被害をもたらした。 人に害をなすものは始末する決まりだ』
タイミング良く口論が始まったな。
勇者同士の会話はどんなものか観察させてもらう。
『竜はたしかに市民に傷を負わした。 だけど、それは竜のテリトリーに踏み込んだからだ。 自分の家を荒らされたら、攻撃されて当然だ!』
『あーはいはい。 どのみち人を殺める竜はほっとけないのが王様の判断だ。 人間に逆らった罪だよ。 忙しい身なんでな、じゃあな』
『待て! 話はまだ……』
茶髪の銀スーツの勇者は静止の呼び声をスルーしてどこかへ去っていった。
腹立たしいばかりの表情で己の太ももを叩く金髪の勇者。
口喧嘩騒ぎが消沈し、黙って見ていた人々はまた楽しそうに会話を始める。
……正直驚いた。 勇者は全てクズの集まりかと認定していたが、まともな思考を持つ勇者もいる事実に。
自演の可能性も否めないので、まだ善良とは確定してないが、改めて考えを見直さないとな。
世界にとって有益になる勇者は残す方針にするとしよう。
そうと決まれば噴水近くにいるやつに接触し確かめようか。
「白マント野郎に話しかけにいくぞ」
「カッとなって殴らないでくださいよ」
「善処します」
先ほどの強烈な憎悪はないものの、勇者が視界に入るだけで血が騒ぐ。
気を抜けばバーサーカーにでもなりそうだ。
できるだけ無心で進むことにする。
『おちゃーん! フランクフルトもう一本頂戴!』
「…………気のせいか?」
うざったい記憶が再生される聞き覚えのある声。
拘束をしてはケラケラ笑い、人を馬鹿にする異世界に送った張本人の声がする。
偶然同一の声帯をした女の子に違いない。
屋台の方向に目を細めて凝視する。
あー、金髪ロングの幼い体型の子がいますね。
たまたま身体つきも、髪の色も一緒なだけだよな。
ロリっ子が異世界に渡ってくるとは思えないし。
「固まってどうしたのですか?」
「懐かしい人らしき者があちらの方にいるんだよ」
指をさしてティに教えてあげる。
美味しそうに口にほうばるロリっ子に無反応。
子供たちの時は反応してたのにロリっ子さんには表情一つ変えずとは……嫌なやつだと感じ取っているのだろうか?
と、ここで視線に気づいた模様の金髪少女。
あ、やっべみたいな顔をすると全速力で路地裏に走り出した。
うん、俺の勘違いじゃないようなので、捕まえて一から百まで聞き出してやるわ。
「ティ、少し待機してくれ」
「どうぞ、いってらっしゃい」
「――身体強化」
ギア一設定し、ロリっ子に目がけて街を駆け抜ける。
人を避けながら爆速で進むと、あっという間に追いつき服の襟をグイッと摘み上げる。
宙ぶらりんで首を掴まれた猫みたいな絵面だ。
「人違いだったら申し訳ないけど……君は俺の知っている異世界に送った人かな?」
「し、知らない。 人違いじゃないかな?」
「質問を変えるね。 俺を見た瞬間に逃げたのはなんでかな?」
「いやね、目つきが怖かったから」
「ふーん、そっかそっか」
冷や汗をかきまくりで、目がすごい泳いでる状態でまだ白を切るつもりか。
では、強硬手段だ。