プロローグ
英雄・勇者・ヒーローと称される人は嫌いだ。
おいおい、なぜ嫌いなんだジャパニーズボーイ? と、聞かれれば”わからない“と返答する。
物心ついた時からそうなのだ。
始めに気づいたのがテレビで放送していたヒーロー戦隊もの。
見ればとてつもない嫌悪感に包まれたのが最初。
たまたま気に入らなかっただけと時間を置き、違うヒーロ戦隊ものを見ても結果は同じだった。
アニメが受け付けないだけかもと英雄が題材の小説を読むと、これまた激しい嫌悪感が押し寄せた。
では漫画ならどうかと試し読みすると吐き気がした。
なら、実在する人物だとどうなるか試しても……嫌で仕方なくて堪らない。
底から湧き上がる負の感情の理由が未だに不明のままだ。
はぁ……こんな過去の記憶を思い出した原因は友人が渡した『勇者召喚で呼ばれてからはチートスキルで世界を渡りウハウハな人生を楽しみます』……という小説を受け取ってしまった。
いらないと何度も断ったのだが、鼻水を垂らして涙を流しながら「受け取ってくれ!」と、頼まれたら断れ切れなかった。
しぶしぶ鞄に入れたのちに、道中でちょこっと読んだら拒絶反応が起きた。
タイトルだとか……内容がだとか……関係なく、勇者ものだったからだ。
もう全力で投げたい気分に包まれたけど、なんとか感情を抑え込んで小説を鞄にしまい今に至る。
「いつになっても克服できねえなぁ」
快晴の空に見上げ一人言を呟く。
こんないい天気になにを言ってるのか。
……と、視線を戻すと前方に人がいる。
さっきまでこんな人いたっけ?
まあ、いい。 曲がり角もない直線の道なのに気づかない時点でどうかしている。
にしても、金髪ロングヘアーのちっちゃい子が陳腐な場所にいるとは珍しいな。
海外の人が立ち寄る観光地でもないし、歴史的遺産もない。 ……てことは迷子か?
迷子なら困ったなぁ。 英語が話せないので意思疎通できない。
ほっとくわけにはいかないし、一応声をかけてみるか。
「ハ、ハロー……?」
反応なしと。
声が小さかくて聞こえなかったのかな?
次は声量を大きくしますか。
「ハ――――え?」
ドスッと鈍い音が鳴り、唐突に、左胸に衝撃が走った。
何が起きたのか理解するのに数秒かかったのち、痛みで我に返った。
淡く輝く蒼い物で刺された。 目と鼻の先にいる奴に。
「あっ……が……ぐく」
体験したことのない激痛に意識が途絶えそうになる。
視界は霞み道路には血の池ができあがっていた。
「て、んめえ……!」
笑ってやがる。 よろめく俺を見て。
見下しやがって……くそ、朦朧とする。
「こ……の……」
襟を掴み顔面を殴ろうとするが腕が上がらなかった
一発ぐらい殴りたいのに反撃する力も沸いてこない。
「…………かっ……」
魂が抜けたように倒れる。
人生の半分も生きてないのに殺されて終わりなのか。
奪われるだけの人生だったのか。
ああ……ちくしょう……もう…………だめ……だ。 い……しき…………が――――――――。
「くふふ、準備が整ったね。 マイルームに戻ろうか」
不敵な笑みを浮かべる少女は、光の粒子になり地上を去った。
少年の遺体と蒼いナイフは時が経つにつれて塵になる。
現場には血も肉も凶器も灰になり、残されたのは制服と鞄。
世界から完全消滅したのだ。
少年の人生の幕が終わった日であると同時に始まりでもあった。