5-糾弾③
しかしながら、リリアーネの必死の訴えもヴィルフレムには届かなかったらしい。
彼は彼女から視線を逸らさず、微かに片眉を上ると冷ややかに聞き返した。
「見当違いも甚だしい。
勝手な憶測で物事を判断するな。
まず自分の仕入れた情報を精査したまえ。
そもそも何故私の行動を逐一君なんぞに訂正せねばならんのだね?」
「…憶測??
そんなわけないじゃないですかっ!!
その村で生まれた平民から、話を伺ったのですよ!?
これは純然たる事実です!!」
ああ、此の期に及んでまだ彼はしらばっくれる気なのだろうか。
…そう出来ると、思って居るのだろうか。
時間が経つにつれ、彼に対する気持ちがどんどん冷めていくのが分かる。
彼が村で何を行なっていたのか、私は孤児院でリリアーネと共に知り合った、弁護士のロヴェルから嫌になる程聞いていた。
曰く、嫌がる僧侶から無理矢理何資料を奪っていった。
曰く、宿泊する場所を居心地が悪いとして、急遽別の場所を用意させた。
曰く、凶作にも関わらず豪勢な食事を用意させた。
等々。
ともかく、私は目の前にいる彼が、どんな人物に成り下がったのかを自分のことの様に細かく把握していた。
こうした事実を目の当たりにするまで、少しだけ、、ほんの少しだけ、、、私は貴方を信じていたのだけれど。
それももう、完全に消え去ってしまった。
私は距離の離れた壁際に腕を組んで佇む両親と兄に、これからを考えるべくチラリと視線をやった。
そこでは既にヴィルフレム殿下に見切りをつけた貴族達がこの国で二番目の地位である父に取り入るべく、不自然に人が集まっていた。
本当に、もう彼に未来は無いのだ。
私は僅かに感じた胸の痛みを、これも国の為であると、仕方がない事だと、気付かない振りをした。
もう話は終わりだと言わんばかりの彼の態度に、まだ食ってかかろうとするリリアーネを押し留める。
「リリアーネ。
もう良いわ。こんな人ともう一緒に居たくなど有りません。
婚約を、破棄致します。
ただし、1つだけお願いを聞いていただけますか?」
「聞くだけ聞いてやろう。」
「私が、他国へ行くのを許して欲しいのです。」
「そうか。」
「ええ。お許し戴けます?」
元々ヴィルフレムが持ち掛けてきた要求だ。
それに少し色が付いても何も問題あるまい。
「出来ればそうしよう。
しかしながら、まだ話は終わっていない。」
許可を得られた事に、ほっとすると同時に嫌な予感がした。
これ以上何を話すと言うのだろう。
彼に対して最早嫌悪感しか抱けない今、いち早くこの場を去りたかった。
「手早くお願い出来ますか?
私、準備を整える為に早急に御前を辞したいのです。」
「すぐにすむさ。」
そう言うと彼は何事か王家の騎士団に合図を送ると、先程とは打って変わって、満面の笑みで私に話し掛けた。
「シャーリー、学校を作ろうとしているそうだね。」
「ええ、まぁ。」
婚約破棄が成立した今、敬称抜きで呼ばれた事に苛立ちを感じる。
それに、急な話題の転換についていけない。
現状と一体何の関係があると言うのだろう。
リリアーネ以外の学友には話した事が無かった筈だが、何故彼はこの事を知っていたのだろうか。
まさかマリアンナ様にそれを引き継げとでも言うのだろうか。